白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
──久しぶりに聞く計佑くんの声なのに、『まだ忙しい』とか『あまり映画は……』
みたいな拒絶、されたら怖いもん……
……そんな、相変わらずの打たれ弱さの虫が顔を出したからだった。
果たしてどんな返事が帰ってくるかと、ビクビク、ドキドキしていたら、すぐに返信があった。慌てて確認する。
──先輩さえ良かったら、明日にでも。
──映画が終わったら、先輩へのプレゼント、一緒に買いに行きませんか?
──先輩に聞いて欲しい話もあるんです。
そんな内容が含まれたメールには、
──うっ、うわぁああ〜〜〜!!
──ホ、ホントにっ!? うっ、嬉しいっ!!
──こっ、こっ、これはもしかしてっ……!!??
雪姫を三重に喜ばせる点があった。
1つ目、明日には計佑に逢える。
もう夏休みも残りは少ない。確かに付き合ってもらえるとしたらここ数日の間しかなかったのだけれど、
断られる可能性にビクビクともしていただけに、予想以上の早い実現が本当に嬉しかった。
2つ目、計佑からのプレゼントが貰える。
計佑が初めて白井家を訪れた日に、約束してくれた事。
その後のアリスとのドタバタで、もう有耶無耶になってしまったかとも思っていたのに、
ちゃんと計佑は覚えていてくれた。
3つ目、そしてこれが──1番大きく、雪姫の心臓に嬉しい悲鳴を上げさせた。
──あ、改めてお話とかっ……そ、それってもしかしてっ、と、とうとう……!?
デートをオッケーしてくれて、
プレゼントも贈ってくれると言ってくれて、
そして最後には、改めて話がある……とくれば。
恋する乙女が妄想するその答えは、一つしかなかった。
──うわ〜〜〜〜!! うわあああああ!!
嬉しさのあまり、しばらくの間ベッドの上を転がりまわっていたけれど、
──……って、あ、あれ? デ、デートって……これが初めての計佑くんとのデートっ!?
島での二人きり(雪姫視点では)での探索も、雪姫にとっては特別な時間だったけれど。
あれをデートとは流石に言えない。
「たっ、大変……!! 明日は、すっごく特別な日になるんじゃない……!!」
大好きな男の子との初めてのデートで、
そして(ちゃんとした形では)初めてのプレゼントを贈ってもらえる日で、
……何よりも、とうとう応えてもらえるかもしれない日で……!!
「どっ、どうしよう……! 明日は、めいっぱいオシャレしていかないと!!」
慌てて起き上がり、ベッドから立ち上がろうとして──その前に、ヘッドボードの小物入れを開く。
「……ふふっ。明日、キミの弟か妹がやってくるんだよ……?」
計佑の命を守ってくれた、計佑からの初めてのプレゼントを見つめて。少女が幸せそうに微笑む。
やがて満足したのか、小物入れを閉じると鼻歌交じりに部屋を横切り、
クローゼットを開いて服を物色し始めたのだけれど、浮かれ少女は突然、ピタリとその動きを止めた。
──……あれ……ちょっと待って。今からこんな準備とかしてたら……!?
明日の準備は入念に行っておきたい。
けれど、ベッドの上に何枚も服を引っ張りだしてきている所や、
浮かれきっている自分を、あの "小悪魔" に見つかったりしたら。
──意外とカンのいい小悪魔は、きっと事情を見抜いてきて、そしてニンマリと微笑みながら、
『私も、久しぶりに "おに〜ちゃん" に会いたいな〜?
……ついてってもいーい?
あ、おねえちゃんじゃなくて "おに〜ちゃん" に訊いてようかな〜。
……優しい "おに〜ちゃん" だったら、きっとオッケーしてくれるんだろうな〜?」
そんな風に『嫌がらせ』をしてくる未来が脳裏に浮かんで、ゾクリと背筋を震わせた。
「だっ、だめよ!! 明日は、絶対にダメなんだから!!」
……ここにはいない少女の、それも妄想でしかない姿に対して思わず叫んでしまう。ところが、
「……ん〜? どしたのおねえちゃん、随分大きな声出して。何がダメなの〜?」
突然ガチャリとドアが開いて。
まさに今、雪姫が最も恐れていた相手──アリスが顔を出してきたのだった。
そのあまりのタイミングのよさに、雪姫の頬がひきつり。
「えっ、あ!? な、なんでもないワヨっ!?
で、電話よ電話。カリナが、またバカな事言い出したもんだから、つい……!」
「……ケータイ、ベッドの上にあるよね?」
咄嗟に繰り出した言い訳は、あっさりウソだと見ぬかれそうで。
「あっ、あっ、頭にきたのよ、すっごく!
それでっ、電話切ってすぐに、ベッドに投げつけちゃったのっ」
今更後には引けず、そんな風に説明してみせる少女。……けれど、
「……ふ〜ん。それじゃあ、なんで今、服を引っ張りだそうとなんてしてるの? どっかにお出かけ?」
「あっ、えっ……そ、そうなの! 明日、突然仕事が入っちゃって。
今回は大事なお仕事だから、気合入れてっ、今のうちに服とか選んでおこうかなって……!」
「……へぇえ〜〜〜。おねえちゃんが、仕事にそんな前向きなのって初めて見るけどねぇ〜〜〜……??」
アリスが完全にジト目になって。雪姫はダラダラと脂汗を流し始めて。
……やがて、アリスが大きくため息をついた。
「……おねえちゃん、いくらなんでもウソ下手すぎ〜……
ほんと、けーすけのコトになるとダメダメになっちゃうよね〜。
そんなに心配しなくても、デートの邪魔なんかしないよ〜?」
「なっ……!? え!? やっ、違っ……」
恐れていた通りあっさり見ぬかれてしまって、慌てる雪姫だったけれど。
アリスの反応は、雪姫の予想とはまるで違っていた。
「ホントのホントに邪魔なんてしないし、イジメたりもしないから。安心してってば〜」
苦笑しながらそんな事を言ってくる。
「……え……? ほ、ホントに……? で、でもだって……」
計佑絡みでは、散々──本当に散々、徹底的にからかい続けてきていたのに。
……そんな不信感が拭いきれなくて、
──……そうだよ! まだ安心なんて出来ない!!
今までだって、コロリと態度をひっくり返したりしてみせたりで、こちらを翻弄し続けてきた相手なのだ。
今回のこれだって、こちらが信用して安心した瞬間、きっと裏切ってみせるのだ。
──……そう、例えば。
私にはこんなコトを言っておいて、裏では計佑くんに連絡をとったりして。
私にはナイショで、いきなり待ち合わせ場所に現れるとか狙ってたりするんだ……!
そんな疑念の元に、高3少女は『う〜〜〜っ!』と唸って小学生モドキを睨みつけて。
睨まれた相手がズサっと後ずさりした。
「ぜ、全然信じてくれない……!? こ、これはオオカミ少年状態……っ」
愕然としていたアリスだったが、やがてコホンと空咳をつくと。
「……ほ、本当に今回は何もしないから。だってさ〜……?」
「……だって、なに……?」
上目遣いで伺ってくるアリスに、ジト目少女が先を促すと、
「今回ばっかりはさすがに、ねえ? 久しぶりに会えるんでしょー?
最近のおねーちゃんの様子を思えば、
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON



