白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
今回ジャマしちゃったりすると、なんかも〜、おねえちゃん本気で泣きだしそうなんだもーん」
「んな!? ……ば、バカにして! そんなんくらいで、本当に泣いたりなんてしません!!」
またからかわれたと考えて、カッとなった雪姫だったけれど、
アリスのほうは呆れた様子でまた溜息をつくと、ケータイをとりだして見せて。
「……へぇ〜……あ、そうだ。
こないだの、おねーちゃんが例の壊れたおもちゃに色々話しかけてるトコ、
録画しといたヤツ。あれ、けーすけに送ってみてもいーい?」
「なっ!? ま、まだ消してなかったの!? いっいやあっ、絶対やめてっ!!?」
……計佑に会えない寂しさが募って、随分と恥ずかしい言動をクマちゃんに繰り出していた日の一件。
アレを動画でそのまま計佑に見られるなんて、いつぞやのお休みキスを知られた時以上に恥ずかしい……!!
絶対に阻止しなければと、慌ててアリスに駆け寄ろうとして、するとアリスは素早くケータイをしまってみせた。
「……こんなんくらいで、もう涙目になるクセに。
そんなんで、よくもまあ強がれるもんだよね〜、おねえちゃんも……
私も大概強がりだと思うけど、それでも今のおねえちゃんよりはマシだと思うよ〜?」
「……くっ……うぅう……!!」
小学生モドキにジト目で呆れられて、悔しさに唇を噛み締める。
……確かに、正直なところ。
今回のデートばかりは、もし邪魔されたりしたらアリスの言う通りになるだろうという、
情けない自信(?)もあって。だからもう、唸るしか出来なくなってしまった所で、
「う〜ん……これは言いたくなかったんだけど。
……でもコレ言わないと、おねえちゃん、もう信用してくれなさそうだね……」
アリスが悄然と俯いた。やがて少しだけ顔を上げると、
「……あのね、もし邪魔したいと思ってても、明日からはそんなヒマなくて無理なんだよね……」
どこかビクビクとしながら、そんな事を言ってくる。
「……え? どうして。何か予定でも入ってるの?」
アリスが不安そうに自分を見つめてくるなんて久しぶりの事だ。
軽く驚きつつ尋ねると、アリスは人差し指をツンツンと突き合わせながら、
「……夏休みの宿題、全然やってなくて。もう遊んでるヒマなさそうなの……」
怒られる事を覚悟した様子のお子様が、上目遣いでそんなセリフを口にしてきて、
「……全然やってない!? 嘘でしょっ、何やってたの!?
あれほど計画的に進めておきなさいって言っておいたのに!!」
──そしてお子様の予想通り、雪姫の雷が落ちた。
久々に威厳を取り戻した少女からの大喝に、アリスがひっと首をすくめて。
「とっ、とにかくそういうワケだからっ、明日ジャマしちゃうとか、そもそもムリなの。
だっだから、安心していーんだよっ?」
ジリジリとアリスが後退りしていくが、
「……ちょっと待ちなさい、アリス」
ガシリとその肩を捕まえられて。
「……さっき、『明日から "は" そんなヒマなくて』って言ったわよね? ……どうして今日は違うの?」
雪姫に至近距離からジロリと睨みつけられ、「うっ」とアリスが呻いて。
「……今日までは、遊ぶ予定が……」
「何言ってるの!! 今すぐ、宿題始めなさい!」
「やっ、だって!! 今日は友だちと約束してるのぉ。あ、明日から! 明日から本気出すからぁ!!」
──そんな風に、ひとしきり少女たちが騒ぎあって。
久々に再逆転出来た立場を満喫した雪姫は、やがて最後に
「明日は、本当に、絶対に! 邪魔しないように。……そうしたら、宿題手伝ってあげるから」
そんな交換条件を出して、それにアリスが一も二もなく頷いて。
今度こそ何の憂いもなくなった少女が、改めて、ニコニコと上機嫌で明日の準備を始めるのだった。
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雪姫が一日千秋の思いで待ちわびていた、デート当日。
久しぶりに会った計佑は、寝不足なのか少し疲れている様子だった。
見たい映画をその場で初めて知らせると、どこかつまらなそうな態度を見せる少年に
不満を覚えたりもしたけれど、男の子をラブストーリーの映画に付き合わせようというのだから、
これは仕方ないのかもしれないと諦めて。
そしていざ始まった映画だったが、これは期待以上の面白さだった。
正直、主演女優を目当てに見に来た部分が大きかったのだけれど、
話の筋やカメラワークも素晴らしくて、いつしかうっとりと魅入ってしまっていた。
ヒロインとその恋人が、手だけで愛を語り合うシーンで雪姫も感極まって、
自然、計佑の手へと自分のそれが伸びて、
……その手を避けられた。
瞬間、陶然としていた心地から、一気に引き戻されて。
それどころか、目の前が真っ暗になっていく気がした。
もはや、映画なんて全く頭に入ってこなくて、気がついたらスタッフロールも終わって、
場内に明かりが戻っていて。逃げるように映画館を後にした。
追っては来てくれた計佑に、矢継ぎ早に話しかけた──涙声で。
なのに、自分の話には答えてくれずに、何かを切り出そうとする少年の声を──必死に遮った。
当然だった。その先なんて、絶対に聞きたくなんてなかった。
なのに、聞きたくないと全力で叫んだのに、彼は聞いてくれなくて。
そして、
「ごめんなさい」
……少年のその言葉で、雪姫の恋は終わりにされてしまった。
「──いやああああ!!!!」
認められなくて、目を見開いて叫んで、──目の前が暗がりだと気付いた。
「……んぅ〜? おねえちゃん、うるさいよぅ……」
隣から、寝ぼけた様子の声が聞こえて。首を回すと、そこにはアリスが眠っていて。
自分もまた、横になっている事に気付いた。そこでようやく、今のが夢だった事も理解出来た。
……けれど、
──……ゆめ……本当に……今のが夢……!?
未だに、心臓がドクドクと悲鳴を上げていた。
あまりに鮮明な……正に現実としか思えないほど存在感のある夢は、生まれて初めてだった。
たった今まで、あの場にいたとしか思えなくて。
今この瞬間こそが夢だと言われたらそう納得出来てしまいそうで、どちらが現実なのかと戸惑うくらいだった。
震える手を伸ばして、こちらの方へと横向きになって眠っている、アリスの頬へと触れてみた。……暖かい。
「……えへへ……」
むにゃむにゃと微笑を浮かべたアリスが、こちらの手へと頬ずりをしてくる。
その和む光景を目にしても、暖かさを感じていても、悪寒は取れずに全身が震えていた。
──なんで……なんで、こんな日に、こんな変な夢なんて……
今日は特別な日になるのに。
きっと最高の一日になる筈なのに、それを否定するかのような……まるで予知夢のような内容で。
何もかもが普通の夢とは違っていて、ただの夢だと笑い飛ばせなかった。その不吉さに、改めて震えて。
縋りつくように、目の前で眠るアリスへときゅうっと抱きついた。
──それでも夢、夢だったんだから……!!
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON



