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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 思い込むように、何度も心の中で夢だと繰り返して。
さっさと忘れようと、もう一度眠ってしまおうと、ぎゅうっときつく瞼を閉じて。

 やがて、再び眠りに落ちる直前、

──……話があるって言ってたけど、本当に私が望んでたような話なのかな……

 そんな考えも浮かんできて──少女は不安に包まれたまま、眠りについたのだった。


─────────────────────────────────


 計佑が、待ち合わ場所である映画館のロビーに着くと、既にもう到着していた雪姫を見つける事ができた。
 計佑とて約束の時間より随分早く来たつもりだったが、
それでも雪姫を待たせてしまっていた事実に慌てて駆け寄っている最中、雪姫もまた計佑を認めて。

「よかったっ、計佑くん、ちゃんと来てくれた……!!」

 パァッと顔を輝かせて、随分と大げさに雪姫が喜んでいた。
……そう言えば、自分の存在に気づく前の雪姫は、何やら不安そうな様子だった気がする。

──いや、約束してて来ないワケないのに……先輩、なんか他に心配事でもあったのか……?

 少し気になったが、とりあえず雪姫の目の前まで駆け寄って。
すると笑顔だった筈の雪姫の顔に、また不安そうな色が戻ってきていた。

「け、計佑くん……大丈夫なのっ? なんだか随分痩せちゃってるよ……!?」

 雪姫が心配そうに、こちらの頬へと手を伸ばしてきた。

「え……? あ、あー……そうですね、ちょっと痩せちゃったかもしれませんね」

 確かにバイト期間中、身体を随分と酷使した割には、あまり食事をとれていなかったし、
いくらかやつれて見えるのかもしれない。

「ちょ、ちょっとって……全然そんな風に見えないよ? ホントに大丈夫?
きついんだったら、ムリに付き合ってくれなくていいからっ」
「……ありがとうございます、先輩。でも、本当に大丈夫ですよっ」

 わたわたと狼狽えながら、自分の事を必死に心配してくれる雪姫の姿に、感動を覚えて。
こみあげてくる嬉しさに押されて、笑みがこぼれた。

「食欲だって、昨日からはちゃんと戻ってて。……ていうか、今からでも、ちょっと食べたいくらいなんで」

─────────────────────────────────

 やつれてすらいる様に見える計佑に、不安がこみ上げてきた雪姫だったが、
「全然大丈夫ですってば」と元気に笑いながら、
Lサイズのホットドッグをペロリと平らげてみせる計佑の姿に、ようやく安心できた。

 それから、談笑して時間を潰して。恋愛映画だと伝えると、

「れ、恋愛物ですか……まあ、タダ見させてもらう立場ですし、
案外食わず嫌いみたいな感じで、気に入るかもしれませんしね」

 これは案の定、苦笑されてしまったけれど。
 やがて入場時間を迎える頃には、
もう夢の事なんてすっかり忘れかけていた雪姫だったが、映画が始まって間もなく、

──う、うそ……っ!!

 背筋を凍りつかせる事になっていた。

──な、なんで……!? なんで、夢と全く同じ内容なのっ!!?

 本編前の予告編からして、はっきりと既視感があった。
けれど、予告だったらぼんやりとテレビCMなどで目にしていた事もあったかもと、気にしないでいられた。

……それでも本編が始まって、つい半日ほど前に見たばかりの内容と、
全く同じ映像と音が流れてきては……もう無視出来なくなっていた。
 圧倒的な鮮明さと存在感を持っていた、現実さながらの夢。
昨夜、必死に否定していた『予知夢』という単語が改めて思い浮かんできて。

──ちがう……絶対にそんなハズないよっ!! 絶対に、どこか違うハズ……!!

 目を皿のように開いて、夢との違いを必死に探し続けた。
……けれど、中盤を過ぎても、いつまで経っても夢の通りで、違う箇所はまるで見つからなくて。

──そんな……そろそろ……!

 夢の通りなら、主役の二人が手だけで気持ちを交わし合う──雪姫を絶望の底へと突き落とした──シーンがやってくる。

──だ、大丈夫だよ……映画は同じでも、違うコトだって、いくつもあったもの……!!

──夢での計佑は、今日みたいに痩せてなどいなかった。
──映画の前に、ガツガツと食事する事だってなかった。
──夢では憂い顔だったけれど、今日の計佑はずっと笑顔だった。

 だから、大丈夫だと……信じて。

 やっぱりただの夢だったと笑い飛ばす為に、そっと手を伸ばして。

 そして、計佑の手に重ねて────夢以上の勢いで避けられた。

「────────」

 目を見開いて、凍りついて。

……そして、雪姫の思考は真っ白になった。

─────────────────────────────────

──へぇ〜……! 正直期待してなかったけど、これは……

 計佑は、静かな環境で落ち着いて星を見るのが好きな性分だ。
だから、ドカンバカンと煩いアクション映画よりは、
ドラマ映画の方が好みではあるのだけれど、流石に恋愛物はどうだろうかという懸念があった。
けれど、いざ見始めてみると、いつしかすっかりと映画に引きこまれていた。

──始まりは、小学時代からだった。
 ヒロインは、耳を悪くしていて。
耳を悪くするのとほぼ同時だった転校先で、そんなハンデに負けないようにと頑張るのだが、
それは空回りに終わってしまい、いつしか虐められるようになってしまう。
 もう一人の主人公である少年が中心になって、徹底的に虐めが繰り返されるのだが、
やがて校長が出張ってくる程の問題になり、スケープゴートとして主人公一人が責められて。
 そして、彼もまた虐められるようになっていくのだが、虐められる側のつらさを知っても尚、
少年はヒロインに同情したりはしなかった。
 それどころか派手にケンカをしてみせたりしている内に、やがてヒロインは転校していって、
後に、ヒロインの強さと優しさを知る一件を経て、ついに少年は涙して。
 それから、少年はヒロインとの再会を誓って。
 数年後、少年にとっては運良く、二人の高校は同じになっていた。
ようやく果たせた再会に、少年は覚えてみせた手話を披露して、そして二人の新しい関係が始まる──

 前半は、そんな粗筋だった。

『虐める側のリーダーだったクセに、後でヒロインと恋仲になるとかムシがよすぎるんじゃないか?』

 最初はそんな感想を抱いていた計佑だったけれど、
高校で再会して以降の、少年が贖罪の為にと頑張る所はなかなかのもので、
いつしか少年を応援する気持ちになれていた。

 そして後半、成人した二人の、とあるラブシーン──と言っても、
一般的な肉体関係を描くようなものではなく、手話を使いつつ、
手や指を何度も絡み合わせたりする独特の──で魅せる二人の交流に、完全に魅入ってしまって。

──……先輩の手、握りたいな……

 独特のラブシーンに触発されて、そんな欲求が生まれていた。
 心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。

──……に、握ってもいいかな……!?

 初心すぎる少年にとっては、手を握ろうとするだけでも一大決心だった。
 今までに、雪姫の手を握ってきた事は幾度もあったけれど、