白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
……そうだね、私が力になれるか自信はないけど、一緒に考えてみよう?」
そんな風に計佑の顔を覗きこんで、力づけてきてくれた。
「……ありがとうございます。なんか合宿の時から、先輩にはお世話になりっぱなしですね」
「……そんな。こんなの全然だよ。私が計佑くんにもらってきたものに比べたら……」
面映くて、頭をかきながら礼を口にすると、雪姫もまた照れくさそうに笑って。
二人の間から、重い空気は一掃されるのだった。
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「……でも、まくらちゃんもアリスに対して妬いてる部分があったんだね……その点に関しては、私にもわかるなぁ」
「え。……いや、先輩の場合は……」
雪姫が遠くを見るような目で、まくらへの共感を口にしたけれど、
"雪姫の嫉妬とまくらの嫉妬では、その意味合いは全然違うのでは……?"
計佑としてはそういう疑問が湧いてしまって、そして計佑のそんな考えは察した雪姫が苦笑しながら、
「そりゃあ、私とまくらちゃんじゃあ出発点は違うのかもしれないけど。
面白くないって気持ちは同じようなものだと思うよ?」
尋ねるように語りかけてきたが、はあ、と生返事しか返せなかった。
「……うーんと。あのね、計佑くんは……程度の差とかはあっても、
まくらちゃんもアリスのコトも、どっちも妹みたいに思ってるんだよね?」
「あ、はい、それは確かに」
「うん、でも、まくらちゃんとは、長年の付き合いとか、歳が同じってコトもあって、
その……ちょっと乱暴に扱ったりしてるよね?」
「……まあ……あんまり優しくしてやってはないかもですけど……」
そういう、乱暴な扱いに不満が溜まっていっての今回の事なのだ──と責められてるような気がして俯いたら、
「あ、違うの違うの! 計佑くんは、まくらちゃんにだってすごく優しいよ!?
寝込んでたまくらちゃんの為に色々頑張ったりとか、そういうの、ちゃんとまくらちゃんわかってるよ。
……だって、まくらちゃん、 計佑くんのコトを
『私の、自慢の兄なんで』って、私に言ってくれたコトだってあったもの」
「……え……アイツ、そんなコトを……?」
家族が、陰でそんな風に自分を褒めてくれていた──その事実は気恥ずかしくて、顔が熱くなった。
それを見た雪姫が微笑を浮かべて、
「そうだよ。まくらちゃん、いつもニコニコして計佑くんの傍にいたじゃない。
大好きなお兄ちゃんじゃなかったら、あんな風に過ごしてないよ」
「……は、はあ……」
第三者に自分たちの仲の良さを肯定されるのは、なんとも面映かった。
これが、昔からあった「お前ら付き合ってんじゃねーの?」
という類のからかいだったらもう笑っていなせるのだけれど、
こんな風に、真正面から自分たちの兄妹仲を認めてくれる人は殆どいなかったのだ。
それでどう答えたものかと戸惑っている内に、
「あ、それで話を戻すとね。
計佑くん、アリスに対してだと、まだ付き合いが浅いとか、見た目が子供だとかいうコトもあって、
随分優しく接してあげてたでしょう?」
「……そうですかね……? 自分ではそんな意識して使い分けてるワケじゃないので……
それに、出会ってすぐにアイツのコトおちょくったり、
まだそんな経ってないウチにデコピンかましたりもしたし……」
そんな風に答えつつも、思い返してみれば確かにまくらとは随分と接し方が違った事に気付いた。
少なくとも、まくらのコトを抱っこしてやったり、髪とか褒めてやったりした覚えは全くなかった。
「……そうですね。確かにまくらとアリスでは、接し方違いましたよね……」
腑に落ちてそんな風に呟くと、意を得たとはがりに雪姫が軽く身を乗り出してきた。
「うん。それじゃあだよ?
同じ妹って立場にいるハズなのに、向こうは優しくされて、こっちはちょっと扱いが雑──
ってなったら、面白くはないっていうまくらちゃんの気持ち、わかるよね?」
「……あ……」
言われてみれば、当然の話。それは、不愉快になるのが当たり前な事だった。
幼少の、まだまくらが目覚家で世話になりだして間もない頃。
まだ半分 "客" 扱いだったまくらを、由希子は随分と可愛がってやっていて。
母の自分への態度との違いに、かなり不満を覚えていた事を思い出した。
──……そっか……そうだよ。そういう気持ち、オレだって知ってるハズなのに……
そして、思い出した。
『最近はアリスちゃんとかばっかりじゃない……私のコト、妹としてすらほったらかすようになったクセに』
まくらがそう叫んだ日の事を。
──……そうか……あの時のアイツの怒りって、そういうコトだったんだな……
遅すぎる理解に、気持ちが沈みかけた。……けれど、雪姫の話はまだ続いた。
「そしてね?
……まあここからは、大分わたしの想像とかになるんだけど……
合宿の頃には、計佑くん、アリスにもう全然遠慮がなくなってたよね?」
「……え? そ、そうですか?」
自分ではやっぱりわからなかった。首を傾げていると、雪姫の目がジトっとしたものになった。
「何とぼけてるのっ? ……って計佑くんの場合、自覚はないんだっけ……はあ。
あのね、ちゃんと思い出してっ。計佑くん、最初からアリスに気安かったけど、
それでも最初の頃だったら、いくらなんでも自分の身体の上にアリスを寝かせたりはしなかったでしょう!?」
「うっ……!? そ、それは……!」
……正直、自分の場合、出会った当初でもあまり気にせずそれくらい出来たような気もした。
──が、馬鹿正直にここでそんな事を口にすれば、どうなるか──それくらいは鈍感王でも予想できた。
「そ、そうですね! 確かにそこまでは出来なかったでしょうね!!」
冷や汗をかきながら追従に入ったが、どもった計佑に雪姫の目が更に細くなった。
「……ちょっと計佑くん……? まさか……」
不審そうな声。……まあ当然ではあったけれど、その先を大人しく待つ訳にはいかない。慌てて、
「せ、先輩!! 話を元に戻しましょう!!
もうまくらの引越しまで時間ないんです、
別れるにしてもせめて仲直りはしておきたいから、早くアイツの気持ちを理解したいんですよっ」
そんなセリフを口にすると、雪姫も「うっ」と怯んで。
「そ、そうだったね……今はヤキモチ妬いてる場合じゃなかったよね……んっ、コホンっ。
で、合宿の時のことだけど、
私の場合、アリスに優しすぎるトコロに『ちょっとだけ』ヤキモチ妬いちゃったんだけど、まく──」
「ええぇ!? あっあれで『ちょっとだけ』!!?」
雪姫の言葉を、思わず遮ってしまっていた。
──だって、あの二日間の雪姫の嫉妬ぶりには、随分翻弄されてしまったのだ。
──あれほどバタついてみせておきながら、雪姫の中では『ちょっとだけ』な話だというのか。
──だとしたら、雪姫にとってのMAXとは一体……!?
そんな風に戦慄してしまって、驚きのツッコミを入れてしまった瞬間、雪姫の顔がカッと赤くなった。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON



