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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「そっか……おじさんが向こうでどうなるかは聞いてなかったけど。
時間がとれるようになるっていうんなら、確かにまくらの場合大いにありそうな話だもんなぁ」

 ようやく腑に落ちた計佑が、独り言のように呟いて。
それから、優しげな微笑を浮かべている雪姫へと礼を伝えた。

「ありがとうございます、先輩。先輩のお陰で、ようやくスッキリ納得出来ました」
「ううんっ、全然そんなっ。計佑くんの力に少しでもなれたんなら、私も嬉しいよっ」

 お互いに笑顔を浮かべて。そして、少年が浮かれた気分に押されて雪姫を褒め称えた。

「やっぱり先輩って、スゴイ頼りになる大人ですよねっ」
「ちょっ、そんなっ。大げさだよっ」

 雪姫が赤い顔で恥ずかしそうに手を振ったが、本当に感謝している少年がそんな謙遜は認めずに、

「いやいや、ホントに! 先輩は完璧ですよっ、オレの事に関しては酷い駄目っ子になるだけでっ」

 ニコニコとしながら──お約束の、余計な一言を付け足した。

……当然、雪姫の顔がピキリと引きつって。

「だ、だめっコ……? ひどい、ダメっこ……?」

 ピクピクと雪姫の頬が痙攣して。その様に、ようやく少年が失言に気付いた。

「あっ!? ちっちが! 先輩は、そういうダメなトコも可愛いっていうか──!!」

 その言葉は決して嘘ではない。
計佑としては、雪姫のそういう所に可愛さを感じているのも事実で。
──とはいえ、今までは計佑からの褒め言葉にはコロリと騙されてきた雪姫だったけれど、
今回の流れでは、いくらなんでも堕とされてはくれなかった。

「ばっ、バカにしてえっ! やっぱり、本当はワザと私をいじくってるんでしょお!!」

 とうとう、雪姫が人目もはばからずに爆発して。

──やっぱり最後は締まらなかったりもするのが、この少年のクオリティなのだった。


─────────────────────────────────


『……はい、まくらです』
「あ、まくらちゃん……久しぶり、だね」

 計佑とのデートを終えて、しっかりと計佑に自宅まで送ってもらった雪姫は、今まくらへと電話をかけていた。
 
 理由は勿論、

「……計佑くんから聞いたよ。引っ越しちゃうんだってね……」
『……はい。話すのが遅くなってごめんなさい……』

 まくらの引越しについてだった。
 スピーカーから聞こえてくるまくらの声は、
いつもの元気な響きがまるで感じられなくて、雪姫の気持ちも改めて沈み込みそうになった。
 こんな話題で明るく振る舞うなんて難しかったけれど、

「ううんっ、謝ったりなんかしなくていいんだよ。そういう話、切り出し辛い気持ちも当然だとは思うから」

 自分の方が落ち込んでいては、まくらだって気に病むかもしれないと明るい声を出してみせた。

「……それでね、まくらちゃん。こうして電話したのは……よかったら、
本当のまくらちゃんの気持ち、聞かせてほしいって思ったからなの」
『えっ……!!?』

 突然、まくらの声が跳ね上がって。雪姫の方も驚いた。

「え、あの……そんなに変なコト、聞いちゃったかな……?
……まくらちゃんが、引越しを決めちゃった本当の理由……っていうのかな。
"親の転勤だから" っていう前提とか、外側の理由だけじゃない、まくらちゃんは本当はどう思ってるのかな、
みたいな、そういうのを聞かせてもらえたら、って思ったんだけど……」
『……あ……あははっ、そ、そうでしたかっ。ごめんなさいっ、急に大きな声出しちゃって。
素直な雪姫先輩が裏を探りに来るなんて、さては計佑にどんな変な話でもされたのかって
ちょっと焦っちゃいました……!!』
「え、えー!? う、裏を探るって……そ、そんなつもりじゃないよっ!?」

 まくらの焦った声は、それこそ探られたくない "裏" を誤魔化す為のものだったのだけれど、
今まくらも言った通りの素直な少女は、そんな事には気付かずに慌ててみせた。

「あのねっ、そんなつもりじゃないんだけど……でもね、今日計佑くんから色々と話を聞いて。
……それで、計佑くん、まくらちゃんと喧嘩みたいになっちゃったコトすごく気にしてたの。だから──」

 雪姫がまくらへと電話した理由──その1番の理由は
"二人をちゃんと仲直りさせてあげたい" というものだった。
 先ほどの相談で、"尤もらしいまくらの気持ち" に辿りつけたとは思う。

……でも、もしそれが間違えていたら?
計佑が、その間違った答えを元に行動して、結果まくらとの仲がよりこじれてしまったりしたら?
せっかく自分の事を頼りに相談してくれたのに、顔向けなんて出来なくなってしまう。
 それに、まくらには色々とお世話になってばかりだった。
1つの恩返しも出来ないままでお別れなんて、まくらにだって申し訳なさ過ぎて。
 だから、二人を仲直りさせるべく──まずは今日の "相談" で出した答えが間違っていないかを確認して。
また、計佑からは聞きにくい話でも、部外者である自分だから聞ける話だってある筈だからと、
そんな風に考えて電話をかけたのだった。

『……ごめんなさい、雪姫先輩。先輩にまで色々と心配かけちゃったみたいで……』
「えっ、そんな! むしろ私こそごめんね!? なんか、余計なお節介かもなのに……」
『……いえ、そんな事ないです。こうして、素直で優しい雪姫先輩と話してたら……やっぱり、
私の判断は間違ってなかったなって。安心して向こうに行けるなって、改めて思えましたから』

 そこで、お互いの声が途切れて。しばしの沈黙を挟んでから、

『……雪姫先輩。私、お父さんのコト、大好きなんです』
「……うん」
『今度のところに一緒にいけば、お父さん、結構時間がとれるようになるっていうし。
やっと、ゆっくり一緒に過ごしたりできそうなんです』
「うん……」

 計佑との話で出した予想が当たっていたようだと、軽く安堵していると──

『……本当はっ……!』

 突然、まくらの声が大きくなった。

『本当は私だってっ、お別れなんてつらいっ……!! でも……っ!』

 まくらの声が涙声になっていた。つられて、雪姫も鼻がツンとなった。

『でも私はもうっ、一人なんて耐えられない……!! お父さんはっ、お父さんだけはっ、
絶対に私だけを見ていてくれるからっ、だからっ、わたしは……っ』
「……っ……」

 自分もつられて泣き出しそうで、息の音しか返せないでいたら、

『……ごめんなさいっ、雪姫先輩っ……先輩と、計佑のコト応援するって言ったのに、
最後までちゃんと出来なくてっ……でもっ、でも私もうっ、つらくて……っっ!!』
「いっ、いいんだよっ、まくらちゃんっ。そんなの、もういいんだよ……!」

──まくらの謝罪の "本当の" 意味には決して気付けない少女が、感謝と慰めの言葉をかける。

「ま、まくらちゃんは、もう一杯、いっぱい私のコト応援してくれたよっ!
まくらちゃんがいなかったら、わたし天文部にだって入れなかったしっ、
ア、アリスのコトでだって、もっともっとストレス溜めちゃって、もっとすごい爆発しちゃってたかもしれない……!!