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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 ポン、とまくらの頭に手を置いた。
まくらが、驚いたように軽く目を見開くのを確認して。

……そして、ゆっくりとまくらの髪をかき回しはじめた。

 あの合宿の朝には出来なかった "ワシャワシャ" を、
ゆっくりと、──丁寧な手つきで、今まくらの頭へと繰り出していた。

「……ちっとくらい距離が離れたトコロで、何も変わらないよ。俺達は、物心つく前からの付き合いで。
……お前の親父さんだけじゃない、オレ達だって、もう間違いなくお前の家族なんだ。
だから──もし何かあったりしたら、遠慮なんかしないで連絡してこいよ?
すぐにでも駆けつけて、何とかしてやるからな」

──オレなんかに何が出来るんだよ。
──まくらは、もうオレなんかよりずっとスゲーやつになってるんだぞ?

 そんな自嘲の声が、心のなかで響いていたけれど。
雪姫や硝子との話で、どうにか気付けた──まくらの望んでいた事を思い出して、
どうにか以前のように兄貴ぶってみせた。
 そしてまくらが、驚愕の顔つきから、ゆっくりと微笑へと表情を変えていって。
己の頭へと乗せられた、計佑の右手へと自分の右手を持って行って──

「ううん。もう計佑には、連絡なんてしないよ」

──そんな言葉と共に、計佑の右手をゆっくりと己の頭から下ろしてみせた。

……逃げるでもない、受け入れるでもない、払いのけるでもない──ただそっと手を下ろすだけという、
初めてみせるまくらのリアクションに、一瞬思考が空白になって。
その言葉の意味がわからなかった。

「……はぁっ!? お、お前何を──」
「──もう、計佑とは会うことも話すこともない。……わたし、計佑からは完全に卒業するよ」

 ようやく理解が追いついて問いただそうとした瞬間、笑顔のまくらに割り込まれた。

「────」

 思ってもみなかった、まくらからの完全な別離宣言。

 今度こそ完全に思考が空白になって、立ち尽くしている間にまくらは身を翻しながら、

「じゃあねっ、計佑。──さようなら!」

 言い捨てて、硝子や由希子にも声をかけると、──もう振り返る事もなく、電車へと乗り込んで。
 暫くの間呆けてしまっていた計佑だったが、やがてハッと我に返ると、

「……ちょ、ちょっと待てっ、まくら!! 一体どういう──」

 声を荒げながら車内に駆け込もうとして、由希子に腕を掴まれた。

「ちょっと計佑!! アンタ何やってんの!?」
「離せよオフクロ!! オレはまだ、まくらと話が──」

 振りほどこうとして、──もう、とっくにベルが鳴り出していた事に気がついた。
そしてすぐに、ドアは閉じてしまって。

……これが、ずっとずっと一緒に育ってきた、幼馴染との別れだった。

 夢にも思わなかった形での別れに、少年はただただ呆然となって。
あっという間に電車が走り去っていった方角へと、唖然としたまま視線を送り続けることしか出来なかった。


─────────────────────────────────


「……ふざけやがってっ……!! アイツ、どういうつもりだよっ!!!」

 怒りのあまり、計佑は携帯をベッドの上へとぶつけるように投げ捨てた。

──まくらとの別れの後、計佑はすぐにまくらへと連絡をとろうとした。
まくらの最後の言動に、まるで納得などいかなかったからだ。
 まだ車内だろう事を考慮して、メールを送って。
もうとっくに到着しているだろう時間になっても返信はなかったが、
まだ何かと忙しい筈だからと我慢して──夜まで待ったが、結局返事はない。
 流石に頭に来て、電話をかけてみたところ、返ってきたのは着信拒否のメッセージで。
それに頭にきての、たった今携帯を投げ捨ててしまったところだった。

──そうかよっ……そっちがその気だってんなら、もうこっちだって知るかよっ!!

 計佑としては、精一杯の歩み寄りを見せたつもりの別れだった。
なのに、完全に拒絶するような態度を見せられては、腹に据えかねた。

……この日は、まくらへの怒りで意識が一杯で、雪姫からのメールにすら返事を出来なかった。

─────────────────────────────────

 それからの二日間、計佑は特に変わりない日常を送った。
 引越し直前の頃には、もうまくらが目覚家に食事をしにくる事もなかったし、
忙しいだろう事もあって目覚家で過ごす事もまたなかったので、
その流れのままという感じで、特に変化は感じなかった。

 しかし新学期が始まって、休み明けの実力テストが始まる頃になると、流石に違和感が気になり始めた。
食卓で、気がつけばまくらが使っていた席を見つめてしまっていたり。
事ある毎に、ついまくらの名を呼びそうになってしまっていたり。

──そんな自分を、ふと客観的に振り返って。
やはり自分は、随分と寂しがっているのだと気がついた。
 そしてそんな自覚を持ってしまうと、もうまくらへの怒りなんて抱き続けてはいられなかった。
相変わらず、まくらからの連絡はなかったけれど、それでももうこちらから折れようと、電話をかけて。

──前と変わらず、着信拒否状態だった。
 まだ何か怒っているのかと、溜息をつきたくなったが、とにかく仲直りをするにも話が出来なければ。
携帯が駄目ならと、固定電話のほうにかけてみた。

『はい、音巻です』

──数日ぶりでしかない筈なのに、随分と懐かしく感じる声。
そのまくらへと、つい弾んだ声で話しかけた途端、──切られてしまった。

 流石にそれには、改めて怒りが湧いて、けれどすぐに凹んでしまって。

……そして、次の日を迎えて立ち直ると。
 また改めて──何度も電話をかけ直した。……けれど、一度も繋がらなかった。

 また次の日。もう半ば意地になって、またまた電話をかけ続けて──やがて、ついに相手が電話に出た。

「──おい、まくらっ、一体──」
『──計佑君かい?』

 声を荒げようとしたところで、落ち着いた男性の声が聞こえてきて。息を呑んだ。

「……え……え、隆おじさん……?」
『うん、そうだよ。……でも嬉しいな、私とはあまり話した事もないのに、すぐにわかってくれたんだね。
……あ、いや見送りきてくれた時に話したばかりだったし、そもそもここは私の家だしね』

 電話口の向こうで、まくらの父が軽く笑ってみせた。けれど、計佑としては戸惑うばかりだ。

「えっ……な、なんでおじさんが……」

──こんな時間に家に? そんな疑問が浮かんだが、考えてみれば別におかしな事ではなかった。
転勤先では、時間の余裕が出来るという話は聞いていたのだから。
以前とは違い、落ち着いた様子で自宅にいる事だって、もう当たり前の話だった。

「あっ……!! こ、こんばんはっ、おじさん。あ、あのっ、オレまくらと話をしたいんですけどっ……」

 少し考えてみればこんな展開は予想できていて然るべきだったのだけれど、
まくらと話すことだけで頭が一杯だった少年はすっかりその可能性を失念していて、
予想外の人物の登場に余裕をなくした。
 それでも、どうにか一言挨拶を入れて、要件を口にしてみせたのだけれど、