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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 やがて硝子は何度か深呼吸を繰り返すと、またこちらへと振り返ってきた。
 ついさっき、何故叱られたのかはさっぱり理解出来ない計佑だったから、ついビクリとしてしまったけれど。
硝子の顔には何やら赤みは残っていても、怒っている雰囲気はなさそうだったので、とりあえずは胸をなでおろした。

「……話を戻すね、目覚くん。
目覚くんが、こういう話についてどうしてそこまで拒否反応を示しちゃうのか、本当の所は私にはわからない」
「そんなの……」

──馬鹿馬鹿しい、ありえない話だからだ。
心の中でそう続けたけれど。ちゃんと聞くと約束した手前、とりあえずは口を噤んだ。

「……でも、それでも1つ『こうなんじゃないか』って理由は思いついたんだ」
「え……? なにそれ?」

 思わずきょとんとしてしまう。
正直、自分では『馬鹿馬鹿しい』というモノしか自覚していないのだけれど、
硝子にはもっと別のものが見えているのか──

「目覚くんとまくらって、小さい頃からずっと一緒にいて……冷やかされる事も多かったんでしょう?」
「……そりゃ、まあね」

──確かに、それはうんざりする程だ。それで気まずくなって、疎遠になりかけた事だってある。

「それで不愉快な思いをする事も多かっただろうし、
もしかしてまくらと疎遠になりかけた事だってあったかもしれない。
……そうして、そういう話に嫌気がさして、だからもう『そういう事は一切考えたくない』って、
『恋愛感情の話なんか混ざると、まくらと一緒にいられなくなる』って、そんな風に思うようになって、
今みたいに頑なになっていった部分……あったりしない?」
「……そんな事──」

──ない。とは言い切れなかった。
硝子の言葉に、何故かドクンと心臓が驚いていたから。

 そして硝子は、果たしてそんな計佑の動揺を見抜いたのかどうか、言葉を続けてきた。

「……そしてね、まくらも、もしかしたら同じように思ったのかもしれない。
 ……でも多分、まくらの方は目覚くんとはちょっと違ったんだと思う。
まくらはただ何も考えずに目を逸らしたんじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちを自覚した上で、
気づかないフリをしたんだと思うの……」
「…………」

──"まくらがそんな難しいこと考えるハズは……" そんな風に考えたけれど、何故か口には出せなかった。

「……だって、目覚くんの方はそんな風に完全否定して、
頭ごなしにその可能性を切り捨てるような態度とってたら。
……それはまくらだって、そんな態度は表に出せる筈ない。
気持ち悪いとか思われるんじゃないかって、
家族としてすら見てもらえなくなるんじゃないかって、そんな風に不安になるのは当たり前だと思う……」

──なんだそれは。そんなもの、結局は須々野さんの想像だろう。証拠でもあるのか──
そんな風に否定の言葉が脳裏を駆けたけれど、やっぱり口には何も出せなかった。
 そうやって黙りこんでいる自分がどんな顔をしていたのかはわからなかったが、
硝子はしばらくの間、こちらの顔をじっと観察するように見つめてきて。やがて、

「……うん、一応は凝り固まってた先入観は揺らいでくれたみたいだね……
固いままのところにいきなりこれを聴かせるのは、流石に厳しすぎるかなって思ったんだ」

 そんな言葉を口にしながらケータイを取り出すと、何やら操作をしてから計佑へと手渡してきた。

「聞いてみて、目覚くん」
「……え……何を……」
「まくらが引っ越す前に、私と電話で話した時の音声だよ。
……こんな事をして、まくらにはもう許してもらえないかもしれないけれど。
録音しておいたんだ……」

 液晶画面を確認すれば、あとは『再生』待ちの状態。

……それでも、受け取った後、何も行動を起こせなかった。

 だって、ここまでの流れから考えれば、聞かされる会話がどんなものかなんて──
どんな鈍感な人間だろうと、想像出来ない筈はなくて。ただ呆け続けていたら、

「目覚くん。知りたいって言ったのは目覚くんだよ。
……それにこのままじゃあ、ずっとまくらの苦しさの理由はわからないままじゃあないの?」

『まくらを苦しめたまま──』……その言葉には、急所を突かれた気がした。

「…………」

 無言のまま、のろのろとした動きでケータイを耳に当て、再生を始める──


─────────────────────────────────


『──ねえまくら、本当にこのまま何も言わずに引越しちゃっていいの?』
『え……何の話、硝子ちゃん?』
『まくらの、目覚くんへの気持ちに決まってるじゃない……!!』

──予想していた筈の話だったのに、ドクンと心臓が強く震えた。

『んー? 私の計佑への気持ちって?
……ああ、"今までお兄ちゃんとして色々とありがとう" とか、そいうコト?
……改めてそういうの伝えるとか、照れくさいんだけどナ〜……』
『……まくら……!! わかってるんでしょう!?』
『え? チョット何言ってるかワカンナイですね』

──まくらが、あるお笑い芸人の口真似をしてとぼけた瞬間、硝子の怒気が大きく膨れ上がったような気がした。

『……そう、わかった』

──やはり、気のせいではなかった。硝子のその声は、時折計佑に向けて発する時のような低い声へと変わっていた。

『だったら、私から目覚くんに話すよ。……ああ、
"どうせ計佑ならそんな話信じるワケないよ"
なんてタカはくくらないでね? 私なら、どんな朴念仁にだってちゃんと理解させてあげられるから。
だから安心して──』
『──絶対やめてよね……』

──ゾクリとした。聞き慣れた筈のまくらの声だったのに。
ここまで冷たいまくらの声なんて、数回聞いたことがあるかどうか……

『……許さないよ……たとえ硝子ちゃんだろうと、そんな話を計佑にしたら絶対許さないからッ……!!』
『……ごめんなさい、まくら。本当にごめんなさい……』

──まくらの鬼気迫る声に、硝子はいつもの声に戻るとすぐに謝って。

……この時の硝子は、色々な意味で──まくらを挑発するような真似をした事、この会話を録音していた事、
つまりは結局計佑に話すつもりだった事などを──まくらに謝っていたのだと、随分後になってから気が付いた。

『……ねえまくら。どうしてなの? どうしてそこまで……
目覚くんに話せないっていうのなら、せめて私にだけでも教えて。
私には、この期に及んでまで隠し通したいって気持ちはよくわからないの』

──硝子がそんな風に尋ねると、まくらがふうっと溜息をついて。

『……そんなの。気まずくなるに決まってるからだよ』
『どうして? どの道、引っ越しちゃうんでしょう? だったら気まずくなるも何もないじゃない。
ダメ元で、気持ち伝えたって──』
『──硝子ちゃんはさ。誰か大事な人を突然なくしちゃったコトってある?』
『……え……?』
『私のお母さんはさ。病気で弱っていたけど、最期は突然の事故だった』
『……あ……』
『……同じように、お父さんも逝ったりしないなんて保証はどこにもない。そして──』

──まくらが、一旦言葉を切った。