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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「雪姫、テレビの仕事とか始めてから急に元気なくなった様にみえたからさー。
夏休みも予定いっぱいで、そんななのかなーと思ってたよー」
「それは考え過ぎだよ、全然平気」
「ホント? なら大丈夫だネ!」
ちゅっちゅとまとわりついてくる少女に、軽く苦笑して答えると、カリナがにぱっと笑顔を見せてくれた。

──やっぱりちょっと余裕なくなってたんだなぁ……カリナに心配かけちゃうなんて。

テレCMが流れてからの周りの姦しさは、確かに雪姫にとっては結構な苦痛だった。
でも、一昨日にあの男の子ときちんと知り合ってから──雪姫の心は確かに上向いてきていた。
今こうして、カリナの心配をやり過ごせるくらいに。

─────────────────────────────────

「須々野さんマジ行こーよ!!」
「え……う〜〜ん……どうしよ……」
茂武市はしつこく硝子を誘っている。
付き合わされている計佑はうんざりと当たりを見回していて──
「あ」
渡り廊下を歩いてくる雪姫に気付いた。
「……あ」
すぐに雪姫も計佑に気がついて、目が合った。
しかし計佑が声をかける前に、カリナが大声をあげた。
「あれーー!? 隣の家のクソガキじゃん!! はじめーー!!!」
「げっ!! カリ姉っ……森野先輩!!」
茂武市が慌てる。
「何だその隣にいるメガネッコは!! けしからんっ お前またナンパしてんだろっ!! ……私も混ぜろっ!!」
森野先輩とやらが駆け寄ってくる。
その先輩には面識もないし、雪姫に話を聞きたかった計佑は、ここで会えたのは幸運とばかりに雪姫だけを見ていたのだが……

──あ……今日はポニーテールなんだ……ってあれ? なんか見覚えあるような……?

デジャヴを感じて雪姫を見つめていた計佑だが、
同じようにこちらを見ていた雪姫は、突然フイッと視線を逸らした。

──え? なに……?

そのまま雪姫が、渡り廊下から離れて校舎沿いに遠ざかっていく。
戸惑いはあったが、雪姫には聞きたいこともある。後を追って。
「あのっ先輩……メールのことなんですけど。写真の女の人で何かわかった事っていうのは……?」
追いついて、早速質問を切り出したのだけど、
「私ね……昨日ずっとメール待ってた」
雪姫は不機嫌そうな顔で振り返ってきた。

──え……? もしかしておやすみメールとかいうやつ!? あれってからかってたんじゃねーの!!??

「いや……てっきり冗談かと……」
正直、かなり意外だったので思わず口にも出してしまった。

─────────────────────────────────

──ムッ!!

計佑の言い草に、雪姫はかなりカチンときた。

──結構勇気出して教えたのにっ!
あんなにヤキモキして待ってたのに『冗談』で済ますなんてっ!!

雪姫が(照れ隠しもあったとはいえ)散々からかい倒したせいもあるのだが、
この少年に対してだけはわがままになれる乙女にそんな道理は通じない。
雪姫は思わず手を伸ばしていた。
<b>「反省しろっ!!」</b>
きゅっと計佑の鼻をつまみあげる。
「あいてっ!」
少年が軽く悲鳴をあげる。
しかしすぐに、自分の鼻をつまみあげる雪姫の手を見て、顔を赤くしていった。
そんな計佑を見て、雪姫の溜飲は下がっていく。

──この顔……いつもの、私を意識してくれている時の顔だ……

「私……あの写真の女の人の事知ってた」
計佑のその表情で機嫌が治ってきた雪姫は、鼻から手を離して計佑の質問に答えるのだった。

─────────────────────────────────

──え!?

計佑は、雪姫が話す意外な内容に固まっていた。
祖父から経由の話を予想していたのに、まさか雪姫自身が知っているなんて──
「小さい頃に実家の古いアルバムで見たことがあったと思うの……
すごくキレイな人だと思ったから何となく覚えてたんだと思う」
「そっ──その話っ!! もっと詳しく聞かせてください!!」
思わず詰め寄ったが、雪姫はプイっと顔を背けると
「お休みの挨拶も出来ないような、悪いコには教えないっ!!」
人差し指を口元に当て、いつものイタズラのようにからかってきた。
──しかし計佑のほうには、ようやく見つかった具体的な手がかりを前に余裕がなかった。
「大事なことなんですっ!!」
「きゃっ」
思わず、雪姫の手首と肩を捉えて壁に押し付けていた。
「いっ……痛い……」
雪姫の少し怯えたような表情に、ハッと我にかえり、とりえず力は抜いた。
「……何であの写真にそんなにこだわるの……?」
雪姫が上目遣いに問うてくる。
「それは……」
昨日も一度は話そうとした事だ。
まくらの生き霊状態のことを除けば、学年が違う先輩になら、口止めをお願いして話せば問題はないだろう。
話す内容を軽く頭でまとめようとして──そのおかげで頭が完全に冷えて、ようやく気付いた。
──今の自分と雪姫の距離。
自分の顔のすぐ正面に、雪姫の顔がある。
裏門の時のような、超至近距離。
しかも、あの時とは違って、自分が迫るような形。
それも、相手の手首と肩を掴んで、壁に押し付けるように──

──あの時よりもっとヤバいだろ!!!

一気に顔が熱くなっていった。
そんな計佑に気付いた雪姫も、同じように顔を赤くしていって。

──あああぁぁぁぁあああああああ!!!

パニック状態に陥りかける少年。
雪姫は雪姫で、ただ赤い顔で、上目遣いにそんな少年を見つめるだけだ。

──そんな硬直状態を打ち砕いてくれたのは、少女の怒声だった。
「コラぁぁあ!! お前何してんだよっ!! アタシの雪姫にぃぃぃ!!」
カリナが叫びながら、計佑を突き飛ばしてきた。
「うおっ!?」
たたらを踏むがどうにか踏みとどまる。
そのカリナは、更に計佑につかみかかろうとしてきたが、それは雪姫が止めてくれた。
「だっ大丈夫だよカリナ!! だからやめてっ」
「ホント!? なんかエッチなコトされてない!?」
「ホントに大丈夫。そんなんじゃないから、ね?」
「……まあ……雪姫がそう言うんなら信じるけどぉ」
そう言いつつも、怪しむ目つきで計佑を睨めつけるカリナ。
しかしすぐに相好を崩すと、
「あっ!! そだ雪姫!! 夏休みさぁ、この子たちも一緒じゃダメかなぁ?」
いつの間にか硝子や茂武市も近くに来ていた。その硝子に絡みながらカリナが言う。
「このコいいよ〜 硝子ちゃんって言うの!!
超アタシ好みのマシュマロボディー♪ 足のお肉がぷにぷにしててさぁ♪」
硝子の足を撫でさするカリナ。
うめき声を上げながらも抵抗できない硝子と、それをあんぐりと眺めている茂武市。
「あとそこのメガネ男ねー。一応アタシの知り合いだしー。クラスメートだから硝子ちゃんも安心できるだろーし」
そんなカリナの言葉を黙って聞いていた雪姫が、一瞬チラリと計佑を見た。
「──よーし!! いいよっ! いつにする?」
「ホント!?」
雪姫の快諾に、カリナがはしゃぐ。
しかし計佑のほうは、そんなやり取りをぼんやりと聞き流していた。