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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「……まあ、生きてさえいれば未来なんてどうにだって変えられるんだからさ。
いじけるなんてつまんないコトにエネルギー使ってないで、とにかく足掻いてみなよ」
「……カリナ……」

 顔を横へ向けると、カリナが初めて見るような優しい顔つきでこちらを見つめてきていて。
 がさつなばかりだと思っていた少女からの思わぬ暖かさに、
また涙が──といっても、先程までとは真逆の理由で──零れそうになった。

「……ありがとね、カリナ……私、カリナが友達がいてくれて、本当によかった……」
「タハハハハ!! やめろやめろぉ!! そんなクッサいセリフ、聞きたくないってーの」

 感謝の言葉を伝えると、カリナが珍しく赤い顔をしてそっぽを向いた。

──カリナは親友ではあっても、それでもどこかに壁は作っていた。
けれど今、隠していた弱い自分、駄目な自分をこうして知られて、そして受け入れてもらえて──
今こそ、本当の親友になれた気がした。

──そうして、昨日の一件以来、ずっと悲嘆に暮れてばかりいた少女の顔に、ようやく笑顔が戻ったのだった。

─────────────────────────────────

 そんな風に、二人は和んだ空気に包まれていたのだけれど、カリナが照れ隠しにか、

「……しっかしさあ? あのボウヤ、平均以上とは思うけど、それでもそこまで雪姫が入れ込むほどのモン?
雪姫と釣り合うほどとは正直、思えないんだけどさあ」
「……なっ……!?」

 計佑の事を軽んじるような発言をしてきて。
少年にべた惚れの少女が一瞬で沸騰しかけて、空気が一変した。
 それでもどうにか爆発は押さえ込んだのか、

「……ふんっだ……!!」

 と、雪姫が拗ねたようにそっぽを向いて。

「ありっ、お、怒った?」

 カリナが慌てて雪姫の顔を覗こうとするが、受け入れない少女は、ぬいぐるみで顔を完全に隠してしまう。

「ご、ごめんってば雪姫ぃ……本気で言ったワケじゃないっていうかさあ……」

 照れ隠し半分、本音半分の言葉だったけれど、本気で雪姫を不快にさせたかった訳ではないカリナ。
一応謝ってはみせたのだけれど、少女からの回答は

「……いいよ別に……カリナはわかってくれなくたって……」

 相変わらず顔を隠したままの、拗ねたような声で。

「わ、わかった!! 本気で謝る!! アタシも、ちゃんとボーヤの良さを分かるように努力すっから──」

──許してほしい、そう言いたかったのだろうけれど、

「本当にいいの! ていうか、カリナには分かって欲しくないのっ!!」
「……へ……?」

 予想外の雪姫の言葉に、カリナが呆気にとられて。
そのまま呆けていると、雪姫はぬいぐるみを少しだけ下げて、目だけのぞかせて来た。

「……だって計佑くんの良さを知っちゃったカリナが、ライバルになんかなったりしたら困るモン……」

 くまモンで口元を隠しながらの上目遣い。加えて、拗ねと甘えのハイブリッドボイス。

──先日のデートの際、キングオブ朴念仁な少年は反応しなかったけれど。
肉食獣の少女にとっては、あまりにも美味しそうなご馳走だった。

「……オ、オマエ……マジで可愛すぎんだろ!? ……もういいっ、アタシが美味しく頂いちゃるッッ!!!」

 叫びながら、トラ少女が本気で雪姫へと襲いかかった。

「ええぇ!? な、なにっ!? ちょちょ、カリ……っ!?」

 本気で身の危険を感じた被食者が、慌てて抵抗を始める。……が、先程とは違い、今の捕食者は本気だった。
あっという間にくまモンは投げ飛ばされ、Tシャツも剥ぎ取られ、ブラのホックも外されたところで、

「や、やああああ!? まって待ってまってぇえ、カリナぁ!!」

 涙目になった雪姫が悲鳴をあげて、

「どうしたのっ、雪……姫……」

 そんな声と共に、ドアが突然開いた。
 その声の主──お茶を運んできた母親は、部屋に二歩ほど踏み込んだ所で足を止めて。
絡み合う二人の姿に完全に凍りついていた。

「……あ。雪姫のお母さん……いや、これはですね? 違うんですよ?」

 第三者の乱入で、ようやく正気に戻ったカリナ。

「お、お母さんっ……助かった……」

 召し上げられる事態をどうにか回避出来たと、ホッと溜息の雪姫。

「……ごゆっくりどうぞ……」

 そして、スススと滑るように後退りしていく母。

──パタン、と静かにドアが閉められた。

……やがて、自分たちの関係がとんでもないもの
──特に、自分が "ネコ" ──
だと誤解された事に気付いた雪姫が大慌てして。

 けれどそこでカリナが口にした言葉は、

「ん〜……アタシ、自分ではギリノーマルだと思ってたんだけど。
なんかマジで両方いけるぽいし、別に否定しなくても──」
「──いいワケないでしょお!?」

 少なくとも、雪姫の方は計佑100パーセントなのだ。
 慌ててカリナを引き連れて母の元へと向かって、どうにか誤解が解けて安心したところで、
雪姫のお腹が可愛い悲鳴をあげて。
三人で笑って、久しぶりの食事を始めて。

──こんな風に。
雪姫の心中を覆っていた雨雲は、ハリケーン少女がもたらした嵐によって、とりあえずは吹き飛ばされたのだった。


─────────────────────────────────


 昼食の準備中、切らしていた調味料に気づいて
買い物のために家を出た計佑は、今は無人の、かつては音巻家だった家の前で足を止めた。

「…………」

 門扉の前で、無言で立ち尽くして。まくらが使っていた部屋を、暫くの間見上げ続けて。

……やがて、項垂れてしまった。

「……ずっと好きだった、か……」

 呟いて、溜息も漏れた。

「……なんで言ってくんなかったんだよ……」

──わかっている。言える訳が無かったことは。
だって、自分とまくらの関係は、あまりにも家族として完成しすぎていた。
それを壊すかもしれない真似なんて、家族に飢えていたまくらに出来る筈はなかった。
もしも自分が先にこの気持ちに気付いていたとしても、言えなかったとは思う。

……それでも……

「……言ってくんなきゃ、オレに分かるワケないだろ……
お前も散々言ってたじゃないか、オレは鈍感すぎるってさあ。
結局、お前一人につらい思いさせたままで全部終わりだってのかよ……」

 知り合ったばかりで、目新しく見えてしまうせいもあるだろう雪姫にばかり気を取られていて、
見えていた筈のまくらの気持ちには、まるで気付けなかった。
 幽霊状態になってから、度々まくらの様子がおかしかったのに、
異常事態のせいだろうとばかり勝手に思い込んでいた。
旅先で、雪姫が傍にいるようになってから、特におかしくなっていたというのに、だ。
 気付いてみれば、あれは嫉妬以外の何物でもなかった。

……それを理解るようになったのは、雪姫の嫉妬の数々で学んだお陰、というのがまた皮肉だったけれど。

──どんな気持ちで、オレ達のコト応援してくれてたんだろうな……

『まくらに好きな男がいた』──その事を知った時の、自分の嫉妬ぶりを思い出す。