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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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聞きたくなんてないけれど、聞かない訳にはいかない話。
……それでも、やっぱり聞きたくはなくて、あれほど触れ合いたかった少年から逃げてまでいた話──

 カリナからの激で、一度は覚悟が出来た少女だったけれど、所詮は根っからの気弱少女。
次の日には、もう覚悟は揺らいでしまっていて。
少年から話を切り出されるのが怖くて、部活にも顔を出さず、メールすらしないで逃げまわっていたのだった。

──逃げてたって、何にもならないのに……

 カリナにも言われたとおり、諦めるなんて出来ないのなら、こちらを振り向かせるよう努力するしかないのに。

……それでも、今は逃げる事しか考えられなかった。

 だって、自分は暴走気味なくらいにアプローチしてきたつもりだ。
それで駄目だったというのなら、これ以上どうしたらいいのかわからなかった。

──ごめんなさい、計佑くんっ……!

……結局、ウソの返事を出した──忙しくて、しばらくはゆっくり会えそうにないと。

 逃げまわっていても、あと半年しかない計佑との高校生活を無駄に消費してしまうだけ。
そんな事はよく分かっていても、それでも。
面と向かってふられてしまう瞬間が、どうしても怖かった。


─────────────────────────────────


 放課後の教室で、雪姫からの『今日は図書委員の仕事があるから』という返信を確認した計佑は、
ぐだりと机に上半身を侍らせた。

──先輩……やっぱりオレの事避けてるのか……!?

『話がある』とメールしてから一週間。
その間、一度も雪姫と会えていなかった。いや、それどころか電話での会話すら出来ていなかった。

──……でもそれにしては、メールだけはマメにくれてるんだよな……?

『話がある』と連絡する前には、雪姫からのメールも殆どない時期があったのだけれど、
それ以降には、毎日またメールをくれるようになっていた。
 それを考えると、避けられていると決めつける事も出来なくて。
どう捉えていいものやら、頭を悩ませるばかりだった。

──ホント、身勝手だよな、オレ……

 つい一週間前までは、こちらも話しづらいからと、雪姫からの連絡がない事に安心していた癖に。
 いざこちらから行こうとした時に上手くいかないと、途端にこんな風に考えるだなんて。

……そう、あんなに深く自分の事を想ってくれていた人に、酷い応えを返そうとしているくせに、だ。

 雪姫のリアクションを想像すると、怖くて、痛くて仕方がない。
それなのに、雪姫に避けられているのではないかと思うと、それもまた堪らなく辛くもあって。
 わがまますぎる自分に、改めて嫌気がさした。

──先輩は、あんなにオレに気を遣ってくれていたのにな……

 雪姫は知名度の高い自身の事を考慮してか、
天文部員以外の人目がある時の校内では、一対一で話すような状況は出来るだけ作らないようにしてくれていた。
 それはきっと、計佑に変な噂がたたないようにという配慮からだ。
普通に考えたら雪姫自身の仕事への影響などを考慮しての事でもあったかもしれないけれど、
雪姫と実際に触れ合っていた計佑の感触としては、雪姫が自身の問題として考えているような
様子はなくて、あくまでも計佑ありき、という感じだった。

 それでも、隙を見つけては一言二言だろうと自分に話しかけてきてくれたり、
仕事や委員会で忙しいだろうに、少ししか顔を出せないような日でも部活に顔を出してくれたりと、
いつだって雪姫の方から会いにきてくれていた。
 そういった事を、雪姫からの接触がなくなってみて初めて気付かされた。

──いい加減オレから行かなきゃ、やっぱりダメだよな……

 自分がどれだけ雪姫の好意に甘えていたか、今さら思い知らされて。
漸く、こちらから会いに行こうという意思が芽生えた。
 忙しくしているだろうに押しかけるなんて迷惑だとはわかっていても、
それでも、このままズルズルと放置して……なんて、それこそ耐え難い。
とにかく少しでもいい、雪姫と話そう──そう考えて。

──といっても、三年の教室に乗り込むとかは流石に……
  でも今日は委員会の仕事らしいし、今いるのは図書室だよな?
  それなら人数は多くないし、目立たずにも済むかも……行ってみるか……?

 人影が少なくなり始めた教室で、少年はぶつぶつと算段を立て始めるのだった。

─────────────────────────────────

「それじゃあね、雪姫。お先に〜」
「あっ、うん。お疲れ様でした」

 自分と一緒に最後まで残って仕事をしていてくれた委員が、ひらひらと手を振りながら図書室を出て行って。
一人残された雪姫は、ちらりと時刻を確認した。

──結構、ギリギリだったなぁ……

 最終下校時刻まで15分程度になっていた。

──……まあ、おかげで "今日のところは" 計佑くんにウソつかずに済んだけどね……

 計佑からは、委員の仕事が忙しいという理由で今日も逃げたのだ。
これで『実は仕事はすぐに終わりました』では、また1つ計佑への罪悪感が積み上げられてしまうところだった。

……とは言え……

「……はぁあ……いつまで逃げ続けるんだろうな、わたし……」

 話がしたいと言われて一週間。
顔を合わせないでいても、電話で切り出されるかもしれない。
そう考えて、電話すらも避け続けて、代わりとばかりにメールだけはまめにおくり続けて。
勿論、メールで伝えられてしまう可能性も心配ではあったけれど、そこまで徹底する訳にはいかなかった。
 長期戦の為に今は一時撤退してるだけ、というのが建前なのに、
連絡を全て絶ってその結果少年との距離を大きく開けるような事になれば、それこそ完全敗戦で終わってしまう。

……けれど、いい加減限界だろう事もわかっている。
いくらなんでも、そろそろ計佑にも怪しまれているかもしれない。

……それに、

──もう、計佑くんと会えなくなってどれくらいかな……

 メールだけの繋がりでは、もう切なさが限界に達しそうだった。
遠目に姿を伺った事はあるけれど、そんな物はかえって飢えを増長させただけだった。
夏休みの時には、計佑の声を聞けない期間が一週間程度で限界だった。
 なのに、今回はそれを遥かに上回る時間が経っている訳で──

──会いたいよぅ……声が聞きたいよぅ……けど会うのは怖いよぉ……

 二律背反に囚われて。
カウンターに突っ伏して、前腕にぐりぐりと額を擦りつけながら、

「計佑くぅん……」

 呟いて、

「はい、雪姫先輩」

──その声に、ギシッと硬直した。

 誰もいない筈なのに人がいた事についてと、そしてその声の主についての2つの意味で。
 恐る恐る顔を上げると、声の主──計佑が、カウンターへと入ってくるところだった。
久々に近い距離で目にする、愛しい人の姿に胸がドキリと高鳴るが、同時に恐怖も膨れ上がった。

「あっ、えっ!? どっ、どうして計佑くんがここに……!?」
「先輩と話がしたくて。……もういい加減、限界だったから」

 言いながら、もう少年が雪姫の隣へと腰掛けてきた。