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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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その顔つきがいつもより固いものに見えて、加えて声にまでいつにない力強さを感じた。

──やっぱり……避けてたコト気づかれてる……!?

 少年がそんな状態になっているのは、機嫌が悪いせいではと思うとますます怖くなった。
 けれど、考えてみれば当たり前かもしれない。
誠実な少年の事だから、まくらに気持ちを伝えるにしても、
まず自分に対してきちんと返事をしてからだと考えたのかもしれない。
 なのに、雪姫の方は逃げまわってばかりでいつまでも話をさせなかったのだから、
いい加減怒りを溜め込んでいても不思議ではなかった。
 その事に思い至って、改めて申し訳なくもなったけれど、

「ごっ、ごめんね計佑くん!! まだ仕事残ってるのっ、直に下校時間だし、今日はもう──」
「さっきすれ違った先輩から、もう仕事は終わったって聞きましたけど?」

 やっぱり怖くて、逃げようとした言い訳は通じなかった。項垂れて、

「…………うん…………わかった…………」

 とうとう観念した。

──……覚悟は一応してたコトじゃない……それに悪いコトばかりじゃないよ……

……そう、観念した、のだけれど。早速、心に慰めを並べ始める。

──『気まずくなるのもイヤだし、今まで通り友達ではいようね?』
……そんな風に言って、とりあえずは平気なフリでもしていれば、また傍にはいられるようになるんだもの……

 一度振られてしまえば、もう怖いものはなくなるのだ。
そうしたら、何食わぬ顔をして、また以前みたいに纏わりついてみせればいい。
 まあ、友人の範疇に収めなければいけないのだから、前ほど親密という訳にはいかないだろうけれど。
それでも、全然会えなかったこの二週間ほどよりは、よほどいい……そんな風に考えて。自分を慰め続ける。

「時間もあまりないし、単刀直入にいきますね。
……話っていうのは、散々待たせてしまった "返事" の事なんですけど──」

 卒業までまだ半年ある。いや、自分さえその気なら、卒業してからだって、いくらでも会いにはいける。
そう、これからまた頑張るのだ。

……まあとりあえず、今日はまた泣いてしまう事にしよう。
アリスに泣きつくのは流石に歳上としてどうかと思うし、カリナに甘えてしまおうかな。
……ああ、でもまた押し倒されたりしたらどうしよう?

──そんな余計な事まで考えて、もう泣き出しそうになっている自分を必死に誤魔化した。

「──先輩には、色々と謝らなくちゃいけなくて。
そんなつもりはなかったんですけど、でも結果的にはウソついちゃってて──」

 計佑が一方的に話し続けている。
それでも、自分の心を守るのに忙しくて、ろくに気に留めていなかった。

「初恋もまだだとか、まくらの事はただの家族って前に言いましたけど、実は違ってて──」

──ああ、いよいよか。
もはやぼんやりとしか話を聞いていなかったけれど、さらに心を麻痺させて。
俯いて、膝の上で握った拳へと視線を落とした。

「まくらがいなくなって、胸にぽっかりと穴が空いたみたいな気がして、それで──」

──もうわかってるよ。
──もうその先は、言われなくてもわかってる。
──でも、一応最後までは黙って聞かなきゃいけないんだよね……

 覚悟を決めた理性とは裏腹に、心はどんどん凍りついていって。
少女が俯いたまま、瞳からは光が消えて虚ろになっていく。

「──それで、ようやく雪姫先輩のコトが好きなんだって確信が持てたんですけど……」

──へえ、そうなんだ。
──よかったね、おめでとう。
──……私にとっては、死刑宣告みたいなものだけど──

「……え!!??」

 いきなりグンッと顔を跳ね上げると、計佑の方へと振り向いた。

「……い、今……なんて言ったの……?」

 聞きたくない話のあまり、勝手に脳内変換してしまったのだろうか?
肝心の場所が、ありえない名前に置き換わっていたような気が──

「え? いえ、やっと先輩の事が好きだって確信が出来たって……」

……したのだけれど、聞き間違いではないようだった。

──え……え……? な、何言ってるの……?

 まるで予想していなかった展開に、目を見開いて少年の顔を凝視していたら、

「な、なんですか……? 幽霊でも見たみたいな顔して……なんかオレ、変なコト言いました?」

──言った!! 言ったよ、思いっきり言ってるよ!! 何言い出したのかさっぱりだよっ!!

 感嘆符まみれの言葉が脳内に溢れかえったけれど、驚きのあまり口には出せないまま呆然としていたら、

「なんか先輩、さっきからちょっと様子おかしいですね……あの、ちゃんと話聞いてくれてました?」

 一応、聞いてはいたつもりだったけれど。
もしかしたら、自分が思っていた以上に聞き流してしまっていたのかもしれない。
前後の繋がりがまるでわからなかった。
 それでも雪姫としては、とりあえず『おかしいのはそっちの方だ!!』と主張したいところだった。

「……あ、あの……計佑くん、まくらちゃんのコトが家族としても、女のコとしても好きだったんだよね……?」
「あ、なんだ。ちゃんと聞いてくれてたんですね」

 少年がはにかんで見せるけれど、それが何故、ついさっきのセリフへと繋がるのかはやっぱり分からない。
相変わらず混乱が続いている間に、雪姫の手へと計佑の手が重ねられた。

──……え……

 雪姫にとって、計佑の手に自分の手を包まれるのは特別な事だ。動揺していた意識が、あっという間に落ち着いていく。
──そのお陰で、またおかしな事に気づいたけれど。

──なんで……計佑くん、こんなに落ち着いてるんだろう……

 先日の映画館では、こちらの手を握ろうとしていただけで一杯一杯だと言っていたのに。
この少年なら、きっとあの時は真っ赤な顔をして、震えまでしながらこちらの手を握ろうとしていただろうに、
今はすっかり落ち着いた様子で。
……計佑がこんな風になれるのは、こちらが弱って見せている時限定だった筈なのに。

「……先輩に応える時は、先輩の気持ちに負けないって思えるようになってから。
そんな風に考えてたから、本当はまだ伝えたくはなかったんですけど──」

──計佑の手に、力がこめられて。ぎゅっとこちらの手を握りしめてきた。

「でも、自分の気持ちがはっきりしたら、ちゃんと答えるっていうのも約束してましたものね。それに……」

──少年が、俯いて。

「最近、先輩に全然会えなくて。
……もしかして避けられてるんじゃあ、って考えるともういてもたってもいられなくなって。
もしもこのまま、先輩まで失うなんて事になったら、って考えた時に、もう絶対の確信が持てたんです」

──そこで、また少年が顔を上げてきて。

「まくらなら、どうにか耐えられても。先輩を失うなんて事だけは、絶対耐えられないって。
あんなに好きだったまくらよりもそんな風に思える先輩は、間違いなくオレの特別な、ただ一人の人なんだって」

──計佑が、じっとこちらの目を見つめてきた。

「誰よりも雪姫先輩が好きです。大好きな人なんです」