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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──いつも雪姫と目を合わせる時は、大抵ドキマギしてばかりだった筈なのに。
──今はまばたきもせず、まっすぐにこちらを見つめ続けてくる。

「さっきも言ったみたいに、
応える時は、オレの気持ちが先輩の気持ちに釣り合うようになってからって考えてました。
それが、あんなに強くオレのコト想ってくれてた先輩に対する、せめてもの礼儀だって思ったから。
なのに、まだまくらのコト完全に割り切りもしない内にこんなコト言い出すなんて、酷い話だってわかってます。
こんな酷い返事で、先輩にどんな顔をされるのかって思うと怖くて、逃げたりもしてました。
……でも……!!」

──優しく見つめられた事なら何度もある。
──けれど、こんなに熱い瞳で見つめられたのは初めてで。

「でも、オレにとって先輩がどれだけ大切な人か、もうわかってしまったから!
先輩にはずっとずっと、オレの傍にいて欲しいって!
……もう遅すぎますか!? オレに愛想尽きましたか!?
……いや、もしそうだとしても関係ない!
今度はオレのほうが、先輩のこと追いかけて……もう一度、オレの事好きになってもらえるまで、頑張りますから!!」

──ひたむきな、縋りつくような目で求められて。
──まさかの展開に、どこかまだ理解が追いついていなかったのだけれど、
この瞬間、とうとう少年の言葉が全て呑み込めて。一気に身体を満たした歓喜で、全身が大きく震えた。
──この人が、私の大好きなこの人が、今、私の事をこんなにも……!!

「あ……愛想なんて尽きるわけないよ……ずっと、ずっと大好きに決まってるよ……」
「──!! ホントですかっ!? 」

 奥手だった筈の少年からの熱すぎる告白に、完全に熱に浮かされて。
ぽやーっとしたままに口を開けば、少年が満面の笑みを弾けさせた。
 雪姫の大好きな、計佑の笑顔。
けれど、少年がここまで嬉しそうにしている笑顔なんて、いつ以来だろうか。

──そうだ、確かまくらが目を覚ましたという報を受けて、旅先から帰宅していった時のような。
その笑顔にボーっと見とれていたら、少年の顔が急に引き締まった。

「……それじゃあ先輩、あらためてお願いがあるんですけど……」

──何を言われるのか。その幸せな予感に、またぶるりと全身が震えた。
頭に血が上るなんてものじゃない。溢れてくる感情で飽和して。
もう目は潤み始めて、口も半開きになったところに、

「オレと結婚してくれますか?」
「はい……喜んで……」

 尋ねられて、溢れかえる幸せな気分のまま何も考えずに返事をして、

「──へ!?  け、結婚!?」

 我に返った。思わず尋ね返すと、少年がカッと赤くなった。

「あっいや!? 違うちがう違いますっ!!」

 バタバタと手を振って、次に頭をガリガリとかきむしりながら、

「くそっ……落ち着けてると思ったけど、やっぱテンパってるのかな。こんな大事なトコ言い間違えるとか……」

 ブツブツと呟いた後、またこちらに向きなおってきて、

「ホントすいません、先輩。まずは婚約が先に決まってますよね?」
「なにが決まってるのお!? 」

 大真面目な顔をしてボケる少年に、思い切りツッコんだ。

「えっ……な、何かおかしかったですか? 年齢の問題でまだ結婚は出来ないし、まず婚約ですよね?」

 計佑が狼狽えながらも、まだそんな事を言ってくる。

「ほ、本気で言ってる訳じゃないよね……?」
「……え。ま、まさか先輩、イヤなんですか……?」

 世界の終わりでも迎えたかのような表情を向けてきて。

「まっ、まさか!! ううんっ、イヤだなんて、そんなワケないよ!!
そりゃあゆくゆくはそうなれればって、私だって思ってるよ?
……じゃなくてっ!! そもそも、まだ私達付き合ってもないよね!?」
「あ。そう言えばそうですね。じゃあ付き合ってください。そして結婚もしてください」

 すぐに畳み掛けられた。……しかも、また求婚された。

「だっ、だからあ!! そうじゃなくて、なんで結婚とか婚約とか、そんな段階が飛んじゃうのお!?
 普通、もっとこう、お付き合いを重ねていってから……とかでしょお!?」

 訳がわからないまま、どうにか当たり前な質問をしたのだけれど、

「えっ、いやだって、両思いって事で、もう付き合うのは確定事項ですよね?
でもホラ、先輩はすごくモテるし。恋人ってだけじゃあ、他の男がワラワラ言い寄ってきそうだし、
最低でも婚約とかまで話進めとかないと、オレ、不安でたまらないんですよね」

 計佑は照れくさそうにそんな風に答えて、

「こないだのバイト代、まだ残ってますから。
そりゃ高いのとかは無理ですけど、それでもちょっとした婚約指輪、今度買いにいきましょうね」

 さらには、嬉しそうに笑いかけてまでくる。
けれども、雪姫の方はさっぱりついていけない。──いける訳がない。

──ど、どうしちゃったの計佑くんっ……!? な、なんで急にこんな……!

 ついこの間まで、『恋ってどんな食べ物?』みたいな顔をしていた癖に。
元々スイッチのオンオフで急に態度が変わる所はあったけれど、
開き直ったらここまで大胆になる人だったのだろうか。

──それにしたって、いくらなんでも極端すぎるよ〜〜〜!!??

 普通に見えて、実は全然規格外。
そんな少年の正体は弁えていたつもりだったけれど、
今回のそれはあまりにも想定外で、なんだか目が回りそうだった。

──お、おちついて、落ち着いて……よく考えてみれば大したことないじゃない。
  ……てっきり振られると思っていたら、高校生なのにプロポーズされただけ。

「──だけって、こんなの落ち着けるワケないよぉおお!?」

 冷静に振り返ってみようとしたけれど、やはり無理な話だった。
思わず叫んでしまっていたが、

「そうですね、 オレもすごい舞い上がっちゃってます。こういうのを『天にも昇る心地』って言うんですかね」

 ニコニコとした少年は、相変わらずズレた事を言ってくるだけだ。
……けれどそこで、少年が、はたと何かに気付いたような顔をすると。キョロキョロと当たりを見回し始めた。

「……うーん。このままじゃあ、誰かに見られちゃう可能性ありますよね」

 そんなセリフを口にすると、いきなり立ち上がって。
繋いだままだった雪姫の手を引っ張りあげてきた。
「え、え」とつられて雪姫も一度立ち上がったところで、今度は下へと手を引かれて。
二人してカウンター内の床へと座り込んだ。

「これでとりあえずは誰にも見られないですよね」

──何を、とは口にするまでもなかった。
もう少年の顔が、こちらの顔へと急接近しつつあったから。

「やっ、ちょちょっ、ちょっと待ってっ!!」

 慌てて少年の肩を押しとどめた。

「なっ、ななななな、何をする気なのっ!?」
「え、なにって……とりあえずキスでもと」

 勿論何をする気だったかくらいは察していたけれど、咎める意思も込めての質問をしてみれば、
『何当たり前のコトを?』みたいな顔で返されて。頬がヒクヒクと震えるのが自覚出来た。