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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──だからっ! ついこないだまで手だって握ってこれなかったクセに!!
  いきなりこんな飛び級してくるなんて反則でしょお!?

「……先輩? イヤなんですか……?」
「い、いやってワケじゃあ……!?」

 笑顔から一転、悲しそうにすがってくるその顔に、強烈に母性本能をくすぐられるけれど。
 それでも、少年の肩に置いた手から、力は抜けなかった。

──決して、嫌な訳ではない。告白されて、そのままキス。
ロマンチストな乙女としても決して不満はない流れの筈だけれど、
初めてのキスは、もっと落ち着いた気分の時に交わしたい。
 こんな、何がなんだかわからない内に勢いで済まされてしまうなんて
"初めて" に拘わりがある乙女としては、やっぱり許容し難かった。

「わ、わかったから!! 話はよーくわかったから、今日はもう帰ろう!?
ほっ、ほら、もう下校時間だしね! 続きは、また今度落ち着いてって事で──」
「──待てませんよ、そんなの」

 言うやいなや、計佑がこちらの手を掴んで肩から外させると。

──そのまま、雪姫の身体を床へと押し倒して、更には覆いかぶさってきた。

────なに……えええぇえええ!!!??

 一瞬何のつもりかわからなくて、けれど直ぐにパニックになった。

────ちょっとまって。まさかまさか、こんなところで……!!

「まってまってまって計佑くんいくらなんでもそれは無理ムリ無理駄目だめぜったいダメ、
いきなりこんなトコロでとかそんなこと──!!!!」

 慌てて、全力で抗う。必死に押しのけようとして
キャンキャン喚いてみせたところで、計佑の手がこちらの口をぐっと覆ってきた。

「……もう黙って……」
「─────!!!!?????」

 耳元で囁かれた。
続いて、計佑の息が耳にふうっと吹きかけられる。

ゾクゾクッッ……!

 全身に震えが走り、完全に硬直した。思考が真っ白になる。
 
 そうして雪姫が大人しくなったところで、
口を抑えこんでいた計佑の手がするりと動くと、そのまま雪姫の頬をすりすりと撫でてきた。

ビクゥンッッ……!!!

 少年にのしかかられているというのに、身体が大きく跳ねた。
 計佑の手は、自分にとって特別なものだ。
そんな手でさらさらと顔を愛撫されて、一際激しく心臓が悲鳴をあげた。
そのまま更に鼓動が激しくなっていって、もう破裂してしまいそうな気すらしてきて。
身体どころか頭の中まで熱くなって、もう何も考えられなくなった。

 力が完全に抜けて、くにゃりと身体が蕩ける。

──……もう、なんでもいい……

 潤み始めた雪姫の瞳が、そっと閉じられて──


─────────────────────────────────


 計佑が目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。
そして自分が固い床に寝転がっている事に気付いて、とりあえず起き上がろうとしたところで

「……いっつぅ……!!」

 ズキリと頭が傷んで、思わず声を上げて。その声が頭に響いて、さらに顔を歪めた。

──なんだよこれ……一体どうなって……

 ズキズキと痛む、重い頭を手で支えてゆっくりと辺りを見回す。
そしてここが自分の部屋などではなく、学校の図書室らしいという事に気がついた。

──はあ……? なんでオレこんなトコで寝てたんだよ……

 訳がわからなかったが、痛む頭ではゆっくりと考える気もしなくて、
こっそりと夜の校舎から抜けだすと、ふらふらとしながらも漸く家へと辿り着いて、
「どこほっつき歩いてたんだい!!」
と怒鳴ってくる由希子に
「今は調子悪いから、後で……」
と逃げるようにベッドへと倒れこんで。

──喉、かわいた……ああでも、下までいくのもかったるい……

 そこで、飲みかけのスポーツドリンクを机の上に見つけると、これ幸いとばかりに手にとって一気に飲み干した。

──は〜〜〜……アクエリアスがここまで美味いって思えたの初めてかもな……

 ペットボトルを机に戻して、そしてそこで、ふと違和感を覚えた。
 ペットボトルに巻かれている、見慣れた印刷フィルム。だけど何故か、今はそれが妙に意識に引っかかって。
そうしてぼんやりと見つめ続けていると、途切れていた記憶が急激に戻ってきた。

──雪姫に会いにいかなければ。
 そう決めた筈なのに、やっぱり勇気が出せなくて、
もう誰もいない教室でグダグダしている内に、茂武市が忘れ物を取りに戻ってきた事。
どうしたのかと尋ねられたので、茂武市にならいいかと先輩に返事をしに行くつもりだと明かした事。
「おおっ、ようやくかよ!!」
と祝福はしてくれたのだが、
「先輩の反応が怖い」と伝えると
「ああ……? あんだけ惚れられてて、何ビビる必要あんだよ?」と呆れられた事。

 まくらとの二股ぽい気持ちがあるからだ、等とは流石に口にしづらかったので口ごもっていると、
「……しょーがねーなあ。また用意するの面倒なんだけどお前にやるよ。これ飲めば勢いくらいつくだろ」
 スポーツドリンクのペットボトル──中身はアルコール──を渡された事。
 そして、随分悩んだのだけれど、いつまでも決心がつかない自分には確かに必要かと観念して、
初めての酒を口にしたら、それまで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきて──

 そこで、元々悪かった少年の顔色が更に青ざめていく。
──雪姫に求婚なんてものをして、押し倒して、覆いかぶさってしまったところまで思い出していったからだった。

「ウソだっっっ!!!!」

 思わず叫んで、またズキリと頭が痛む。うめき声を上げるとベッドに倒れ込んだ。
 記憶は雪姫に覆いかぶさった後、急激に眠気が襲ってきてからの
「……この息……お父さんがお酒呑んだ時の……!?」
 そんな雪姫の声で終わっていた。

──ウソだウソだウソだぁぁぁあああ!! 絶対にウソだぁぁあああああ!!!!

 大声は頭に響くので、代わりに激しく頭をふってみたのだがそれはそれで頭が痛んで、またうめき声が漏れた。

──ゆ、夢だ……夢に決まってる!!! そうだよ、初めての酒で、きっと悪い夢を見ただけなんだっ!!!

 だとしたら何故自分が図書室のカウンター奥で寝こけていたか説明がつかなくなってしまうのだけれど、
もはやそんな一縷の望みにかけるしかなかった。何故なら、

──散々待たせた挙句の答えは随分と失礼な内容で、
──それなのに求婚などという暴走を始めて、
──最後にはあんなトコロで押し倒しまでしてしまった。

 真面目で、奥手で、初心な少年には、そんな現実は到底認められないからだった。

──そ、そうだ! 先輩に確認してみようっ、そうすれば夢だって証明出来るっ……!!

……パニックに陥って、もはやまともな思考が出来ていない少年。
夢じゃなかったとしたら、その結果どうなるのか──そんなわかりきった事にも思い至らない。
 あの優しい雪姫が、大好きな筈の少年を床に放り出して帰ってしまうくらいなのだから
その感情は推して知るべしなのに、もはや "夢" という可能性に縋る事しか出来なくなっていた。