白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「けどなぁ、やっぱ黙って見てはいらんねーわ。
コドモに『踏んでくれ』みたいなやべーコト言ってる姿は、流石に見ちゃいらんねーんだわ……」
「……うっ……あ、あれは……」
雪姫の事を口にされて落ち込みがMAXになったせいで、つい自虐願望を口に出してしまったけれど、
確かにあの姿はあまりにも酷かったろうとは思う。
けれど、だからと言っていきなり雪姫を呼びつけるなんて、
乱暴過ぎるフォローじゃないのかという不満も抱いてしまう。
──そこで、茂武市のケータイが着信音を奏でた。すぐに茂武市はメールを確認すると、
「……お前、嫌われたって自分のコトばっか今は考えてるのかもしんねーけど、
先輩の気持ちも考えてみろよ? いきなり押し倒されたなんて、先輩もショック受けてんじゃねーの?」
「……あ……!」
その言葉で、初めてその可能性に気付いた。
昨日の電話の様子から、激怒しているとしか考えられなくなっていたけれど、
あの気の弱い雪姫だったら、男に押し倒されるなんて怯えや恐怖だって相当なものだった筈だと今更思い至った。
「……っ……!!」
「とりあえず、オレが無理やり酒なんか飲ませたせいとかってのは先輩に知らせといたから。
お前もとにかく謝り倒せ。少なくとも、好きって感情が暴走した結果だってわかってもらえれば、
きっと許して……許して……くれんのかなぁホントに……?」
無言で項垂れたところに、フォローしてくれて……いるつもりなのやら、
最後には微妙な顔をして首をかしげる友人の有難いお言葉に、溜息をついて。
観念して椅子へとまた腰を下ろした。
「……ま、まあきっと大丈夫だぞっ、計佑。白井先輩優しいし、絶対許してくれるだろ!!」
自分自身あまり信じてないような様子の茂武市はバンバンとこちらの肩を叩くと、そそくさと部室を出て行った。
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一人部室に残された計佑は、
もうテーブルに突っ伏す事はなく、けれど肩を落としたまま審判の時を待ち受けた。
出入り口には背中を向けたままだ。
……情けないけれど、いきなり雪姫の顔を目にするのは怖かった。
そうしてだんだんと顔が下を向き始めていたところで、
「本当に反省はしてくれてるのかな、計佑くん?」
そんな声と共にいきなり肩に両手を置かれて、驚きと恐怖で思わず腰が跳ねた。
──えっ、なっ!? い、いつの間に……!?
足音は勿論、ドアが開く音だって聞こえなかったのに。
……いや、思い返せば茂武市は出ていく時ドアを閉めていかなかったような気がする。
──それは実は雪姫からの指示で、茂武市はあえてドアを開け放したまま出ていったのだけれど、
そんな事を知るよしもない少年は、改めて茂武市への恨みの念を膨らませた。
「……凄い勢いで身体跳ねたね?
……もし座ってなかったら、いつかの病院の時みたいに壁まで突っ込んでたのかなぁ?」
耳元で囁かれたけれど、相変わらず振り返る事も出来ずに硬直を続ける。
雪姫の声は、昨夜のようなドスのきいたものではなかったけれど、
それでも状況を考えればやはり恐ろしすぎて、脂汗が流れてきた。
「茂武市くんに聞いたんだけど、私にキラわれでもしたんじゃあって、今日はヒドく落ちこんでたんだってね?」
「……それは……だって……」
あんな事をしでかして、昨夜の雪姫は凄く怒っていて、もうそうとしか思えなかったから。
しかしさっきの茂武市の言葉で、まだまだ謝らなければいけない事に気付かされた。
振り向いて、また改めて謝罪しようとしたけれど、
「だめ。そのまま前を向いていなさい」
ガシリと顔の両面を挟まれてしまって、雪姫の顔を見ることは許されなかった。
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──そうだよ……今は、こっちを振り向いたりしたらダメなんだから……
しっかりと計佑の頭を固定しておいて、雪姫は赤く染まった顔を緩ませていた。
──まあ、計佑くんらしいといえばらしいんだけど……ま〜た、そんなコト考えてたんだ……
どうせ押し倒してきたのだって、眠くなったせいとかそんな理由だろうくせに。
でもまあ、今回はそんな風に思うのも仕方ないのかもしれない。
昨夜の電話だって、いきなりぶち切ってしまったりもした事だし。
──怒って切ったんじゃなくて、恥ずかしかっただけなんだけどね……
確かに図書室で、計佑が酔って寝ている事に気付いた瞬間は、怒りでどうにかなりそうなくらいだった。
あんなに腹がたったのは生まれて初めてだったかもしれないくらいに。
計佑の身体を跳ね除けて、もう振り返りもせずにズンズンと帰宅して、
……けれど、やがて落ち着き始めると。
最後の行動はともかく、少年の告白自体はウソではなかったのではないかと思い始めたら、
怒りは静まっていって、喜びへと置き換わりつつあったのだ。
……まあ、そうしてじわじわと喜びを噛みしめていたところへかかってきた電話の第一声が、
まるであの時の事を覚えていないかのようなものだったので、
また怒髪、天をつく状態にもなってしまったのだけれど。
──だって、あんなの恥ずかしいに決まってるよ……あの時の私ってば……
もう完全に計佑を受け入れるつもりになってしまっていた。
あんな場所で、あんな時刻なのに。
きっとあれからすぐに、見回りの先生だってやってくる筈だったのに。
ちょっと耳に息を吹きかけられて、顔を撫でられたくらいでもうその気になっていた事を、
計佑もちゃんと覚えていると言われてしまって……顔から火が出る思いで、慌てて電話を切っただけの事だった。
──全く、あれからの自分がどれ程酷かった事か。
母やアリスにはドン引きされるし、今日一日クラスメートにだって随分心配されてしまった。
そんな嬉し恥ずかし120%な気分のせいで、
次にどんな顔をして計佑に会えばいいのやらとちょっぴり悩んでいたのだけれど、
この凹み切った計佑の様子からすると、あの時の "もう全てを許す気になっていた"
こちらの様子はよく覚えていないという事なのだろう。
……まあ、押し倒してきた時点ではもう殆ど寝ぼけていたのだろうから、無理もない気はするのだけれど。
──それにしたって、失礼な話だよねっ……!!
こっちは、一瞬とはいえ覚悟だってしたっていうのに……!!
あんなトコロで身体を許しそうな程になっていたのに、そこで寝こけて放置だなんて。
……いや、勿論そのまま最後までいかれてしまったりする方がよほどまずかったのだけれど、
女の子としてはあんな風に放り出されるのだって許しがたくて。
──だから……今は、私が攻める番なんだからね……?
計佑が初めて家へ来てくれた時といい、
自分は計佑に攻められると、あっという間にトロトロに蕩けてしまう。
だから今は、計佑にこちらを向いて話をさせる訳にはいかなかった。
今は罪悪感やらで縮こまっている様子の少年だけれど、何の拍子にスイッチが入って、
またこちらを蕩けさせようとしてくるかわかったものではないからだった。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON



