白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「いっ……てて……」
ゆっくりと計佑が身を起こす。
「計佑くんっっ!!!」
戒めを解かれた雪姫が、計佑に縋りついてきた。
「大丈夫っ!!?? 大丈夫なのっっ!!??」
計佑の体をまさぐってきて、
「だ……大丈夫です……あでも……あんま押されるとちょっと苦しいかも……」
その言葉に雪姫は慌てて手を引っ込めたが、また質問を重ねてくる。
「でも本当に大丈夫なのっ!? だって確かにあの時刺されて……!!」
「いやっ……何かその……これのお陰で助かったみたいで……」
全然安心する様子のない雪姫に、タネ明かしをする。
計佑が胸ポケットから引っ張りだしたのは、雪姫がコンビニで買った、くまのストラップだった。
「そ……それは……」
「先輩の荷物拾った時に、これだけ胸ポケットに入れといたんですよね……すいません先輩。これ壊しちゃいました……」
そこで一息ついてから、言葉を継ぐ。
「それに先輩ん家の自転車も借りたんですけど……そいつもここのドアにぶつけた時に壊したかも。
ホントにごめんなさい。それもちゃんと弁償しますから」
そしてまた大きく息をつく。
「それからストラップ買ってた時の事……すいませんでした。別にバカにするとかそういうつもりじゃなかったんです。
上手く言えないんですけど……ホントにすいませんでした。 ……ってオレ、先輩にはホント謝ってばっかですよね」
雪姫は涙目のままで、じっとこちらの言葉を聞いていてくれた。
けれど、コンビニのことを謝った時にはピクリと身体を震わせていた。
「でもホント……先輩が無事みたいでよかったですよ。俺殴られてばっかで、時間稼ぎしか出来なかったけど……
それに助けに来るの遅くなったのも、やっぱりすいませんでした」
そこまで言葉を並べたが、殴られる事しか出来なかったカッコ悪さと謝罪ばかり並べ立てる自分が情けなくなって。
でも雪姫が無事だったことには安堵も出来て──苦笑してしまっていた。
そんな計佑を見つめていた雪姫の顔が、くしゃっと歪んだ。
え、と思う間もなく雪姫が頭を計佑の肩に押し付けてきた。
<i>「なんっ、でっ、計佑くんがっ、謝るのっ……」</i>
雪姫の瞳からボロボロと涙が溢れだしていた。
<i>「私がっ……悪いのにっ……わたしっ、がっ……バカだった、からなのにっ。ごめんっ、なさいっ!!」</i>
雪姫が途切れ途切れの言葉で謝ってくるが、まるで意味がわからなかった。
今回の事で、雪姫に悪い所なんて何があったというのか。
「何で先輩が自分を責めるんですか……先輩は何も悪くないんですよ」
ポンポン、と肩を叩くと、雪姫の嗚咽がいっそう強くなった。
<i>「ありがっ、とうっ 」</i>
しゃくりあげながらも、言葉を紡ぐ雪姫。
<i>「あんなっ、恐い人ったちっ、からっ守ってっ、くれてっ」</i>
礼を言われるが、そもそも自分が雪姫を一人にしてまったのが原因で……あらためて申し訳なくなる。
<i>「計佑くんがっ、来てくれた時っ、すごく嬉しっ、かったっ……」</i>
「先輩……」
<i>「だけどっ、すごくっ」</i>
雪姫が一際大きく息を吸って、
<i>「こわかった!!」</i>
計佑の肩にしがみついてくる。
<i>「計佑くんっ、死んじゃっ、たんじゃないかっ、て思ってっ」</i>
雪姫が計佑の背中に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめてきた。
胸が押されて苦しかったが、こらえて雪姫の背中を支えた。
「こわかった、よ…… 」
「……先輩……」
「計佑くん……計佑くんっ…… 」
まだ震えてはいるが、ようやくすすり泣きくらいには落ち着いてきた雪姫に、計佑はほっとしていた。
──本当にこの人が……あんなクソ野郎どもになんて……!!
落ち着いたら、改めて怒りも湧いてきた。
誰かに殺意を抱いたのなんて初めてだった。
連中が掴まって一件落着した今でも、殺意は変わらない。今からでも殺しにいってやりたいぐらいだった。
──本当に……間に合ったのが不幸中の幸いだった……
まくらがたまたま現場に居合わせなかったら──
まくらがこの場所への道順を知らなかったら──
他にもいくつかの偶然があってのことだった筈だ。
あらためて、ギリギリの幸運に感謝して。
どうして雪姫の為にこれほどまでに焦り、怒り、安堵しているのか──
今はただ少女を気遣うばかりの少年には、考える余裕はないのだった。
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<9話のあとがき>
パコさんは便宜上「コーちゃん」と呼ばせました。パコだからコーちゃんと、まあ安易に……
8話の後書きで書いたとおり、
いくらか気をつかって服を切られないようにしたり、
男二人共前に座らせたり、出来るだけ雪姫の身体は守る方向に表現してみました。
その代わり、男たちは原作より更にカスにしてみたり。
コイツらがクソであればあるほど、後の計佑が輝きますからね(^^)
計佑がなんで間に合ったのかも、
前回のまくらの散策のおかげとか、ガソリンがどーのとか、色々と拙い頭ながら捻り出してみたつもりです。
書く前は、このクソ共事件の話は書くの苦労しそうだなぁ……
と不安だったんですが、なんか書いてみたら意外と上手く改変できた気がします。
前回、追加要素として計佑と雪姫のスレ違いを盛ってみたんですが、
意外とうまく今回にもそれを絡められたような感じで……
あ、何度目かもしれませんけど、これは『自分にしては良く出来たんじゃないかな』ですのでm(__)m
コンビニのあれ、初めは、ちょいと雪姫が恥ずかしがる心理描写を盛り込む程度で考えてました。
ところが、なんか意外とふくらませることができてしまいました。
ホントは事情聴取とか色々ある筈なんでしょうけどね……
そこはこの話には必要ないし、もう面倒だし、そもそも詳しくは知らないしなので、パスです。
あっ、雪姫がまくらの声を一瞬聞いたような描写ありますけど、
今後ゴーストまくらを雪姫が認識できるようになる……なんて展開はありません^^;
なんとなくノリで書いちゃいました。
だってそこらへん……漫画じゃまくらも健気に頑張ってるんだけど、
ここの話の中では全然描写出来てないですもんね……
完全空気は可哀想だったんで、何かしら挟んでみたくなったのです。
入り口が閉まった倉庫なんて真っ暗だと思うんですけど、なんかしら明かりを持ち込んでたってことで(^^ゞ
──あのカスどもは、常習犯ですから……(-_-;)
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第10話『告白』
10話
計佑は今、眠っていた。
雪姫がようやく落ち着くと、茂武市たちと共に雪姫の伯父の車に乗り込んだのだが、
その後すぐに寝込んでしまい……部屋に運ばれた今も、そのまま苦しそうに眠り続けている。
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「ホントにヒドくやられたね……」
計佑を診察した医者──雪姫の伯父が、雪姫、硝子、茂武市、カリナの4人に計佑の状態を説明していた。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON