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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「打撲はあちこち……右手は擦り傷も酷いけど、ヒビが入ってる指もあった。そして、肋骨も折れてるみたいだね」
黙って話を聞き続ける4人。
「傷口にバイ菌が入ってしまったんだろうね。今熱が出ているのはそのせいだろう。抗生剤は与えたから、明日までには落ち着くと思うよ」
立ち上がりながら、伯父が言葉を継ぐ。
「ともかく、今はゆっくり寝かせてあげなさい」

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玄関へと向かう叔父に、雪姫がついてきていた。
「あの……伯父さん、本当にありがとうございました」
「いやいや……そんな事より勇敢な少年だね彼は。……雪姫ちゃんの白馬の王子さまってところかな?」
伯父は靴を吐きながら軽口を叩いてみたのだが、雪姫が無反応なのにおや、と思う。
振り返って見ると、雪姫は顔を赤くして目を伏せていた。

──へぇ……あの雪姫ちゃんが。これはホントに……?

『雪姫ちゃんはさぞもてるんだろう? もう彼氏の一人や二人くらい──』
そんな風に雪姫がからかわれるのはよくある事だったが、
雪姫はそれにいつも困った顔で、しかしはっきり否定はしていた筈だ。

──まあ……幸雄と闘うことになるんだから、あれくらい頑張れる男の子じゃないと厳しいものなぁ……

弟の事を考えると少年の今後がちょっと不憫になったが、それ以上は会話を続けず、伯父は屋敷を去るのだった。

─────────────────────────────────

──パタン。

計佑が眠る部屋に入った雪姫が、襖を閉めた。
グロー球と田舎ならではの明るい月光のおかげで、部屋は意外と暗くない。
特に何が出来るという訳ではないけれど、もしかしたら状態が急変することだってあるかもしれない。
だから交代で様子を見よう。そういう話になったのだが、雪姫はそれを一人で引き受けた。
──というより、自分だけにやらせて欲しいと頼んだ。
こんな事になったのは自分のせいだから──と。
勿論カリナや茂武市はそんな事はないと否定したけれど、雪姫の気持ちも汲んで引き下がってくれた。
ただ、硝子だけが渋る様子を見せていたけれど……

─────────────────────────────────

計佑は夢を見ていた。
まくらが、誰かと話をしている。
その相手は……例の写真の人物、美月芳夏だった。
まくらが、美月芳夏の言葉に何か衝撃を受けている。
まくらの身体が震え始めて……

──どうした、まくら。何を言われたんだ……

計佑の言葉はまくらには届かない。

「……ぅした、まくら」

呟いた言葉と同時に、計佑は目を覚ました。
ぼんやりとした意識の中で、直前に見た夢を思う。

──夢……だよな。なんで写真の人とまくらが会話なんて。 ……でも、夢にしてはなんか気になる……

そういえば、まくらの姿を随分見ていない気がする。
体育倉庫まで案内してくれた後、自分が男たちに暴行を受けている間、
無駄だとわかっていても必死に叫び、男たちに殴りかかってくれていた。
けれど警察が駆けつけて、雪姫が開放されてから……まくらの姿を見かけていない。

──探さなくちゃ。

身体は痛むが、とりあえず上半身を起こすと──

「目が覚めた?」
「──!!」

そこではじめて、傍に雪姫が寝そべっていた事に気付いた。

「……何時間も熱が下がらなくて、うなされてたんだよ……よかった、落ち着いたみたいで」

雪姫がほっとした様子で微笑を浮かべて、起き上がる。そしてコップと水差しを手に取って、

「お水、飲む? 喉乾いてるんじゃない?」
「……あ……はい、お願いします」

確かにノドが乾いていた。ちょっと声を出しにくいくらいだ。
雪姫が注いでくれた水を受け取ると、一気に飲んだ。

「もう一杯飲む?」
「……はい、お願いします」

雪姫がまた注いでくれた水を飲んで、ようやく落ち着いた。

「……ふう……ありがとうございました」

礼を言うと、雪姫は無言で微笑んで、コップを受け取るとお盆に戻してくれた。

「……先輩、まさかずっと起きてくれてたんですか?」

申し訳ない気持ちで、半ばクセになってきた謝罪も継ごうとしたが、

「ねぇ計佑くん……」

雪姫が話しかけてきたので、とりあえず言葉を呑み込んだ。

「……計佑くんは……なんでそんなに優しいのかな」
「……え? オレ別に普通だと思いますけど」

謙遜などではなく、本心でそう答えた。けれど、雪姫はふふっと微笑うと

「普通、か……まあ計佑くんならそう言うよね……『本当に』優しい人だから」

そんな風に言ってくる。

「……? はあ……でも優しいって言うなら先輩の方がよっぽどだと思うんですけど。
今だって……わざわざ俺のために起きててくれたんでしょ?」
「……それは計佑くんだからだよ」

早口の小声だったせいで、よく聞き取れなかった。

「あの、今なんて──」
「私は。ただ人前ではいい顔をしようとしてるだけだから。『本当の』優しさとかじゃないんだ……」

寂しそうな顔をして言う雪姫に、なんと言っていいかわからない。
この旅行中も、みんなに色々と気を遣いながら取り仕切っていた雪姫。
そんな人が、なんでそんな風に思うのか不思議だったが、
彼女の深い内面の話なのかと思うと、軽く口を挟む事が出来なかった。

「……それにしてもさっ」

気をとり直したように、雪姫が笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「計佑くんが優しいのは知ってたつもりだけど、あんなに強いのにもびっくりしたよ」
「ええ!? どっどこが!? 」

今度こそ納得できず、声を大きくしてしまう。
男たちに一撃すら入れることが出来ず、サンドバッグになるだけだったのに。
つい、またからかいモードに入ったんだろうかと疑ってしまう。

「あんな恐い人たちに、正面から向かっていって……勝てないだろうって事はわかってても、
……私……のために立ち向かってくれたんだよね?」

途中、一瞬ためらいながらも、雪姫が質問してきて。

「いや……あれはカッとなっちゃっただけで。別に勇気とかそういう話でもないんですけど……」

勿論、雪姫を助けるために駆けつけたのだけど、計佑は今まで殴り合いのケンカなんて一度もやった事がない。
だから勝てないだろう事は分かっていた。それで道中に、雑だが一応プランは考えたりもしたのだ。
警察は呼んであるのだから、その事を連中に伝えて。
お前らの顔と車のナンバーは覚えたと煽って、逃げまわり時間を稼ぐとか──
でもあの時、縛られた雪姫とその傍にいる男を見た瞬間、もう我を忘れてしまったのだ。

──ただ実際、そんな手をとらなくて良かったわけだけれど。
連中は想像以上にタチが悪かった訳で、もしそんな手をとっていたら、
警察が来る前に口封じだと雪姫たちを殺しにきていたかもしれない。

そういう訳で、雪姫は自分の勇気を讃えてくれているらしいが、素直に受け止める事ができなかった。
それでもやはり、雪姫は微笑のままで見つめるくる。なんだか尊敬の眼差しのような──