白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「あと一回使ったら捨てるつもりだったボロ傘ですから。
使ったら捨てちゃってください」
そこまで言われては、これ以上遠慮するのもかえって悪いかと、傘を受け取った。
「……ありがとう……」
「じゃあ失礼しますっ」
少年は自転車置き場へと駆け出していく。
「…………」
無言で、もらった傘を開いてみる。
確かにボロだった。──あちこち折れてて、想像以上に。
また軽く吹き出してしまう。
──なんかヘンな男の子……
一分にも満たない短いやり取りだったけれど、その笑顔が不思議と心に残った。
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──おふくろぉ……!!!
母親の「もう一回くらい使えるわよ。持ってきなさい」という言葉のままに持っていった傘だった。
『ちょっと使えないくらいボロボロだったよ』という雪姫の話を聞いて、計佑は火が出る思いだった。
別にカッコつけたつもりはなかった。
それでも、ちょっとした親切のつもりが実はゴミを押し付けてただけとなれば、いたたまれないのは当たり前だ。
本当にこの人には、痴漢行為を数々働いてしまうわ、カッコ悪いとこばかり見せてしまうわで……
あらためて、なんでこんなに構ってもらえてるのか不思議になる。
──そんなにオレって、からかい甲斐あるのかなぁ?
……未だに、雪姫にとっての自分はそれだけの価値しかないだろうと考えてしまう、鈍感で、そして謙虚すぎる少年だった。
──それにしても……なんで気付かなかったんだろう?
入学式の日、確かに綺麗な人だと思った覚えはある。
これだけ綺麗な人は滅多に見ないのだから、
少なくとも終業式の日には思い出してるのが当たり前だろうに……なんでそんなに鈍かったんだろう?
──あの頃よりはちょっと成長した少年は、そんな風に過去の自分を不思議がっていた。
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「それにしても……ふーん。計佑くんは、私のことなんてすっかり忘れてたんだね……」
雪姫はすねた顔と口調を作って、計佑を責めてみた。
「やっ、忘れてたわけじゃ!! 覚えてますよ、ちょっと一致しなかっただけであって!!」
あせあせと弁解してくる計佑の姿が可愛くて、雪姫はまた微笑に戻った。
──まあ……忘れてしまってたワケじゃないんならまだいいのかな……
覚えてないんだ……と一瞬がっかりしたが、そうでもなかったようだ。
気づいてなかった、が正しいみたいだけど、それでもやはり、ちょっと微妙な気分にはさせられた。
──そりゃあ確かに1分も話してなかったんだけどさ……
それでも私はずっと覚えてたし、すぐに気付いたんだけどなぁ……あれ? でも──
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「でもそれじゃあなんで裏門の時……計佑くんも思い出してくれてたからじゃないの? 私の顔を見てぼーっとしてたのは……」
「あ、いえ。あれはただ、ホントにキレイな人だなぁって見とれてただけで」
その時の事を思い出して、計佑は何も考えずそのまま言葉にした。
「……えっ……!!」
それに雪姫が息を呑んで、かああっと赤くなっていく。
その様を見て、自分が今言った言葉の恥ずかしさに気付いた。
──な、何言っちゃってるんだよオレっ……先輩を口説きでもするつもりかよっ……!!
勿論そんな意図はなくて、
ポロリと本音がこぼれただけの話なのだが、だからこそ恥ずかしさもひとしおだった。
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──嬉しいっっ……!!! 計佑くんが、私のコトを綺麗って……!!!
他の男に言われても胡散臭いとばかり思えて、父親からのそれは親の欲目だろうとしか思えなかった言葉。
でも計佑の口から聞くその言葉は、まるで別物だった。その甘さは格別で、一気に心臓が早鐘を打った。
下心のない『本当の優しさ』。
自分の事より人の無事を喜べる『本当の強さ』。
こんなに優しくて強い人、他には知らない。
そんな憧憬の気持ちに、今の一言の嬉しさが加わって──
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恥ずかしさが引かなくて、計佑はつい黙りこんでしまっていた。
チラリと雪姫を見る。
雪姫のほうは赤い顔でギュッと瞳を閉じたまま、唇をむにゅむにゅとしていた。
そんな雪姫の内心など露知らぬ計佑は、
──そんなに恥ずかしいこと言っちゃったのか俺……──
などとずれた事を考えつつ、改めて顔を熱くしていた。
──そうして、体感時間ではたっぷり三分ほどが経って。
ようやく落ち着いたらしい雪姫が口を開いた。
「……私さ……素直じゃないんだよね……」
雪姫は瞳を伏せていて。
「本当は臆病で、自信がなくて……」
半ば独り言のように語っている様子だったから、計佑は口を挟まなかった。
「今さら……性格が変えられるとは思えない。でも──」
そこで、雪姫が伏せていた目を上げて、計佑の目を見つめてきた。
「……でもせめて。計佑くんには素直でありたい」
「……はあ」
──先輩のオレへの態度って、奔放だし十分素直そうに見えてたんだけど。これ以上素直にって──
「好き」
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<10話のあとがき>
原作10〜14話は雪姫派には至高の宝物!!
(個人的には3〜4、6〜9話も最高なんですけどね)
という訳で、雪姫先輩のためにこんなん始めた身としては、この10話は特に気合いれないといけなかったんですが……
……なんかもう、盛る必要はなかった?
……というか、盛るとむしろテンポ悪くなった……?(-_-;)
(26話書き上げてみてからの追加コメント・うーん、書いた直後はテンポ悪くしちゃった気もして微妙だったけど。
今読み返してみると、そんなに悪くないような気もしてたり。……多分、後半は長い話ばっかりだったので、
この頃の短い話程度では全然冗長に感じないほど麻痺しちゃったからかもしれません?)
でもまあ僕は鈍い人間なので、一から十まで解説してくれるような読み物が好きなんです。
H2Oのはやみちゃんとかレンジマンが大好きなのも、
ヒロイン視点があってそこでヒロイン側の心理描写を詳しく描いてくれるからであって。
そういう訳で、他の方には蛇足もいいとこかもしれないんですけど、今回も色々と盛ってみましたm(__)m
ただし、雪姫の心の声は今までより少なく、を心がけたつもり。……あんま変わってないかもだけど(-_-;)
ラストの一言のインパクトのためには、それは大事かなぁと。
(入学式のシーンは別ですけどね。あれは過去だから問題ないかと)
という訳で、入学式のところはそれなりに盛って、改変してみました。
おかげで、計佑が入学式の時点で、既に雪姫を結構救えていたっぽく出来たかなぁと。
ちなみに原作と違って、こちらではまくらの姿を雪姫は見てない設定です。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON