白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
そんな計佑の手に、雪姫の手が重ねられた。
「……え!?」
ドキリとする。
「……何も言わなくていいよ」
雪姫が、ふわりと微笑んでいた。
「ただ今は……このまま手を握っててもいい……?」
ふるりと、雪姫の手が震えた。
「一人で寝てると……思い出しそうで……」
その言葉で、昨日の事件を思い出した。
『本当は臆病で、自信がなくて──』
さっきの雪姫の言葉も思い出された。
──こんなにキレイで、優秀な人なのになんでそんなこと……?
以前の自分だったら、さっきの言葉を、そう不思議に思うだけだったかもしれない。
けれど、病院での様子や、公園での表情、電車での泣きそうな顔やコンビニでの萎れた姿──
それらを思い返した時。
雪姫のさっきの発言が、腑に落ちたのだった。
──そうだ……確かに先輩は、とても傷つきやすい人なんだ……
そう気づいた瞬間。
──守ってあげたい……!!
そんな強い衝動が芽生えて。
「…………」
何も言わず、雪姫の手を、きゅっと強く握り返した。
雪姫は少し驚いたように目を大きくしたが、すぐに安心したように目を閉じて。
やがてすぅっと眠りにつく。
そうして計佑はしばらくの間、そのまま雪姫の姿を見つめ続けるのだった。
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──やっぱり反則だよ……計佑くんは……
ついさっきまで、真っ赤な顔をして狼狽えてばかりだった癖に。
私が弱音を吐いた途端──落ち着いた微笑で、こちらの手を握り返してきてくれるなんて。
その優しさに、また胸が熱くなる。
──それにしても、やっぱり私は弱いなぁ……
硝子の介入は、正直ありがたかった。
自分も随分といっぱいいっぱいだったけれど、計佑の様子はそれ以上だった。
赤い顔をするだけならまだしも、その内凄い顔までし始めたので、
正直「今のはナシ!!」とでも言って、逃げようかなんて思い始めた矢先だった。
そんな醜態を晒さないで済んで本当によかった……と、改めて硝子に感謝する。
──まあ……結局、何も言ってもらえなかったのはちょっと残念だけど……
もう自分の中でためこんではおけない、とにかく伝えてしまいたい──
そんな気持ちでの告白だったから、付き合って欲しいなんて言葉は重ねなかった。
だから結局「何も言わなくていいよ」と切り上げもしたのだけれど……
乙女心としては、やっぱり何かしらの言葉は欲しかったというのも本音で。
そんなちょっぴりの不満は残ったていたけれど、
計佑の優しい微笑と、今握ってくれている手の感触に安心したら、それもすぐに消えて。
……雪姫は、やがて眠りにおちていったのだった。
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6時を過ぎた頃に、雪姫が目を覚ますと。
目の前で、計佑が眠っていた──雪姫の手を、しっかりと握ったままで。
その握っている手を見て、ほわっとする。
夢で魘されたりするかもという心配も、杞憂に終わった──この手のおかげだろう。
ふわふわとした気分のまま、
軽く爪を立ててみたり、逆に計佑の爪先に自分の指を押し付けてみたり。
そんな風にひとしきり計佑の手と戯れると、今度は計佑の横顔にも注目した。
朝日の下で、その顔には絆創膏や包帯が目立っていて──改めて申し訳なくなるけれど、最高に愛しい顔でもあった。
そっと手を伸ばすと、絆創膏が貼られていない方の頬にふわりと触れる。すりすりと、軽く撫でてみた。
「……ん……」
計佑が寝返りをうったので、慌てて手を引っ込める。
寝返りをうった計佑は今、雪姫と向き合う形になっていた。
「…………」
雪姫はそうっと、計佑の手から自分の手を離した。
「…………」
両手を計佑の頬に、ゆっくりと添えてみた。
「…………」
そっと顔を近づけて、鼻と鼻が触れ合いそうな距離で──動きを止めた。
──本当……こんなに男の子の事を好きになっちゃうなんて、全然思わなかったなぁ……
以前の自分からは、まるで想像出来なかった。
男には苦手意識があって、いつも壁を築いていた自分。
それが、この男の子と知り合ってからは、あっという間に崩れていって。
今では距離をとるどころか、いくらでもくっついていたくなってしまって。
──ドキドキさせられる事もあったけど、
基本的にはカワイイ……そばにいて安心出来る男の子だったのに。
──いや、それは今も変わっていない。
もっとドキドキして、でも今まで以上に安心できて。
可愛くて、なのに格好よくて、尊敬も出来て。
そして、もっともっと、ずっと傍にいたくなった──それだけだ。
「…………」
もう、このまま唇を捧げてしまいたい気持ちもあったけれど。
計佑の気持ちがわからない以上、そんな勝手な事はやっぱり出来ない。
名残惜しかったけれど手を離して立ち上がると、障子をそっと閉めて、雪姫は朝食の準備に向かった。
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結局、昨夜の計佑は朝方まで眠れなかった。
雪姫の手を握ったまま色々考えていたら──またドキドキしてきたりで、なかなか寝付けなかったのだ。
そんな調子で、漸くまた眠りにつけて、そして今、短い睡眠から目を覚ますと、もう雪姫はいなかった。
……何故か残念な気もしたけれど、それに関してはすぐに考えるのをやめた。
ほっとした気持ちもあったからだ。あのまま、茂武市やカリナに発見でもされたら、またややこしくなってしまう。
──……そうだ、須々野さんの誤解を解かないと!
昨夜の事を思い出し、誤解ではないのに未だそんな事を考える少年は、慌てて起き上がって。
廊下に出ると──ついてることに、ちょうど硝子が歩いてきた。
「あっ!! 須々野さん。おはよう……昨夜の「まくらには内緒にしておくから」
途中でセリフを被せられた。
早口で、硝子にしては随分と低い声だったので、ちょっと驚いたけれど、
一言だけ言い捨てた硝子がそのまま通りすぎようとしたので、慌てて引き止める。
「やっ、ちょっと待って待って!! だから誤解なんだってば」
硝子が、ゆっくりと振り返ってくる。
「……誤解って何が?
目覚くんのケガに責任を感じた白井先輩が、一晩中そばについててくれた。
……なにか間違ってる?
「……う……違わないけど」
初めて見る硝子の冷たい態度に、思わずたじろいでしまう。
「そしてまくらには知られたくないだろうと思ったんだけど、それも間違ってる?」
「……っ……いや間違っては……でもっなんでまくら限定なんだよ?
誰であっても困るよ。変なふうに話が広まったりしたら、先輩だって迷惑だ」
最後の言葉のところで、硝子の顔が更に暗くなった気がしたけれど──
「……ごめん目覚くん。ちょっと意地悪だったね」
やっと、硝子が笑ってくれた。
……困ったような、苦笑だったけど。
「大丈夫。目覚くんの言いたいことはわかってるつもりだから……安心して」
「あ、うん……わかってくれたならいいんだ。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON