白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
須々野さんもありがとう。昨夜、俺のこと心配して見にきてくれたんだよね?」
「……そのせいで、お邪魔しちゃったみたいだけどね」
硝子がまたイヤミを口にする。けれど、今度は一応笑顔だった。
「だからー!! 勘弁してってば」
硝子が何故暗い顔をしていたのか──深くは考えないのが、この少年だった。
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硝子と別れた後、洗面所へ向かう途中で茂武市、カリナとも出会った。
茂武市には軽く茶化され、
カリナには「まあ坊やにしてはよく頑張った!!」と肩を叩かれたりして。
そして二人とも別れ、また洗面所へ向かい出したところで──今度は雪姫とバッタリ出会ってしまった。
「「……あ……」」
ハモってしまい、二人で同時に俯く。
<i>「おっおはよう……どっかいくの? 」</i>
震える声で、雪姫が先に話しかけてきた。
「いや、あのっ顔を洗いに……」
<i>「あ、ああっ、そっか」</i>
やっぱりまだ、雪姫の声は震えていた。
「……っ……計佑くんっ……戻ったら……私ご飯作ったから……食べてくれる……かな?」
──せっ、先輩の手料理!?
<i>「は……はい!! スグ行きます!!」</i>
顔が熱くなる。
「じゃあ……待ってるね」
上目遣いで微笑む雪姫の顔色も……真っ赤だった。
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──うおおおお!!!
なんなんだこれっ!? めっちゃハズかしいっ……!!
先輩の顔を真っ直ぐみれなかった……っ!!
バシャバシャと顔を洗いながら、昨夜答えが出なかった問いにまたチャレンジする。
──何も言わなくていいと先輩は言った……
付き合って欲しいとか、そういうワケじゃないってことか?
すると…… "恋愛感情の好き" じゃなくて、"人として好き" とかそういう話だったりするのか?
……あの状況でそんな訳はないのに、相変わらず、とんちんかんな事を考えてしまう少年。
──なんか先輩、昨日の俺の事、色々勘違いして過大評価してたみたいだし……
そうだよ、偶然見つけたなんて与太話を、超能力とか何とか大袈裟に受け止めてたくらいだもんな……
そっか、そういうことだったんだ!!
……今度はあながちズレてはいない考え方だったが、
そもそもの立脚点が間違ってるので、やはり導かれた答えは明後日の方向のものだった。
──な〜んだ……悩んで損した。
……そうだよなー、あの白井先輩がオレみたいのに、……なんて……
さっきまでの熱い気分が、一気に冷めて。
暗く沈んでさえいったけれど、その理由については、やはり考えようとはしない少年だった。
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計佑が食卓へ向かうと、もう食事の準備はできていた。茂武市たちも揃っている。
計佑の為に用意してある席は、雪姫の左隣で──向かいにはカリナと茂武市、硝子は雪姫の右隣──
その席につくと、すすっと雪姫が寄ってきた。
「利き腕ケガしてるから、食べるの大変でしょう? 私でよかったら……手伝わせて?」
「えっ!? いやっ……そんな別にっ」
落ち込んだ気分が、それだけのやり取りで、また高揚するのを感じた。
「遠慮しないで」
雪姫が計佑の分のスプーンを手にとった。
ちらりとカリナ達を見やってから、
「これくらいはさせて……計佑くんのケガは、私の責任なんだから」
そう、赤い顔で言う雪姫。
しかし計佑は、その言葉にまた少し気分が沈んだ。
──そっか……やっぱり昨夜からの先輩の態度は、ただの責任感か……
「……先輩。昨日も言ったけど……先輩には責任なんてないんです。だから──」
言い終わる前に、雪姫がすっと計佑の耳元に唇を寄せてきて、
「好きな人のお世話くらいさせてほしいな」
「えっ……!? 」
驚いて軽くのけぞると、雪姫はカリナ達には見えないように、ウインクまでしてきた。
──なっなにこれっ……ホントにこれ、"人として好き" ってだけ……なのか!?
さっき出したばかりの結論が、揺らいでしまう。
──いやでもっ……またいつものようにからかってるだけ……とか……?
……けど、人前で先輩がからかってきたことは今までなかったような……
また頭がぐるぐるしてきてしまう。
「はい、あーんして」
結局熱い頭のままで、言われるがまま口を開いてしまう。
そうして雪姫が、「あー……ん……」言いながら、口の中にスプーンを差し入れてきた。
「……どうかなぁ? 計佑くんの口に合うといいんだけど……」
心配そうに、でもどこか期待を込めた瞳で見上げてくる。
「うっうまいですよ……スゴクおいしいです」
「ホント!? ……よかった……」
ホッとした、そしてすごく嬉しそうな笑顔を雪姫が浮かべて。
「じゃあまた……あーん……」
「あー……熱っ!?」
今度の具は一際熱くて、思わず悲鳴が出た。
「あっごめんっ!! ……ヤケドしてない!?」
「やっ大丈夫ですっ」
「……ふーふーもしたほうがいいのかな?」
雪姫が上目遣いで尋ねてくる。
「いやそれはっ!? 」
恥ずかしすぎます、とは言葉にできなかったが、
「ふふ……それはさすがに恥ずかしいかな?」
やっぱり幸せそうに雪姫が笑って。
──計佑は、もう雪姫の事しか目に入らなくなってしまうのだった。
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雪姫の方も、実は内心、相当恥ずかしがっていた。
けれど、それ以上に舞い上がってもいた。
今までは、一応人前では抑えていた部分もあったのだけれど……もう、そんな我慢は出来なくなっていた。
カリナや茂武市の、ぽかんとした視線は気になるけれど、
『私のせいのケガだから』という免罪符だってある。それで開き直れた。
──幸いな事に。
計佑の方を向いている雪姫には、隣に座っていた、今は後ろにいる硝子がどんな顔をしていたのかは……見えなかった。
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朝食後、未だ席に残っているのは計佑だけだった。
食事が終わると、「ちょっと待っててね」と言い残して雪姫は食器を運んでいった。
別に歩けない訳でもないし、せめてそれくらいは自分でやりたいところだったけれど。
そして今、計佑は早く外に出たい理由もあってそわそわとしていた。
──まくらは一体どこいった? メシもずっと食ってないハズだし。
コンビニ行って、またメシ買ってこないとな……
昨夜コンビニで買っておいたまくらの為の食料は、茂武市やカリナが夜食にと平らげてしまっていた。
雪姫には待てと言われたけれど、やはりまくらを捜さないと。そう考えたところで、
「お待たせ計佑くん。コレ……見たがってたやつだよ」
雪姫が古いアルバムを運んできた。
「あっ……!? 」
──あの写真の人のっ!?
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON