白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
雪姫の時と違って気負いなく対応してるもんだから、ナチュラルに優しいとこを表しやすいんですよね、多分……
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第12話『島編第1話 "テレパシー"の真意……?「事故だもん! ノーカウントだからねっ!?」』
12話
結局、島への出発は午後になった。
目的地の鍵を借りようとしたら祖母が見つからなかったり、
色々と用意もしていたら、意外と時間がかかってしまったからだった。
ちなみに、カリナ達は来ていない。
計佑が「他の人間には話さないでほしい」と、雪姫や祖母に頼んだからだ。
「手漕ぎボートしかないけど、見える距離だし大丈夫っ、私が漕ぐからね!!」
船着場につくと雪姫が力説してきたが、そんな事をされては計佑に立つ瀬がない。
大丈夫だからとやんわり断って、オールを手にとった。
「遠くはないけど……やっぱり夜に海を渡るのは避けたいし、日が暮れる前には帰ってこようね!? 」
雪姫が、また力説してきた。
……今度は、何か切羽詰まった感じで。
「??? ……そうですね。もう、先輩を危ない目に合わせたくはないですから」
計佑が昨夜のことを思い出して苦笑しながら言うと、雪姫は何故か顔を赤くした。
「……? どうかしました、先輩?」
「……なんでもない。ちょっと嬉しかっただけ……」
「……???」
──今のセリフ、なんか特別なとこあったかな……?
……天然少年は、決して気付かない。
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問題なく島へとたどり着いた計佑たちは、今は寂れた商店街を歩いていた。
「昔はキャンプ場とかもあった筈なんだけど……すっかり廃れちゃってるね。
おばあちゃんから聞いた通り、誰も住んでないみたい……」
「そうですね……」
──療養所のコトを知ってそうな人に話を聞く、ってのはやっぱ無理そうだな……
その事はもう出発前にわかっていた事なので、特に気にすることもなく歩き続ける。
一方まくらはこの島についてから、何やらしきりにキョロキョロしたり、飛び回ったりしていた。
その内、何か話ができたのかヒュンっと計佑の元に飛んでくる。
「ねぇ計佑。私ここ……何か見覚えあるんだけど」
「なに? ホントか?」
「子供の頃……計佑も一緒だったハズだよ。キャンプとかで……」
「……そう……か?」
まくらはどうも確信を持ってる様子だが、計佑には特に思い出せる物はなかった。
──美月芳夏がいたって場所に、まくらも来たことがある……それって偶然──なのか?
とはいっても、今の情報量で考え続けても答えが見つかるとは思えなかった。
とりあえずはまくらの言葉を心に留めて、計佑も今までより注意深く辺りを見回しながら、歩を進めるのだった。
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「……うわぁ……」
目的地に着いてからの第一声に、『えぇー……これが……』という響きがこもるのは仕方なかった。
写真からは見る影もない、ボロボロ状態の廃屋だったからだ。
「ここが、あの写真の人がいたっていう療養所ですか……」
雪姫に話しかけたのだが、まくらが返事を寄越してきた。
「すごいボロ病院だねぇ……オバケとか出そうな感じ」
──お前が言うな。あと病院でもねーし。
とは雪姫の手前ツッコめない計佑だが、正直同感な雰囲気だった。
しかしここに来た目的は建物ではなく、残っているかもしれない資料のほうだ。
建物がボロくても構いはしないのだが、あまりの荒れ様にちょっと心配にはなる。
「中入っても崩れたりはしねーかな……? とりあえず周りを見て回ったりしたほうが……」
<b>「ダメよっ!!」</b>
雪姫の一喝に、ビクリと振り返る。
<b>「そんな悠長なコトしてたら、日が暮れちゃうでしょっ!? 」</b>
ズンズンと入り口まで歩いて行くと、雪姫はドアのカギを開いて。
ギギ……と押し開くと、中の様子を見てピキリと固まった。やがてギギっと振り返ってくると、
<i>「……はっ早く! 明るいうちに見て回りましょ……」</i>
……ガタガタと震え始めていた。
「せっ……先輩? 大丈夫ですか? なんかえらく震えて……」
<i>「震え!? 何言ってるのっ。そんなワケないでしょっ!!
ほら急ご……夕方までには絶対 "ここ" を出なきゃなんだからねっ」</i>
確かに、夕方には島自体出る予定だ。
けれど、今の雪姫の言葉の感じは、"ここ" とは島ではなく、この建物を指していたような。
──もしかして先輩……恐いのダメなのか……?
『夜の海なんて渡りたくない』『こんな廃屋、日が暮れるまでには絶対出なければ』
そんな雪姫の意志表示から計佑が推察している内に、雪姫は震えながらも、一人で中へと踏み入っていく。
無理を言って道案内してもらった上に、怖がっているのを更にお化け屋敷モドキに連れ込む訳にはいかない。
外で待ってて欲しいと伝えようとしたところに、まくらが耳打ちしてきた。
「ほらっチャンスだよ!! 計佑っ」
「……? チャンスって何だ?」
意味が分からず尋ねると、
「……なんでこれでわからないの……?」
逆に不思議そうな顔をしてまくらが聞き返してくる。そしてまくらは、はぁっとわざとらしくため息をつくと、
「白井先輩は超コワがってる。
ここで計佑が頼れるトコロ見せる。
『わあっ計佑くんカッコイイ♪ 好きっ♪』
……これでわかった?」
まくらが小馬鹿にしたように上から見下ろしてくるが、この時の計佑は何も言い返せずに固まってしまっていた。
──『好き』……
昨夜の雪姫の言葉を思い出してしまったからだった。
「……あれ? どーかしたの?」
リアクションを起さない計佑に、まくらが訝しげな顔をする。
「──っ、いやなんでも!!」
慌てて金縛りを解く。
まくらは、昨夜の雪姫との一幕は知らないのだ。
これ以上ツッコまれてボロが出て、それであの一件がバレたりなんてのは拙い──
──……マズいって……何がまずいんだ?
今のまくらに知られたところで、まくらの口から噂になるという事などありえないのに。
──『まくらには知られたくないと思ったんだけど──』
そこで、硝子の一言が思い出された。
──須々野さんがあんなコト言うから……一瞬、ホントにそんな気がしただけだろ。
そう結論づけて、この事に関して考えるのはやめた。それよりも今気になるのは、やはり雪姫の事だった。
──違うって思ったんだけど……本当に違うのかな……?
今朝の言動や、二人きりになってから時折見せる、彼女の恥ずかしそうな顔などが、また計佑を惑わせていた。
──危機的状況を一緒に過ごして恋愛感情と勘違い──なんて話を聞いたことあるけど。例えばそういうことなのかな……?
どうしてもそういう風にばかり考えてしまう少年。
──やっぱりどう考えても、あんな綺麗で可愛い人が自分なんかに──
そんな考えに行き着いてしまうのだった。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON