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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──先輩がジーンズでよかったな。スカートのままだったら、こんな風に下で待ち受けるとかってワケにはいかなかったもんな……

ぼんやりと雪姫を見守りながら考える。
朝はスカート姿の雪姫だったが、祖母の

「相当荒れてるハズだから、服なんかも気をつけておいたほうがいい」

とのアドバイスで着替えていた。

「ほ……本当に深いねぇ?」

途中で雪姫が話しかけてくる。

「もうちょっとですから。頑張ってください」
「あっ、うっうん」

計佑の声の近さで終わりを感じたのか、かなりゆっくりだった雪姫の動きが、少し早くなった。

──おっと……

いよいよ手が届く距離になって、計佑は何気なく手を伸ばした。
──少年には、何の下心もなかった。
なんだかんだでまくらとの触れ合いが多い計佑は、
こういう時に自然と助けを出してしまうクセがついていただけだった。
けれど相手はまくらではなく、緊張と恐怖で震えている少女で。
そんな少女に声もかけず、いきなり腰を掴んだりしたら──

<i>「ひっ!!」</i>

ビクリと硬直した雪姫が、ハシゴから手を離した。そのまま後ろ向きに倒れこんでくる。

──……ええっ!?

もう殆ど降りきったな、と、半ば安心していたところの不意打ちに、計佑も対応しきれなかった。
支えきれずに、雪姫もろとも倒れこんでしまう。
しかしそこは流石というべきか、自分は受け身もとらずに倒れながらも雪姫の身体から手を離すことはなく、彼女を床からは守りきった。

「ぐぅっ……!!」

──のだけれど、ケガを負ってる身体に相当の痛みが走るのは当然のことで──
雪姫の脇腹を掴んでいた手に、つい力が入ってしまった。

「ひあ!!」

雪姫が悲鳴を上げて、計佑の上で身を捩る。

「──!!」

少女のお尻が、計佑の股間の微妙な辺りを刺激して。痛みも忘れ、金縛りにあってしまう。

「んぅっ、計佑くんっくすぐった──」

雪姫が振り返ってくる。

「「……あ」」

超至近距離で目が合う。
──さっきのキス(事故)を思い出した。また計佑の手が力んでしまう。

「ひぅん!!」

雪姫の身体が、軽くブリッジをして海老反った。

──!! 今のウチに!!

慌ててそのまま雪姫の身体を持ち上げて、隣に下ろした。
まだ身体は痛かったが、慌てて上半身を起こす。ヒザも軽く立て、身体を折り曲げてヒザに頭を乗せた。
──しばらくは、この格好のまま動く訳にはいかない。

「いっつ……」

落ち着いたら安心して、つい声を漏らしてしまった。

「だっ大丈夫っ!? ケガしてるのに……ごめんなさいっ」
「あーいえっそんな……こっちこそ支えきれなくてすいません」

顔だけは起こして、なんとか雪姫に笑いかけてみせた。
「や、でも危なかったですね。また変なコトになる──」

言いかけて、ピキリと固まる。
──また余計な事を言ってしまった。雪姫の顔がみるみる赤くなる。

「あっぁ……すっすいません!! いきなり身体さわったりして……支えるにしても、一声かけるべきでしたよね……」

色恋には鈍い少年だが、さっきの行動の何がまずかったかぐらいは流石にわかった。

「うっううん……私が大袈裟に反応しちゃったのが悪いんだもの。ごめんね、私ちょっとくすぐったがりだから……」

──最初ハシゴから落ちそうになった反応は、くすぐったいというより怯えてたのが大きそうだけど……?

そんな意地の悪い事を雪姫に言える計佑でもなく。

──まあ確かに、倒れてからの先輩の反応は敏感な人のそれだったもんな……って、う!?

あの時の雪姫の、なんだか色っぽかった悲鳴を思い出してしまい──身体(主に一部)が落ち着くまでの時間を延長してしまう少年。

──それにしても……ほっそい腰だったな先輩……

それでも、雪姫の事を考えてしまうのはやめられない。

──まくらよりも背は高いのに、まくらより細かった気がする……なのに柔らかさはまくらと変わらなかったし……

改めて、雪姫のスタイルの良さに驚く。

──でも、まだわき腹とかでよかったかも……
今までのこと考えたら、オレの場合もっと変なトコ触っててもおかしくないもんな。
またそんな事して嫌われたりしたら……せっかく好きなんていってもらえたのに。

そこまで考えて、はたと気づく。

──なんで先輩に嫌われたくないんだ……いやっ、これは別にっ!! 変な意味じゃなくてっ、
嫌われるより好かれてるほうがいいのは当たり前のコトでっ、そんだけのことだしっ!!

ブンブンと頭を振る。

──あーもーだからーっ、今はまくらを戻すコトが最優先!!

……そんな風に、計佑はいつも通り、深く考える事からは逃げ出すのだった。

─────────────────────────────────

落ち着いた二人と一人が室内を見回してみると、
ベッドがあったり写真が飾られていたりで、普通の生活環境だった様子が伺えた。
飾られていた写真には美月芳夏と男性の仲睦まじい姿。どうやら美月芳夏の部屋だった様子だ。

「美月芳夏って人……こんなトコにいたのか? でも……なんでこんな地下なんかに?」

訳がわからずに、計佑は首をひねる。
雪姫の様子を見ると、何やら本棚を調べているようだった。
まくらに話しかける。

「おいまくら、お前はどう──」

まくらが、目を見開いて写真に見入っていた。

「どうしたまくら? この写真になんか気になることでも──」
「わーなつかしー!!」

まくらに質問を重ねたところで、雪姫の弾んだ声が聞こえた。何やら本を手にして計佑の元へとやって来て。

「知ってる? この昔話。じゃんっ!! "寝宮の花嫁"。 寝宮っていうのはこのへんの昔の呼び方なんだよ」
「それってどういう話なんですか?」

雪姫が本をめくりながら説明を始める。

「昔、美しい女の人がいて、ある男の人と恋をしていたの。
しかし二人はスレ違い離れ離れになってしまった……悲しみに暮れた女の人はある山姥に相談に行ったの。
『もう一度あの人に会わせてください』と……
だけど女の人は悪い山姥に騙されて、トゲのたくさん生えた蛇に噛まれて深い眠りに落ちてしまった……
けど最後は恋人のキスで目が覚めるんだよ」

まくらが「なんかいい話ダナー」と、うんうん頷いている。
計佑からしたら特に興味深い話でもなかったが、少し気になる事はあった。

「それって……」
「眠り姫とおんなじだよね」

計佑の言いたい事を察したのか、雪姫が先回りした。

──そういえば……病院の研究室にあったな……眠り姫の本。何かしら関係あるんだろうか……まくらの症状と。

そんな事を考えるが、その先には考えがいかなかった計佑に、雪姫の言葉が続いた。

「この寝宮の花嫁も、眠り姫も白雪姫も……物語のお姫様は、いつも王子様のキスを待っているよね」

雪姫が赤い顔をして計佑の顔を見つめてきた。雪姫の言葉とその顔に、計佑もまた顔が熱くなる。
資料室での『事故』を思い出したからだ。