白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
雪姫も同じ事を思い出しているだろうとも、鈍い少年には珍しい事だが察してもいた。
けれど──今の計佑は、ただ雪姫の事だけを考えていた訳はなかった。
──眠っている姫はキスで目覚める……だったらまさか、キスをすればまくらは起きるとか……!?
雪姫の言葉から、1つのアイディアを思いついていた。
──いやいやいやっ……そんなコト……そんなファンタジーな方法で?
……といっても今のまくら自身がとんでもファンタジーな存在なんだし。試す価値はあるのか……?
まくらを見る。キョトンとした顔で見つめ返された。
すぐに視線を外して俯き、思案に耽る。
──試すっていっても……物語をマネするんなら、相手は王子様とかってコトになるよな。
……こいつに付き合ってるヤツはいないハズだから、好きなヤツってことになるけど……
授業・部活・目覚の家にいる。
この三種でまくらの活動は殆ど占められている。
まくらから色恋の話など聞いたことはなかったし、まくらに付き合っている男がいるとは考えにくかった。
──しかしコイツに好きな男だと……?
まあ、もう高1なんだし、いたっておかしくないんだけど……このお子様にか……?
またまくらに視線を戻す。
「なに? なんなのさっきから?」
まくらも不審そうな顔をしてきた。
──うぅーん……
どうにも納得行かず、難しい顔になっていく計佑だった。
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──どうしたんだろう計佑くん……何だかさっきから、ちょっと変……
きっと自分と同じ事を思い出してくれていて──赤い顔をしていた筈なのに。
突然視線を逸らしたと思ったら俯いて。難しい顔をし始めて、また明後日の方向を見だしたり──
そんな計佑を見ていたら、不安が募ってきた。
資料室で、幼なじみというコの話を聞いていた時のような……
──……こっちをちゃんと見て……
昼間みたいに、何かまたでっち上げてでも。
彼に話しかけて、触れて、私だけを──そんな欲求に憑かれて動き出そうとした瞬間、
──ピリリリ……
ケータイのアラームが鳴った。その音で、我に返って。
「えっ!! もうそんな時間!?」
ケータイを取り出し、時間を確認し、アラームを止めて。
「計佑くん!! もう戻らないと日が暮れちゃう!!」
慌てて計佑を急かした。
雪姫としては、夜の海なんて絶対にごめんなのだ。危機回避というより、霊回避の意味合いで──
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外に出ると、随分天気が悪くなっていた。
空は黒雲で覆われ、雨も降り出している。かなり風も強い。
「昼はあんなに天気良かったのに……?」
「計佑くん早く早く!! 急いでボートの所に戻ろうよっ」
雪姫が腕を引っ張ってくる。
とりあえず逆らわずに、小走りで来た道を戻り始めるが──
──こんな天気の中じゃあ、ボートを使うわけにはいかないと思うんだけど……
怯えて焦る雪姫に対して、ちょっと言い出せない計佑だった。
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──結局、ボートのところまでは戻らなかった。
いよいよ荒れてきた天気に、ついに計佑は
「この天気じゃ海渡るのは絶対無理です。しばらく様子を見ましょう」
と雪姫を説得し、道中の寂れた民宿に避難したのだった。
「……ボロい……」
「……カビくさい……」
「……コワイ……なっななんでもないっ!!」
一人毛色の違う感想が混じっているが、雪姫の言葉も無理はなかった。
太陽が完全に隠れてしまった暗がりの中、激しい風雨にボロ建物は悲鳴をあげている。
昼間に過ごしたボロ屋敷より、こちらのほうが更に恐怖を煽る環境だった。
「ちゃんと天気予報見とけばよかったですね……台風のコトなんて全然考えてませんでした」
黙っていてはますます恐怖が募るかと、とりあえず雪姫に話しかけてみた。
「そっそうだね。服もビショビショになっちゃうし……もう最悪……」
「先輩は着替え、持ってきてますか?」
「うん、一応もってきたハズ……」
計佑も、雪姫の祖母のアドバイス通り、替えのシャツくらいは持ってきていた。
「じゃあ……オレは向こうの部屋に今の服干して、着替えてきますから。 先輩はこっちの部屋で着替えをお願いします」
歩き出しながらまくらに目配せする。
今のまくらが風邪をひいたりするのかは怪しいところだが、濡れ鼠の妹をほうってもおけなかった。
──とりあえず先輩の目を離れて、コイツの服とかもどうにか──
<b>「待って!!」</b>
突然の雪姫の大声に、ビクリとした。
「どっ、どうしました先輩……?」
計佑が振り返ると、雪姫が震えながら傍まで歩いてきた。
「はっ……離れないで……怖いの」
「あ……それはわかりますけど、流石に着替える間くらいは──」
「そばにいて……お願い」
きゅっと裾をつままれた。
震えながら涙目で見上げてくるその姿に、なんだか抱きしめたくなるような衝動が湧いて──
「きっ着替え終わったら呼んでください! すぐに戻りますからっ」
誤魔化すように大声を出した。けれど、雪姫は頷いてくれなかった。
プルプルと首を振って、相変わらず裾をつまんできたまま。
──やっやばい……なんか今の先輩カワイイっ……!!
初い少年をして、手が伸びそうになる程だった。
──ダメだダメだ!! 今の先輩はこんな怯えてるのに、そんなマネ、男としてやるワケにはっ!!
ヘタレ力を全開にして、むしろ正解から全力で遠ざかる鈍感少年。
あるいは昨夜のように、『手を握っていて』とでも指針を示してもらえればそのように行動できたかもしれなかったが、
ノーヒントではこの少年には厳しかった。
結局何も言えないまま、計佑は硬直を続けて。やがて、雪姫のほうが口を開いた。
「……向こうを向いてて……」
「……え? あ、はい」
ようやく事態が動いたことにほっとして、何も考えず言われるままに後ろを向いた。
「絶対……振り向かないでね……」
──パサッ
布が落ちたような音が、計佑の耳に届いた。
──……え゛!?
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<13話のあとがき>
雪姫の格好は原作と変えてみました。
スカートのままだと、計佑が支えようとするシーンには繋げにくかったので^^;
雪姫のくすぐったがり設定は、エロ妄想によるものです。
……身体が敏感な少女……///
一応、今回のそのシーン(と、くすぐったがりなトコロ)は、後々また、ちょろっと生かしてみたいと考えてたり。
珍しく、ちょっとまくら寄りなところが?
雪姫と二人で『事故』を思い出して甘い雰囲気になるところなのに、計佑の意識はまくらのほうへと偏っていて……
今回初めて、雪姫が登場してる話なのに雪姫視点を書かない話になりそうでした。
一応ここまで守ってきたことだから、
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON