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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「キミは一体、私を何だと思ってるのっ!!!
好きでもない人に!
胸つかませたり、お尻撫でさせたり、裸見せたり!!
添い寝したり、そばで服を脱ぎだしたり、キス──あれは事故だけど!!
そんなことするワケないでしょおっ!!??」

 この中に意図的にやった事は2つくらいしかなかったのだけど、勢いで喚きたてた。

 至近距離が恥ずかしいのか、また少年の顔に熱が入ってくるのを感じる。

「これだけ言ってもわからないっていうなら、
事故じゃなくて、ホントにこのままキスしちゃうからねっっっ!!!」

 半分ハッタリだったけど、ダメ押しもした。
 大好きな少年とのファーストキスは、
一方通行の想いではなく、事故でもなく、ちゃんと計佑に好きになってもらってからにしたい。
でも、いくら言葉を投げても受け止めてもらえないなら、もうそんな非常手段に訴えるしかないじゃないか──
そんな決意をもって、雪姫はじっと計佑の目を見つめる。

─────────────────────────────────

 計佑はパニック状態だった。
『やっぱり冗談なんじゃあ』と冷めかけたところに、灼熱のマグマをぶっかけられた気分だった。
 至近距離で、とんでもない爆弾発言をぶつけられて。
雪姫の両手にしっかり顔を挟まれていて、視線を逸らすことも許されない。
 もう、頭が沸騰しそうだった。
限界だとばかりに、ついには、ぎゅっと目を閉じると、

「……ふーん……それはキスしてもオッケーてことだよね?」

 そんな言葉が聞こえて、慌ててまた目を開く。
──本当に、さっきより更に距離が近かった。

「わひゃ……わきゃりましたから、ちょと離れちぇ……」

 ろれつが回らなかったが、どうかに言葉を発した。けれど。

「……どうわかったのかちゃんと言って。でないと計佑くんの場合、信用できない……」
 
 雪姫の顔が更にじわりと近づいてきて。ついに、雪姫の鼻が自分の鼻に触れた。

──……あ。

──そこで少年が鼻血を出して、失神した。

─────────────────────────────────

 計佑が目を覚ますと、視界には雪姫の顔が逆さまにあって、その後ろには天井が見えた。

「……?」

 自分が寝転んでいるのにも気付いた。身動ぎすると、

「……あ。気がついたんだね」

 雪姫が微笑で見下ろしてきた。

「俺……一体どうしたんですか?」
「……気絶しちゃったんだよ。こっちがビックリだったよ……?」

 さらりと、雪姫の手が頭を撫でてくれるのを感じた。

──気絶……?

 記憶を探ってみる──思い出した。雪姫の爆弾発言と、超至近距離の──
ボッ!! とまた頭に血が上った。慌てて身体を起こそうとする。

「ああっ、ダメダメ!! 鼻血も出てたんだよ? もうしばらくじっとしてなさい」

 雪姫の手に押さえつけられて、また枕に頭が戻される。

──……枕?
  そんなものも持ち込んでいたっけか?
   というか、先輩の胸や顔が真上にあって、でも逆さまに見えるってそれ……!?

 自分の後頭部にある枕の正体に気づいて、ますます動悸が激しくなった。

「せっ、先輩あのっ……この格好はそのっ、やっぱり落ち着かないですっ……!!」

 必死で言葉を紡いだ。

「うーん……残念だけど、しょうがないか……計佑くんじゃあ、また気絶しかねないもんね?」

 雪姫はちょっとだけ意地悪そうに微笑うと、計佑の肩に下から手を入れて、起きるのを手伝ってくれた。
 起き上がってすぐ、鼻に手をやる。──ティッシュが詰められていた。

──どこまでカッコ悪いんだよ……俺……

 引きぬく。恥ずかしさのあまり、投げ捨てたくもなったけれど──
そんな八つ当たりはせず、持ち込んでいたゴミ袋がわりのビニール袋にきちんと捨てた。

「…………」
「…………」

 沈黙がおりた。
計佑のほうは恥ずかしさで何も言えなかったし、
雪姫のほうが今何を思ってるのかは……計佑にはわからない事だった。
 チラリと雪姫の表情を確認すると、今はいつも通りの穏やかな微笑で、こちらを見つめてきていた。

──落ち着いては……くれたのか……

 自分が気絶する直前の雪姫の剣幕は凄かったから、それが治まってくれていた事にはホッとした。

「あの……なんかホント……色々すいませんでした」
「…………」

 まずは、謝罪から入った。でも、雪姫からの返事はなくて。

「えっと……その……」

 喋りかけたけれど、何を言っていいかわからない。

──やっぱり……さっきの話の続き……しなきゃダメかな……

 この期に及んで、まだ悩んでしまう計佑。
それでも起き抜けの頭ではまだ、どう話すべきかわからないのが正直なところだった。

「"色々すいません" ──って言ったけど……何が一番 "すまないこと" だったかは──わかってる?」

 静かな声で、雪姫が尋ねてきた。

「……はい」
「それが何か……ちゃんと私に教えて。また勘違いしてたら、今度は本気で怒るからね?」

 さっきも本気だったでしょう──そんなツッコミを入れられる立場でもなく、

「先輩の気持ちを誤解して──しようとしてたこと、ですよね……?」

 素直に答えた。

「……うん。それが──わかってくれたのなら。もういいよ」

 そう言って、雪姫が笑ってくれて。だから計佑も、どうにか苦笑を浮かべてみせるのだった。

─────────────────────────────────

 計佑が気絶してる間に、嵐は去ってしまったようだった。
 静寂に満ちたボロ宿の中で、
二人は夕食──間食用にと持ち込んでいた菓子ばかりだけど──を始めていた。
 気絶してる間に、まくらはいなくなっていた。
まあ、天気が落ち着いたんで探索でも始めたんだろうな……くらいに考えて、とりあえずはまくらの事を忘れた。

「それにしてもさ……ふふっ」

 雪姫が、何やら思い出し笑いをした。

「鼻血出して倒れるとか……計佑くんウブすぎるよ?」

 お馴染みの、ニマニマスマイルで計佑を見やってきた。
ぐっと詰まりかけたが、これは流石に少年としても黙ってはいられなかった。

「先輩が大胆すぎるだけです……」

 ボソボソとした声になってしまったが、なんとか言い返せた。けれど、雪姫の反撃は苛烈だった。

「誰のせいだと思ってるのカナ……
あんな大胆なコトまでしなきゃわかってくれない、誰かさんのせいだと思うんだけどナ……」

 ジト目で睨まれてもしまった。

「すっ……スイマセン……」

 あっさり返り討ちにあって、恐縮するしかない計佑。そんな計佑を見て、また軽く雪姫が笑って。

「あ……そうだ。安心してね?  計佑くんが気を失ってる間に唇を奪ったりはしてないからね?」

 あらためて、爆弾を落としてくる。

「せっ……先輩っ!! 本当にもう……!!」
「あははははっ!!」

 計佑の慌てぶりに、さっきより大きな声で雪姫が笑う。

「まあ……顔や頭を撫で回すくらいはさせてもらったんだけど。