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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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『朝帰りなんかした罰だよっ!!』 そう、雪姫の祖母に叱られて。
嵐のせいで仕方なかったことなのだけれど、その分を差し引いても、の罰らしかった。
 まあ確かに、お世話になっている事を思えば、掃除の一つ二つ罰でもなんでもない。
ただ、雪姫にはまた申し訳ない事になってしまっていた。
雪姫は計佑の事情に巻き込まれただけなのに、やはり罰として、今は台所掃除をさせられている。

──そう言えば……今朝からずっと、先輩にも心配かけっぱなしだよな……

 島から帰ってくる間、朝食の間、ずっと心配そうに自分を見つめてくれていた。
 自分の今朝からの雪姫への態度を思い返して、あらためて申し訳なくなる。

──いい加減、立ち直らないとな……

 そう思うのだけれど、一向に気分が上向いてこない。
それほど、まくらからの拒絶には深いダメージを受けていた。

 島から帰る時になっても、まくらの機嫌は直っていなかった。
 朝、計佑達がボートのところに戻ってきた時、まくらはボートの上に座り込んでいたが、
計佑たちの姿を確認した途端、一人で空を飛んで先に帰ってしまっていた。
 結局昨夜怒らせてしまってからは、一言も口をきいていない。
 気分屋なまくらは、よく怒りもするが機嫌が治るのも早い。
けれど今回みたいに、完全にキレてしまった時は例外だった。
そして、あんな軽蔑したような目で見られたのは初めてのことで──

──本当に……嫌われちまったのかな……

 まくらからの最後の言葉を思い出して、立ち直るどころか、またずぶずぶと沈み始める。
 はぁ……と、また大きなため息が出て、掃除の手すら止まってしまった。

「…………」

 無言で立ち尽くしてしまう。──と……

カサッ……

 頭に何やら軽い衝撃があり、頭でバウンドしたらしいそれが、計佑の斜め前に落ちた。
──おにぎりか何かの包装紙だった。

「……?」

 ゆっくり振り返ると、

──まっ……まくら……!!

 まくらが、もじもじしながら立っていた。

「……あ……」

 久しぶりに見る気がする、間近な距離のまくらに、上手く言葉が紡げなかった。

──まっ……まだ怒ってるんだろうか……?

 こうして近づいてきてくれたということは、今朝よりは機嫌は治っているのかもしれない。
けれど、もう怒っていないだろうというのも希望的観測すぎる気もして。

「その……」

 あの時の会話に、まくらに対して謝らなければいけない内容はなかったと思う。
 雪姫とのどうこうをまくらに謝るのは筋違いだし、
まくらが爆発してしまった『事故』という単語の事だって、まくらが曲解した挙句、逆上しただけなのだから。
それでも、まくらとの関係が修復できるなら。そんな思いで頭をさげようとして、

「ごめんなさいっ!!」

 先にまくらが謝ってきた。機先を制されて、計佑が固まる。
そしてまくらは、そっぽを向きながらも言葉を継いでくる。

「落ち着いて考えてみたら……私の言い分は随分勝手だったと思う。
……ホントにごめん……許してくれる、計佑?」

 言い切ってから、そっと上目遣いで見つめてくるまくらの姿に、計佑の心は一気に軽くなっていった。
固まっていた口も動き出す。

「……じゃあ……キライっていうのは?」

 おずおずと質問する計佑に、まくらが微笑する。

「あんなケンカくらいで嫌うわけないでしょ、計佑のコト……何年一緒にいると思ってんの?」

 その言葉で、計佑の心は完全に復調した。

──なんだよ……心配なんていらなかったんじゃん……! そうだよ、何年家族やってきたんだよ。
  本気でケンカしたっていつだって仲直りしてきたんだ。
  コイツとの関係が、あんなケンカくらいで終わるワケないんだよっ……!!

 むしろ、反動で一気にハイテンションになってしまう。

「……全くっ!! そーだよっ、あの言い草はあんまりだろーが!? なんだよ、スーパーえっちマンって!!」

 まくらの頭に手を伸ばし、わしゃわしゃとかき混ぜる。
──今度は跳ね除けられない事に、心底安心しながら。

「…………」

 まくらも負い目があるせいか、今はくすぐったそうな顔をしてじっと受け入れていて──
けれど、計佑がいつまでも続けるものだから、

「……いつまでやってんだよっ!!」
「おふっ!」
 
 ついには、ドンッと突き飛ばしてくる。
 傷に響いて結構痛かったのだが、それでもすぐに、計佑は笑い出した。まくらもつられて笑い出す。
 通りがかった女中さんが、不審そうな顔をしてこちらを見ていたりしたけれど──それに気付いても、計佑は笑いをとめられないのだった。

─────────────────────────────────

 ひとしきり笑って、落ち着いて。
 今はまくらの手伝うという申し入れを受け入れて、二人で庭掃除を再開していた。
 もし人に見られたら面倒だからと、最初はまくらの手伝いを断ろうとした。
けれど、これもまくらからの歩み寄りの一環だろうと気づいたので、結局受け入れたのだった。

「いや……でもさ、正直ちょっと本気で焦ったよ」
「え? なにが?」
「だってさ、じ──不幸な偶然が重なった結果なのは事実なんだけど、確かに先輩に色々痴漢行為しちゃったのは事実だもんな。
客観的に見て、ヘンタイ呼ばわりもムリないし。──本気でお前に軽蔑されたかなって」

 すっかり心が軽くなった計佑は、さっきまでの不安な心中を正直に吐露した。
その言葉に、まくらが苦笑してみせる。

「もう……変な気を使わなくていいよ。『事故』だったんでしょ?」
「ん……まあ、な。それは正真正銘。おまえのお袋さんにだって誓えるよ」

 大袈裟に宣誓のポーズまでとって言う計佑に、またまくらが笑った。

「……まあ、ね。
冷静になって考えてみたら、むしろ『本当はわざとやったんだ』って言い出しても、説得力ないんだよね、計佑の場合」
「……え?  なんでだ?」

 普通に考えたら、それだけやらかしておいて『事故』で片付けるほうが無理がある筈で。
 そう思って尋ねると、まくらがニヤッとした笑みを浮かべて──

「だってさ……顔を近づけられたくらいで鼻血吹いて倒れるお子様に、そんなマネできるわけないじゃん」

 計佑に、ハンマーを叩きつけた。

──がああああ!! コ、コイツっ……!!!!

 そう、まくらが姿を消したのは計佑が気絶した後で──計佑が間抜けな気絶姿を晒す瞬間までは、しっかり見られていたのだった。
 妹だ、ガキだといつも見下してる相手からの上から目線に、計佑はブルブルと屈辱に震える。
 この件に関しては、自分に言い返せる要素は一つも見当たらない。
逆切れしてみせるのは、更に自分のみっともなさを助長するだけに思えて、真っ赤な顔でただただ震える事しか出来ない。

「アハハハハハ!!」

 そんな計佑を前に、まくらはひっくり返りまでして、笑い転げてみせた。

「いや〜……当分はこのネタで、計佑には勝ち続けられるね」

 ひとしきり笑って、ようやく落ち着いた様子のまくらが言ってくるが、

「ふんっ……勝手にしろ!!」