白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
もう計佑には、不貞腐れるしか手が残っていなかった。……が、
「そう……勝手にしていいんだ? じゃー……身体に戻れたら一番にやることは、おばちゃんにこのコトの報告だね」
「ちょぉおおおおお!!?」
あっさり前言を翻して、まくらにすがりつく計佑。
しかし無理もなかった。性的失敗談を母親にバラされてしまうなど、思春期少年に耐えられる筈もなく。
「お、お前は鬼かっ!? そっそれはお前、人として許されないレベルだろぉ!?」
「アハハハハ!! 計佑、なっさけな〜い!! こんな惨めな計佑初めて見た〜!!」
また、まくらが笑い転げ始めて。
「……っ……ぐ……!!」
もう、計佑は何も言えなくなってしまった。
まくらが、ここまで計佑をからかってくる事は珍しくて、
──やっぱりこいつ、ホントはまだ怒ってるのかな……
計佑は熱い頭の片隅で、そんな事を考えるのだった。
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さんざん笑い転げてようやく気がすんだのか、まくらが今は黙って計佑の手伝いをしてくれていた。
計佑も特に口を開くことなく、二人で黙々と掃除を続けていく。
「……ところでさ」
しゃがんでちりとりを構えていたまくらが、俯いたまま問いかけてきた。
「んー? なんだ?」
流石にもう弄ってはこないだろうと、気構えずに聞き返したのだが、
「結局、先輩とは付き合うコトになったの?」
「ぶふっ!?」
──やっぱり、まだまくらからの弄りは続くようだった。
「あっあのなぁ!? いい加減にしろよっ、流石にもう本気でキレるぞオレも!!」
「……なんで? 兄代わりの人に、彼女が出来たのかどうか聞くのってなんかおかしい?」
やはり頭は上げないままで、まくらが重ねて尋ねてくる。
「……っ……」
おかしくはない。
おかしくはないのだけれど、初心な少年にとっては罰ゲームが続いているような気分になるのが正直なところで。
よっぽど無視してやろうかとも思ったのだが、
「……教えてよ」
まくらの声色は決して茶化すようなものではなく、むしろなんだか硬さを感じさせて──だから、正直に答えることにした。
「……付き合ってないよ」
「えっ!?」
まくらが顔をはね上げた。
「どうして!?」
「どうしてって、お前……」
理由は情けないものだったから、言いたくなかった。
けれど、『教えてっ!!』と叫んできそうな強い視線を前に、結局口を開く。
「……お前もさっき散々笑ってくれた通り。
オレはまだまだガキで、恋愛感情とかよく分かんないからって、とりあえず答えは保留してもらったんだよ」
「……それだけ?」
もう一つの理由は、まくらが気に病みそうな物だから口にはできない。
「……それだけだよ」
だからそう締めたのだが、
「ウソ」
ばっさり切り捨てられた。
「うっウソってなんだよ……オレはホントに「どーせ私が大変な間は、そんなコト出来ないとか考えたんでしょ」
「…………!!」
割り込んできたまくらの言葉。完全に見抜かれてしまっていて、息を呑んだ。
そんな様子を見て、まくらが俯いてため息をついた。
「……やっぱり。そんなコトじゃないかと思った……」
「だっだから違うって!! いや、確かにそういう理由もちょっとはあったけど、本命の理由は最初に言った通りだな……」
しどろもどろで弁解するが、まくらは目を細めて見上げてきた。
「計佑の考えそうなコトくらいわかるよ……バレバレなんだから、そんな見え見えのウソはやめて」
「…………」
静かな声で諭されて、流石にそれ以上はもう誤魔化さなかった。
「ねえ……そんなに今の私は、計佑の重荷かな?」
まくらが寂しそうに呟いた。
「ちがっ……んなワケねーだろ!?」
「私のせいで、好きなヒトと付き合うコトも始められないのに?」
まくらが苦笑しつつ指摘してくる。
けれど、これには計佑も黙っていられなかった。
「だから違うっての!! ……確かに、お前のコトが片付くまでは──って気持ちは強いよ。
でも、色恋のコトがよくわかんないのもホントなんだよ!! ──正直、どっちの理由のが強いかよく分からないくらい。
だから、お前の状態のコトがなくても、きっとOKはできなかった。それは間違いないんだ」
「…………」
そう断言したけれど、まくらは黙って俯いてしまった。
「まくら……」
「…………」
呼びかけにも反応しなくなってしまったまくらに、なんと言葉をかけていいかわからない。
気まずい沈黙がしばらく続いて、やがて──
「……まあ、しょうがないか」
まくらが立ち上がって、苦笑を計佑に向けた。
「計佑には迷惑かけ続けることになっちゃうけど、
正直、今は計佑に頼るしかないんだよね……復活できた暁には、
先輩とのコトもきっちり応援してあげるからさ。もうしばらくはよろしくネ!!」
最後には、いつも通りのニパっとした笑顔を浮かべたまくらに、計佑も安心する。
「まかせとけって!! ……いや、先輩のコトを応援とかは遠慮するするけどな?」
「まーだそんなコト言ってるの!?
私のコトがなくてもOKできなかったのはホントだね、これは……私のおにーちゃんが、こんなにヘタレだったなんてなぁ……」
「ぐっ……!!」
わざとらしくため息をつくまくらに、何も言い返せない。
自分でも、色恋に関してはなんでこんなにヘタレてしまうのかわからないのだ。
ともあれ、これからは先輩だけでなく、まくらにも弄られてしまう様になってしまうのだろうか……
──最悪だ……先輩はともかく、まくらにまで弄られるなんて……
これからの日々を思うと、ため息が漏れてしまう計佑なのだった。
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<15話のあとがき>
消化試合一試合めです。
……消化試合かと思ってたんだけど、計佑×まくらを書くのは楽なせいか、意外と量いけました。
大まかな流れ──まくらとのケンカ、茂武市の指摘、まくらと仲直り。
それ自体は原作通りですけど、会話の中身とかは随分と改変してみました。
今後はこういうコトが増える……ハズ。
まくらの母親の死因を変えちゃいました……
この世界でも病気で弱ってたのは同じだけど、
事故にあったのがトドメになってしまった、という設定にしています。
うーん、そんなんにする必要あったか、というと特にあった訳でもないんだけど、
(26話書き上げてみてからの追加コメント・
でも最終的にはこの設定を活かしてのまくらの行動を書けた気もするので、まあ……悪くはないんじゃないかな、
とは思ってます)
でもただ病気で死んだっていうより、
『今日は久しぶりにお母さんが帰ってくる!!』と楽しみにしてたら……なほうが、
まくらのトラウマが強くなって、よりまくらが輝くかなぁ? とも。
事故って言い訳に激怒するまくら。
うーんと、計佑と雪姫のイチャイチャを見せつけられたまくらは、
大好きだったお母さんのコトとか思い出してたから、計佑の言い草に過剰に反応したとかそんな感じ?
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON