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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──おー……いい雰囲気のとこだなー。

 バスで温泉にやってきた計佑達は、今入り口のところで辺りを見回していた。

「あっ!! ねえねえ、向こうにあるの展望台じゃない?」

 雪姫が指差す先には、確かに屋外の展望台らしきものがあった。距離もそんなに遠くはない。

「じゃー温泉入った後に、みんなでいってみよーっ!!」
「さんせー!!」

 カリナの誘いに、茂武市が即答した。

「おっしゃー!! 一番風呂だー!!」

 茂武市が駆け出していく。

「よーし!! じゃーまずはオバケ発見からいってみよー!!」
「オバケじゃなくて神様っ!!」

 引っ張るカリナに、強張った顔で雪姫が訂正するが、結局カリナの力には敵わないのかズルズル引きずられていく。
 屋内へと消えて行く直前、心細そうに計佑を振り返ってきたが、女湯までついていける訳もなく。
苦笑を浮かべて、手を振ってあげた。

 雪姫の口が『うらぎりものー!?」とでも動いていた気がするが──

──女湯に入っていく『王子さま』はいないと思いますよ、先輩……

 そう、心でツッコむ計佑だった。

──……さて。オレも行くとするか。でもその前に……

 一人きりになれた事だし、まくらに釘を刺しておかないと。
 本来なら止めるだろう皆との入浴だが、今回は話が違う。
しかし重々注意してもらわないと、まくらのほうが騒ぎの元になってしまいかねない。
だからきちんと改めて注意を──そう考えてまくらのほうを振り返ると、ちょうどまくらが計佑の裾を引っ張ってきた。

「ねえ計佑っ、硝子ちゃんが……!!」
「なに?」

 まくらに引っ張られて少し移動すると──バス停の辺りで、硝子がうずくまっているのが見えた。

──……えっ!?

「どうしたの須々野さんっ!?」

 慌てて硝子の元に駆けつけた。
硝子の前に屈みこみ、肩に手を置く。軽く力をかけて、硝子の顔を上げさせようとした。

「……ダメ……うごかさな」
「えっ!?」

──硝子が戻したものが、計佑に降りかかった。

─────────────────────────────────

──よし、掃除終わりっと。

 幸い、汚れたのは上の服だけだったので、シャツだけさっと着替えて。
(幸い、温泉だけあって洗濯機・乾燥機も完備していた)
 掃除道具を温泉の人に借りてきて、今掃除を済ませたところだった。
 まくらは、遠くでこちらの様子を伺っている。

「お前だったら、自分がゲロったとこ須々野さんにジロジロ見られたいか?」

との計佑の言葉で、素直に引き下がってくれた。
 硝子は今、バス停のベンチに腰掛けて、完全に項垂れていた。今の硝子の心中は、流石の計佑でも察しはついた。
 掃除はきっと自分でやりたかったろうこともわかるが、一刻も早く片付けないと周りに迷惑がかかってしまう。
硝子が完全に落ち着くのを待ってはいられなかった。

──んー……と。何て言ったらいいものか……

 掃除は終わったし、何かしら言葉をかけてあげないと。
いつまでもここにいたら、雪姫たちも心配してしまうだろう。
 掃除が終わった事を察したのか、まくらがこちらに近寄ってくる。
 それを横目に見ながら、硝子に声をかけた。

「バスの中で読書はやっぱりまずかったね、須々野さん」

 ビクリと、硝子の肩が震えた。

──う……やっぱりストレート過ぎたか……?

 あまり腫れ物に触るような態度もまずいかと、あえて踏み込んでみたのだが……

「……ごめんなさい……」

 返ってきたのは涙声で。
『うっ、やっぱ失敗だったかっ』と悔やむがもう遅い。
こうなったら次々言葉をかけて、何かしらヒットを期待することにした。

「ホント、そんなに気にすることないよ。 洗濯機だってあったし、どうせこれから風呂に入るんだからさ」
「…………」

 反応はなかった。

「大丈夫だって。誰にも言ったりしないからさ。オレにだってそれくらいのデリカシーはあるよ?」
「…………」

 やっぱり、また無言だった。

「……あー。ホントにオレは平気だから。
昔はまくらもよく戻すやつでさー。その後片付けとか、よくオレがやらされてたから慣れたもんだよ」
「!? ちょっ、こらぁ!? 余計なコトばらすなー!!」

 まくらが絡み付いてくるが、ガン無視。
今朝は随分まくらにしてやられたから、ちょっとした仕返しも兼ねていた。

「……そうなんだ?」

 硝子が、ようやく顔を上げた。

──おっ!? まくらの話がヒットしたぞ……まさに一石二鳥だったな。

 内心ほっとしながら、さらにまくらの話を暴露していく。

「そーそー。アイツなんてこんなもんじゃなかったよ? オレの顔面にぶちまけてくれたことすら──」
「ケイスケ〜〜〜!!!! ホントにおばちゃんに、先輩との事バラしてやろうかっ!!?」

 慌てて口を閉じる。

「ふふっ……やっぱり仲いいんだよね、目覚くんとまくらは」

 ようやく硝子が笑顔を見せた。

「別に仲よしじゃなくて。単に腐れ縁。家族なだけだってば」

 硝子の笑顔には安心できたが、その言葉だけはいつも通りしっかり否定しておく。
 計佑のいつも通りの否定に、やっぱりいつも通り硝子が苦笑を浮かべて。

「……あーあ。私、目覚くんには怒ってたのになぁ。こんなにお世話になったら、怒り続けてる訳にはいかないよね……」
「え!? オレ須々野さんになんかやっちゃってた!?」

 一応、自分が鈍いことを自覚してる少年は、また気づかないウチに何かやらかしてたのかと、大いに焦る。

「……何もやってないよ。……私には、ね……やったのは、まくらに対して、だよ」

 硝子が途中で一瞬声を落としながら、そんな事を言ってきた。

「……え?  まくらに……?」

 チラリとまくらと顔を見合わせる。まくらもキョトンとした顔だ。

「そう。まくらがここにいないから、代わりに私が怒ってた。
……私にそんな資格がないのは重々承知、なんだけどね」
「えーと……オレが何をしたっていうの?」

 何の話をしているのかさっぱり分からなかったので、素直に尋ねた。そんな計佑に、硝子は表情を消すと。

「白井先輩と朝帰り」
「ぶほっ!?」

 予想外の内容に、吹き出してしまった。

「えっ!?  なっ何それ!? 別に変なコトは何もしてないって散々言ったよね!?
嵐のせいで昨日は帰れなくて!! それだけの話って!!」

 三人には何度も説明した話だ。

「昔来たコトのあるキャンプ場のコトを思い出して。それで白井先輩に案内してもらったんだったよね?」
「そうそう!!」

 雪姫と、そんな風に口裏を合わせていた。
──まくらが来たことがあると自信ありげに言ってたぐらいだ、 自分が覚えていないだけで多分本当に来たことはあったのだろうし──

「でも何で、二人だけで行く必要があったの?」
「そっ……それは!! 使えるボートは二人乗りが限度で!! だから──」
「みんなに内緒で、こそこそと行く必要があった?」

──……ぐっ……!!

 その点は、どうにも言い訳が思いつかない部分だった。