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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「……?  硝子ちゃん?  どうかした?」

 雪姫が尋ねると、硝子はゆっくりと顔を上げた。

「……先輩。白井先輩は誰とのコトを願って、この鈴を投げるんですか?」
「えっ!? 誰って、それは……」

 自分の態度はかなりあからさまだったと思うけれど、硝子にはまだ気付かれていなかったのか。

──まあハッキリと伝えていた計佑くんすら分かってなかったりしたぐらいだし。
意外とこういうのは分からないものなのかな……

 硝子の真意も知らず、そんな風に考える雪姫。
 計佑への気持ちに迷いはないし、何ら恥じることもないし、別に隠さなくてもいいかな……そう考え硝子に明かそうとして、

「目覚くんは無理だと思いますよ」

……ドクンッ!!

「……え……」
「目覚くんには、もう特別な人がいますから」

 暗い目をした硝子の言葉に、凍りついた。
 自分の気持ちが見抜かれていた事は、どうでもよかった。
雪姫にとってショックなのは、計佑に想い人がいるというその一点のみ──
一気に血の気が引いていく。ガクガクと膝が震え出す。

「……ウソだよ……だって……」

──昨夜、言ってくれた。私のコトが一番だって。 だから……安心して待っていられると思ったのに……

「嘘じゃありません」

 断言する硝子の声に、目の前が暗くなっていく。

 ウソだ。信じられない。計佑が自分にウソなんてつく筈ない。でも硝子だって、ウソをつくようなコじゃない──
二律背反に硬直する雪姫に、硝子からの言葉が続いた。

「音巻まくらってコがいるんです」

──……え……?

 その名前を聞いた途端、スゥッと身体が軽くなった。世界にも一気に色が戻る。

「音巻まくらさんって……計佑くんと一緒に育ったっていうコのことだよね?」
「──っ!? 知ってたんですかっ!?」
 
 力を取り戻した雪姫が尋ねると、今度は硝子が動揺した。

──なんだ……例の幼なじみさんのコトだったのね……

 心の底からほっとする。
 やはり、計佑がウソなんてつくはずがなかった。
 どうして硝子がそんな勘違いをしているのかはわからなかったが、もはや雪姫の中には一片の不安もなかった。

「うん、昨日計佑くんに聞いたよ。
子供の頃から殆どを計佑くんのウチで過ごしてて。もう家族同然だって、全然そういうのじゃないって」
「っ!!  ……そうなんですか……子供の頃から目覚くんの家で……それは初耳です……」
 
 硝子が悔しそうな顔をする。

──?  なんで硝子ちゃんが悔しそうなんだろう……? まくらちゃんって、もしかして硝子ちゃんの親友とかなのかな?

 自分が知らなかった親友の事情を、第三者から聞かされたりしたらそれは確かに面白くないかも……?
──そんな風に考えて。
……そして、そこで終わってしまうのが、白井雪姫という少女だった。

─────────────────────────────────

 硝子と別れた計佑は、茂武市と一緒に湯船につかっていた。
こちらも上手く予約がとれた事で、茂武市と二人きりだった。

「よー、どーだ計佑ー?  ケガした身体にはこの温泉は最高じゃねー?」
「あー……まあ確かに極楽だなーこれは……」

──あ〜〜……オバケのコト確認にきたハズだったんだけど……なんかもーどーでもよくなる心地よさだ……

 縁に頭と腕を預けて、完全にまったりとしていたら、

『キャーーーッ!!』

 女湯のほうから、雪姫の悲鳴が聞こえてきた。

──えっ!?

 ガバっと身体を起こす。まさか。本当にオバケが出たのか──

「先──「ウヒョーッ!! やっぱ雪姫の胸スゴーイ!!」

──計佑の呼びかけは、カリナの嬌声に遮られた。

──……え……?

 ぽかんとする計佑の耳に、雪姫の声が届く。

「もうっ!!  危ないでしょっ!?」

──なんだ……森野先輩とのいつものじゃれ合いか……

 事態を理解して、安心する。──しかし、落ち着くのはまだ早かった。

「雪姫の胸……ホントにキレイ……白くて……」

 カリナの陶然とした声が聞こえてきた。

「やっ……やめて……よ……」

 雪姫の弱った様子の声も聞きとれてしまった。

「この大きさ……弾力……凶器でしょっこれは!!」
「……んやっ!? ……だめっ……んああ!!」

 そしてカリナの興奮しきった声と、なんだか怪しい感じの雪姫の悲鳴が……

──ちょっ……ちょっと待てよ……なんかミョーな雲行きに……

 手が、自然と鼻を押さえていた。

「ほらっ硝子ちゃん!! キミも確かめてみなっ!! これは絶対凶器だから!!」
「……そうですね。ちょっと許されないと思ってたんですよそれ……ちょっとばかり罰を与えるべきですよね……」
「えっ!? ウソっまさか硝子ちゃんまでっ!? あ! あ!? いやっやめ──ふあぁん!!」

──ヤバイヤバイヤバイ!!  一体何やってるんだよ向こうは〜〜〜!?

 きっとカリナが後ろから雪姫の胸を揉みしだいていて、前からは硝子が雪姫の胸を責めていて……
そんな姿が脳裏に浮かんで、計佑は沸騰しそうになった。

──ダメだダメだダメだ!! こんなコト考えるな!! 先輩のコト汚すつもりかよオレはっ……!!

 必死で頭を振る。──そこで気付いた。
茂武市が鼻の下を伸ばして、女湯との仕切りに近づいていることに。

──テメエエエエ!!!!

 今の雪姫の声を、茂武市も聞いていた──その事に気づいた瞬間、全身を怒りが支配した。

「なにしてやがるテメエェ!!! テメエは聞くんじゃねェェ!!!!」

 茂武市の肩を掴み、力任せに後ろに引き倒してお湯に沈めた。
バシャバシャと茂武市が暴れるが、計佑は力を緩めない。
今、手を離したら、また茂武市に雪姫の声が聞かれてしまう──その怒りのままに、茂武市を沈め続けた。
やがて、茂武市の抵抗が弱くなってきて──我に返った。

──……ハッ!? しまった、マジで死んじまう!!

 慌てて、茂武市の身体を引き上げた。

「ゴフゥッ!! ガハッガフ、ガフッ!! ……おいっ計佑ッ、お前マジで死ぬトコだったぞオイ!!!!」
「ご、ごめん……なんかついカッとなって……」

 当然、茂武市が怒り、流石に計佑も本気で謝った。

「……オレはお前のコト、気のいい人畜無害なヤツかと思ってたが、勘違いだったわ……ハルクかよ全く……」

 言いながら、茂武市が立ち上がる。

「あ、おい……もう上がるのか?」

 計佑が呼び止めるが、

「上がるに決まってるだろ……これ以上ここにいたらマジで殺されそうだわ」

 ジロリと睨みつけられて、恐縮してしまう。

「お前よー……」

 茂武市が言いかけてから、口を噤んだ。

「……なんだよ?」

 促すと、

「……やっぱいいわ。それで無自覚とかオレには信じられんけど、そこまでキてるんなら、自覚出来るのも時間の問題だろうしな……」

 そんな風に半ば独り言のように言って、ひらひらと手を振って湯船から上がるので、

「……あっ、じゃあオレも!!」

 慌てて立ち上がる。自分だって、あんな声を聞き続ける訳には。