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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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「お前はまだ入ってろよ。ケガ人はちゃんと養生しとけって。向こうのアレも、もう収まってるだろ?」

 言われてみれば、もう女湯からの怪しい声は聞こえてこない。
 何やらバシャバシャと派手な水音とキャーキャーという声は聞こえてくるが、雪姫が二人に反撃でもしているのだろうか。

『じゃあお前だって出るコトねーだろ』と一瞬考えるが、入ってからそれなりの時間は経っていたし、
今の騒ぎがきっかけになったのだろうと考えて、それ以上呼び止めはしなかった。

──まあそういうコトなら……お言葉に甘えて、もうしばらく浸からせてもらうかな。

 さっきの雪姫の声には色々と焦らされたが、それまでの心地よさを思い出して、あらためて湯につかった。
──のだけれど、結局。程なく、計佑も逃げ出すことになった。

 女湯から、今度は硝子の嬌声や、普段は凛々しいカリナの、別人のような艶っぽい声が聞こえてきたりで。
耐えられなくなったのだった。

─────────────────────────────────

「お?  なんだよ、結局早かったじゃないか計佑」
「……あー……まあな……」

 外で炭酸を飲んでいた茂武市が、出てきた計佑に気付いて声をかけてきた。

「……またえっらく赤い顔してんなー……なんか湯に浸かってた時より赤くね?」
「……悪い……」
「? なんで謝るんだ?」

 それには答えなかった。
 茂武市を追い出すような事をしておいて、
自分は硝子やカリナの嬌声を聞いてしまった事が申し訳なかったのだが、それは流石に口に出せなかった。
 計佑も何か飲み物を買おうとして、そこでふよふよと建物から出てくるまくらに気付いた。
茂武市の手前、ちらりと見ただけで無視していたのだが、まくらはふわりと近づいてくると、

「……話があるんだ、計佑。皆が行こうって話してた展望台で待ってる」

 そう告げて、ふわりと去っていった。ちらり見えた横顔は、なんだかぼんやりとしていて。

──話ってなんだ……まさか、本当にオバケと会えたとかじゃないよな!?

 このタイミングで改めての話なんてそれくらいしか思いつかないが、とりあえず展望台へ向かうことに決めた。

「なあ茂武市。早いかもしれないけど、オレ散歩がてら展望台に向かうわ」
「あ?  ……じゃーオレもそうすっかなー」

 茂武市が腰を上げようとするので、

「いやいや、お前はみんなを待っててやってくれよ。
お前まで来ちゃったら、後で女子だけで移動するコトになっちゃうだろ?」

 そう言って止めた。そもそも、茂武市について来られてはまくらとの話もできなくなってしまう。

「……うーん……女子の風呂は長引きそうでヒマ持て余しそうなんだがなぁ……ん!? いや待てよ!!
 そうか、しばらくの間はオレのハーレムタイムってことか!?
オッケーオッケー、ナイト役はオレがきっちり果たしてみせるからお前はさっさと行ってくれ!!」

最初は渋ったかと思えば手の平を返す親友の姿に苦笑が漏れるが、その言葉に甘えて計佑は展望台へと向かうのだった。

─────────────────────────────────

 計佑が展望台へ着くと、まくらは手すりに座ってぼんやりと景色を眺めているところだった。

「おい、まくら。話ってなんだ?  まさか本当にオバケだか神様に会えたりでもしたのか?」

 計佑が話しかけると、ゆっくりと顔を計佑に向ける。
──その表情はなんだか気の抜けたもので、計佑も拍子抜けする。

「なんだよ、そのぽやーっとした顔は……わざわざ話があるなんて言っておいて──」
「わかったんだよ、計佑。私が "こう" なった理由」
「……え……?」

 予想外の言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。

「……わかった!? お前が眠り込んで──今そうしてる理由がか!?」

 勢いこんで尋ねる計佑に、まくらは相変わらず気の抜けた表情で答えた。

「正確には "思い出した" なんだけどね……さっき突然思い出したんだ。
ヒントはホタルちゃんに聞いてたんだけど……
言われたコトの意味が、さっきようやく全部わかったんだよね」
「……ほたる? 誰だよそれ。ヒントを聞いてたって……オレ以外に、お前と話せるヤツがいたのか!?」
「ホタルちゃんっていうのは……美月芳夏さんのコトだよ。あのヒトも今幽霊になってて、一昨日の夜に話したんだ」
「なっ……!? なんだよそれ!! なんでそんな大事なコト今まで隠してた!?」
「……ごめん」

 計佑の怒りの声に、まくらが苦笑する。
ようやく気の抜けた表情をやめてくれたまくらだが、今の計佑には、そんな事はどうでもよかった。

──一昨日の夜って……あ!?
  夢でまくらと美月芳夏が話してるのを見た時!? あれはタダの夢じゃなかったのか!?

 そこでゾワリとした。
 あの夢の中で、まくらは美月芳夏のセリフに強い衝撃を受けていた。身体がガタガタと震え出すほどの──

「何を言われたっ!?」
「えっ!?」

 まくらの肩に掴みかかった。その剣幕に、まくらが身を固くする。

「何かショックなこと──相当マズイことを聞かされたんだろう!?  何を言われたんだよッ!!」
「なっ……なんで……」

──わかったの、そんな顔をしてくるまくらに、いよいよ焦燥が募った。

「話せよ!! なんでそんな大事なコト今まで……っ!? まさか、オレに隠さなけりゃならないくらいマズいことなのか!?」

 まくらが自分に気を使って話さなかった──その可能性に気付いた。
 そうして完全に余裕がなくなってしまった計佑に、まくらが苦笑して、計佑の手をポンポンと叩いた。

「話す、話すよ。その為に呼び出したんじゃない……だから落ち着いてよ、ね?  ……ちょっと痛いよ」

 言われて気付いた。かなり力を入れてまくらの肩を握ってしまっていた。

「あ……悪い……」

 手を離して、椅子にぺたんと座り込んだ。息を大きくつくと、力なくまくらを見上げる。

「わかんないコトだらけだ……全部教えてくれるんだよな? まくら」
「全部説明できるかはわかんないけど、私にわかってることは話すよ。
……まあ、説明とか私上手くないから、きちんと伝えきれるかはわかんないけどね」

 そう言って、まくらが一回言葉を切った。

「……まず。なんでホタル──美月芳夏さんのコトを話さなかったというと、
ホタルちゃんの話が、その時はさっぱり意味がわかんなかったから。
さっき、"思い出した" って言ったでしょ?
昔……子供の頃ホタルちゃんに会ってたコトを思い出して、
それでホタルちゃんの言ってたコトも全部わかったって感じなんだよね」
「子供の頃!?  なんだそりゃ!?  まだ元気だった頃に、幽霊と話したってのか?」
「そう。計佑は結局思い出せないみたいだけど……計佑も私と一緒に会ってるんだよ?
昨日行った島で──子供の頃、キャンプに行った時に」
「ええ!?  ウソだろ!?」

 そう言われても、やはり計佑には思い出せなかった。
 確かに、まくらとキャンプをした記憶はある。