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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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──ウソだ。ウソだ嘘だウソだっ!! そんなハズない!!!!

 必死に否定する。携帯を拾う事も出来ず、震える身体で立ち尽くして──必死に念じ続ける。

──大丈夫、大丈夫だ!!  絶対に大丈夫だ……!!


「大丈夫だと思う、まくらなら」
「──!?」

 突然、後ろから計佑の心中に答えるかのような女性の声が聞こえて。
計佑は弾かれたように振り返った。

……そこにいたのは、写真の女性──美月芳夏だった。

─────────────────────────────────

 計佑は唖然としたまま、棒立ちになってしまった。
 美月芳夏が幽霊として今も存在している──それはまくらからも聞かされていた事だった。
しかしそれが突然目の前に現れて、驚かない訳がなかった。

……ただ、それにしても少年の棒立ちの時間は少し長かったのだけれど……

「……計佑?」

 目の前の少女からの呼びかけで、ようやくハッとする計佑。

「だっ……大丈夫って!? まくらはどうなったんですかっ!?」

 突然現れた、数十年前から存在している亡霊──そんな得体のしれないモノであるにも関わらず、計佑は美月芳夏に詰め寄った。
 芳佳は静かな表情で計佑を見つめ、そっと口を開くと、

「もちろん説明してやる気はあるんだが……その前に、ちょっとお前の頭に触れてもいいか?」

 そんな事をきいてきた。

「……え? ……な、なんでそんなコトを……」

 まくらとは違う、本物の亡霊。
 それも、まくらが望んだとはいえ"呪い"をかけるような相手との接触など頷ける訳もなく。
計佑は一歩下がってしまう。 
 計佑のそんな反応に芳佳は、

「『ここ』のお前も、やっぱり私のコトを忘れているのか……昔は楽しく遊んだ相手に、そんな態度をとられるのは傷つくんだがな……」

 そう言って、少し寂しげに笑った。
──その表情を見て、計佑の中からすぅっと警戒心が薄れていく。
 
 子供の頃に会ったことがある──それはまくらからも聞かされていた事だった。
こうして話していても、無闇矢鱈と悪意を振りまくような悪霊には見えない。
 そして今、芳佳が見せた寂しげな微笑に……どこか見覚えがあるような気がして。

「……すいません、変な態度とったりして……」

 そう言って、芳佳との距離を詰めた。
 それでも疑問は疑問なので、頭を差し出す前にやはり尋ねることにした。

「……でも、何のためにそんなことを?」
「お前の記憶をちょっと見せてもらいたいんだよ。
私は『ここ』に来たばかりで、前の世界との違いをまだ把握していないからね……」
「……はぁ……?」

 芳佳の答えは、前半部分はともかく、後半はさっぱりわからなかった。
 計佑の不審そうな顔からも心中を察したのだろう、芳佳は苦笑を浮かべて言う。

「まあ、指先でちょいと触れるだけのコトだから痛みとかはないよ。
多少くすぐったいかもしれんが、本当にすぐ済む……構わないか?」
「……はあ……」

 イマイチ腑に落ちないが、素直に頭を差し出した。

「ついでに、私のコトも思い出させてやるからね。前回もやったことだから、これは本当に簡単なことだよ」

 そんな芳佳の言葉の意味は相変わらずよくわからなかったが、彼女の指先が計佑の額に触れると──

──……んん?  なんだこれ!? な、なんか頭の中がくすぐったいような……?

 不快とか耐えられないほどではないが、不思議な感触に思わず身じろぎしてしまう。

「ああ、もうちょっとだから我慢しておくれ……今は、お前の傷も治しているところなんだから」
「えっ?  傷を治すって一体──」

 また不思議な発言をされて、思わず質問が口をついたが最後までは続かなかった。

──なんだこれ!?  なんか身体が熱く──!!

 急に熱くなりだした身体に戸惑いを覚えたところで、芳佳の指が離れた。──その瞬間、思い出した。

──目の前の少女……美月芳夏がホタルと名乗ってきた時のこと。
──10年くらい前、一時の間、まくらと一緒に遊び回ったこと。
──その時の彼女は、自分たちと同じ年くらいの、子供の姿をしていたこと……

「え……美月芳夏って……あの時のコだったのか!?」

 計佑が思い出せないのも無理はなかった。
 計佑は写真の美月芳夏像で記憶を検索していた訳で、まさか幽霊が子供の姿になったりしていたとは想像できなかったのだ。

「ん、思い出してくれたようだね。……まあ、私が掘り起こしてやったんだから当たり前なんだけれど」

 ふわりとホタルが微笑む。

「ホタル……」

 思わぬ再会に感慨を覚えて何も言えなくなった計佑に、ホタルが問いかけてくる。

「どうだい?  完治とまではいかなくても、それに近いくらいにまでは治ってると思うんだが」

 言われて、身体の熱さのことを思い出した。
慌てて、あちこちを確認してみる。──確かに、もう殆ど痛みもなかった。

「なっ……なんだこれ!?  どうやったんだ!?  幽霊ってそんなコトもできるのか」
「誰にでも、という訳ではないけれどね。
お前とまくらは私と縁が深いから……あとは、お前たちのおかげで呪いが半分解けたおかげでもあるね」

 ビクッ、と計佑の身体が震える。
『呪い』という単語に、まくらの事を思い出したからだ。勢いこんで、ホタルに尋ねる。

「そうだっまくらは!? 大丈夫って……呪いが半分ってどういうことなんだ!?」

 詰め寄る計佑にホタルは微笑んで、

「まあ結論から言うと、まくらの呪いは完全に消えている。
今、私にはまくらとの繋がりを感じられない。
これはつまり、私とまくらとの呪いの共有がないということだからね」

 そんな風に説明してきた。

「じゃっ……じゃあ、まくらはもう元の身体に……?」
「うん。直に目を覚ますだろうよ」

 その言葉に、計佑は心底安心して。

「はぁ〜〜〜〜〜……っ!! よかった……本当によかった……!!」

 大きなため息をついて、椅子へと座り込んだ。
 そんな少年の姿を目を細めて眺めていたホタルだったが、やがてきょろきょろと辺りを見回して。軽くため息をついた。

「しかし……アテが外れたね。上手くいけば、これで呪いが完全に解けるかも……と思ったんだがね……」

 半ば独り言のようだったが、計佑にとっても気になる部分があったので、ホタルに尋ねる。

「完全に呪いが解ける……ってどういうことだ? 呪いがまだ残っているんなら、なんでまくらは開放されたんだ?」
「ん……そうだね、上手く説明できるかね……」

 計佑の問いに、ホタルはちょっと難しい顔をしたが、やがて説明を始める。

「まずは一言で言うとだね……『まくらに呪いを預けていたホタル』が消えたから、まくらは開放されたんだと思う」
「……はあ?」

 さっぱりわからなかった。

「消えたって何だ……? じゃあ今オレが話してる『ホタル』は誰なんだ?」

 だから、当然の疑問を口にした。

「う〜……ん……体感できないお前には、ピンと来ないかもしれない話なんだが……