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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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別の世界、別の自分という概念はわかるかい? もしかしたらこういう世界があったかもしれない、という……」
「え? ……それって平行世界とか、パラレルワールドとかいうやつか?」
「そう、それだ! その『ぱられるわーるど』とかいうヤツだよ。
今の私は、お前から見ると『平行世界から来た、別世界の存在』なんだよ」
「ええぇ……?」

 ホタルが言い出したそれは、SF作品などでよく見かける話だったが……計佑にとっては、『幽霊の存在』よりも信じがたい話だった。
 幽霊なら、今こうして話したり触れたりで体感して、信じる事もできる。
けれど、ただ「異世界からきた」とだけ言われても、証拠もなくては、とてもじゃないが信じられるものではない。

「……まあ、体感できないお前に信じられないのも当然ではあるね。
私も世界をまたぐなんてのは初めてのコトでね……さっきお前の記憶を見せてもらって、色々と驚いてもいるところなんだよ。
前の世界とは、随分と色々違うようでね……」
「へぇ……例えば?」

 ホタルの話には未だ半信半疑だったが、興味にかられて尋ねてみた。

「まず、お前の心根が違う。というか、お前とまくらの生い立ちからして、もう違いがあるようだよ。
あと、茂武市とかいう男は向こうではただの悪友だったようだが、ここでは何か違うようだね?
それから須々野とかいう娘。これはかなり感じが違うような……まあ、細かいことを言い出したらきりがないくらいだ」
「へぇえ〜……」

 興味深い話ではあった。
 ただの悪友だったという茂武市や、『かなり感じが違う』という硝子、そして性格が違うという自分など……

「性格が違うオレ、ねぇ……一体どんなだったんだ?」

 やはり一番の関心はそこになってしまう。素直に尋ねてみた。

「ああいや、性格はそう変わりはないよ。お前の心を占める人物が違うとか、そういう話だよ」
「なんだ、そうなのか? ……ふーん……」

──心を占める人物? それが違うって一体誰だったんだろう? 今のオレだったら……

 考えて。
 小悪魔だったり、健気だったりとくるくる印象が変わるけど、いつだって綺麗で可愛いヒトの姿が浮かんできて──顔が熱くなった。

「……とっところでさあ!! なんでわざわざ世界を渡る必要があったんだっ?」

 自分を誤魔化すように、大声で尋ねた。
 ホタルは、そんな計佑を特に気にする事もなく答える。

「うん……ちょっと榮治さんを捜すのが手詰まりに……ああ、榮治さんというのは私の恋人だった人だよ。
もう生まれ変わって、別人だったりするのかもしれないけど、どうしても諦めきれなくてね。
今も探し続けているのだけど……ともかく、前の世界では捜索が行き詰ってしまって。
呪いが半分解けたお陰か、こうして世界を飛び越える事が出来るようになったこともあって、他の世界を覗きにきたということなんだよ」
「……そうなのか……」

 数十年も、恋人だった人の魂を探し続ける……その想いの深さに打たれて、少年には何も言えなかった。
 未だ恋愛感情もろくに理解できない自分に、何かをいう資格はないとも思った。

「そして、なぜ『この時間』に跳んできたかというとだね……
『呪いが解けた瞬間』にもう一度立ち会えば、完全に呪いが解けるんじゃないかという期待があったからだよ」
 
 その説明は、計佑にはよくわからなかった。

「"この時間" ……? タイミングを狙ってここに来たってことなのか?
なんで『解けた瞬間』に立ち会えば、完全に呪いが解けると思ったんだ……?」
「うん……実は私がいた世界では、今より1時間くらい後に、お前とまくらは二人で呪いを解いたんだよ。
そのお陰で、私の呪いも半分解けた訳なんだが」

 その答えに、計佑はまた別の疑問が湧いた。

「え?  昼間なのに、オレとまくらで呪いを解いたっていうのか?」
「ああ、そうだよ」
 
 ホタルが即答するが、イマイチ腑に落ちなかった。

──さっきのまくらの話では、昼間にやるのは絶対ムリって事だってたのに……その辺りも、平行世界とやらの違いのせいなのか?

 どちらにせよ、もう呪いが解けた今、あまり気にすることでもないだろう。
深く考えることはやめて、またホタルとの話を続けることにした。

「で?  なんでその時間に立ち会えば残りの呪いも解けるって考えたんだ?」
「簡単なことだよ。その時のお前たち二人の行動の結果……その行動については聞くなよ? 話す気はないからな……
ともかく、それによって呪いが半分解けた。じゃあもういちどその時間を体験すれば、またもう半分が解けるんじゃないか? そう期待したんだよ」
「……んん……?  分かるような解らないような……」

 今一つ理解できていない計佑を無視して、ホタルは話を続ける。

「しかしまあ、先に話した通り。
『ここにいた私』が『今の私』に上書きされるように消えたことで、
『ここにいた私』から派生していたまくらの呪いも無効化されて。
私の期待したような展開にはならなかったということだよ」
「はー……?」

 やっぱり今一つ分からなかったが、詳しく聞いても結局の所自分には理解しきれる気がしなかったので、それ以上この事については訊かないことにした。
 代わりに、他のことを尋ねる。

「それで?  これからホタルはどうするんだ?
アテが外れたっていうけど、やっぱりまた榮治さんってヒトを探しにいくのか?」
「ああ、それは勿論。まくらにはお前から宜しく言っておいておくれ」

 そう言って、ふわりとホタルの身体が浮いた。

「え?  まくらには会って行かないのか?」
「……ああ。……けれど、そういえば前の世界でもまくらにはお別れを言わなかったな……」

 ホタルの高度が、少し下がった。

「……もう世界を渡る意味はなさそうだしな。しばらくはここで腰をすえて捜すつもりではいるんだが……
もしかしたら、ふらりとまた会いにくることもあるかもしれない。
……一人きりの長い時間には、ちょっとうんざりしてるのも正直なところでな。
その時には、また話し相手にでもなってもらえると助かるんだが……駄目だろうか?」

 ささやかな願いを口にして、ホタルが苦笑を浮かべた。
 そしてそんな願いを、この少年が受け入れないわけがなくて。

「何言ってんだ、いいに決まってるだろ?  俺たち友達じゃねーかよ」

 そう言って、計佑が笑う。
 けれどホタルは、そんな計佑の顔を見るといきなり硬直した。

「……?  どうした、ホタル」

 突然固まってしまったホタルに声をかけると、すすっとホタルが身を寄せてきた。

──な……なんだ?  なんか妙に近くないか……?

 突然の接近に計佑が戸惑っていると、ホタルは、じーっと計佑の顔を見つめてきた。

「向こうでも……お前が榮治さんに少し似ていると思ったことはある……けれど、こちらのお前は……本当に榮治さんを思い出させるな……」

 言いながら、じりじりと顔が近づいてくる。

「お前が榮治さんのハズはないと思うんだが……しかし……」