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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 どんどん近くなる。慌てて、ホタルを押し留めた。

「ちょっちょっちょ!!  だから近、近いって!?」
「あ……? あっああ、すまんすまん」

 ようやく我にかえったのか、ホタルが下がってくれた。
 計佑がホッと息をつく。
 ホタルは、しきりに首を捻りながら、相変わらず計佑を見つめたままだったけれど──

「……うん、やはり違うとは思うんだが……まあとりあえずはいい。
お前が許してくれるというのなら、またその内顔を見せにくるよ。
まくらにもそう言っておいておくれ」

 そして、ホタルが微笑を浮かべた。

「おう、またな!!」

 計佑が力強く挨拶すると、ホタルは軽く手を振って──蛍の様な小さな残光をいくつか残して、突然消えた。

「お……!? 消えた……流石は本物ってところか……」

 感心して、思わず独り言が口をついてしまう。

♪〜♪♪〜♪〜……

 そこで、計佑のケータイの着メロが鳴った。

「あ、いけねっ……ケータイ落としたままだった」

 拾い上げて、相手を確認する。母からだった。

──おふくろ……? っ、そうかっ!!

 内容を予感して、慌てて電話に出る。果たしてその内容は──

─────────────────────────────────

「──あれ? どうした計佑」

 計佑が息せき切って温泉まで駆け戻ってくると、まだ茂武市が一人で時間を潰していた。

「茂武市っすまん!! 屋敷に置いてるオレの荷物は、お前が持って帰ってきてくれないかっ!? 頼む!!」
「おっおお? なんだよどういうコトだ? 持って帰るってどこに──」
「詳しくは後でメールすっから!!」

 戸惑う茂武市を置き去りにして、屋内へ駆け込む。 
 乾燥機からシャツを回収して、コインロッカーからも荷物を取り出したところで、

「……計佑くん? なんか慌ててるみたいだけど、どうしたの?」

 温泉から上がってきたらしい雪姫に話しかけられた。

──ちょうどよかった!! お世話になった先輩には、最低限の挨拶くらいしておきたかったもんな!!

「先輩すいません!! 急ですけど、オレっすぐに家に戻らないといけなくなって──!!」
「えっ、なんで!? どうして、そんな慌てて……」

 雪姫が驚いて聞いてくるが、硝子もこちらへ歩いてくるのが見えた。
 声を落として、雪姫の耳元に囁く。

「まくらが──例のヤツが、目覚めたって連絡があったんです」
「……ホントに!? よかったじゃない!!」

 目を丸くする雪姫に、コクリと頷いて。

「それじゃそういう事なんで、すいませんけど!!  詳しい話は、また今度しますから!!」

 満面の笑みを浮かべて、計佑はまた駆け出した。

─────────────────────────────────

「気をつけてねーっ!!」
「はーい!!」

 ブンブンと大きく手を振りながら、もう一度だけこちらを振り返ってから駆け去っていく計佑を、雪姫は笑顔で見送った。

「ふふっ……すっごい笑顔……」

 初めて見る計佑の表情に、雪姫は軽く笑ってしまっていた。

「……先輩?  目覚くんどうしたんですか?」
「あ、硝子ちゃん……うん、お家のほうで急用が出来たみたいで、もう帰らなきゃいけなくなったみたいなの」
「え!?  急用って何かあったんですか?」
 
 硝子が慌てた顔をするが、

「あっ、ううん、詳しくは聞いてないんだけど、悪いコトがあったとかそういうことじゃないみたいだよ。
計佑くん、すっごい笑顔だったでしょ?」

 まくらが目覚めたというのなら、もう硝子達にも隠し通す必要はないのかもしれないけれど、
自分の口から話すような事でもないと、一応雪姫は口を噤んだ。

「……確かに……随分と嬉しそうな様子でしたね」

 硝子も先ほどの計佑の顔を思い出したのか、軽く笑みを浮かべた。雪姫もまた微笑うと、

「あんなに嬉しそうな計佑くん、初めて見たかも……」

 そう呟いた。その呟きをきいた硝子が、ピクリと身体を震わせる。

「……そうですか? 私は何度か見たことある気がします……」
「あ、そうなんだ? ……そっか、硝子ちゃんはもう4ヶ月近く計佑くんと同じクラスだもんね」

 硝子の言葉に、最初、雪姫は特別な事は思わなかった。けれど、自分が言った言葉で気付いた。

──ああそっか……私が計佑くんと過ごした時間は、まだ10日もないんだ……

 計佑と過ごした時間はとても濃密だったから、気にしたことはなかったのだけど……今の硝子の言葉で、気づいてしまった。
 そして、今しがた満面の笑みを浮かべて少年が帰っていった先には、多分十年くらいの時間を一緒に過ごした女のコが待っていて。
……その事に思いが及んだ時、

ズキン……

 胸に、痛みが走った。

──……え……なに……? 今の痛み……

 雪姫には、今走った痛みの理由がわからなかった。

──眠り続けてた、妹同然のコが目を覚ましたんだよ?  凄く嬉しそうなのは、当たり前じゃない……

 理屈ではそう分かっているのに、心がザワつく。

──10年一緒っていっても、妹さんみたいなものなんだよ?  計佑くんが、はっきりそう言ったのに……

 なのに、不安がじわりと広がって。

──……なんで? なんで私、胸が痛くて……不安になるの……?

 いつしか、雪姫は俯いてしまっていた。

……そんな雪姫を、硝子が暗い瞳で。唇を噛み締めて、見つめていた──


─────────────────────────────────

<17話のあとがき>

という訳で、この小説の世界は原作にリンクしたパラレルワールド的なもの、とさせていただきました。
ここは原作の次の世界って感じですかね。
といってもそれはホタルの感覚であって、実際にはどっちが先も後もないのかもですけど。

ホタルとの会話で、
「いくつかの世界をみてきたが、気が多いなお前は。硝子にアリスに……」
という、いかにもギャルゲなものも考えましたが、結局なしにして。
『計佑の相手は、先輩かまくらのみっ。この二人以外にケイスケが惚れる事はないっ』
というイメージにしました。
一途……一途とはいえないんでしょうけど(汗)
まあ惚れる相手が二人しかいないなら、ギャルゲの感覚としては十分ストイックかな、と(-_-;)

原作だと、この回の先輩は、完全にピエロだったんですよね(T_T)
……というワケで、こちらではちょっとリベンジ。
ホタルとの会話の中にも、先輩への愛を感じさせるものを(^^)

榮治の生まれ変わりが計佑じゃないの、って意見をどっかで見かけたので、こちらにちょっと反映。
棒立ちの時間は少し長かった、とか、ホタルの寂しい顔に見覚え、とかいうトコです。
一応、三話でもちょろっと『写真に見とれる』ってのを入れといたんですが……

でも、もしそうだとするとあまりにもホタルが哀れですね……
DESIREってゲームを、ちょっと彷彿とさせる……
原作の設定では、あまりにもホタル不憫すぎですよね。
予定通りに話が進んでいたら、ホタルもちゃんと救われていたんでしょうか……