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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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それぞれはもうよく覚えてなかったが、『全部先輩』だと答えたことは覚えていた。

「……じゃああの時の質問に追加で……今、計佑くんと一番仲のいい女のコって誰になるかな……?」
「……それは……まくらになるでしょうね、一応」

──女って思うコト基本ないんだけど……まあ血は繋がってないし、一応そうなるだろうなぁ……

 そう考えて答えたのだけれど。

「……そっかぁ……やっぱりそうだよね……」

 なんだか、雪姫の声から更に元気が失われたような……

「まくらさんとの付き合いは……どれくらいになるの?」
「えっと……よく覚えてないけど、一応生まれた頃からの付き合いですね……
本格的にウチにいつくようになったのは、幼稚園くらいからですけど」
「……そっかぁ……やっぱり10年以上かぁ……」

 計佑としては、雪姫が何を気にしてるのか一向にわからない。

「あの、それがどうかしました?」
「…………」
 
 雪姫がまた沈黙状態になってしまった。

「…………」
「…………」

 しばらく待ってみたが、やっぱり雪姫は口を開かない。それでも我慢強く待ってみる。やがて──

「……あのね、私と計佑くんがちゃんと知り合って……まだ10日ぐらいしか経ってないよね?」
「あ、はい、そうですね……」

 ようやく、また口を開いてくれた雪姫に肯定の返事をして。

「でも幼なじみさんとは、もう10年以上経っていて……そしてこの先どれだけ経っても、
私の方が長くなるコトはないんだな、って思ったら……なんか寂しくなっちゃったんだよね……」
「……へ……?」

 間抜けな声が出てしまった。

「……あの……まさか、先輩が元気ないのって、それが理由ってワケじゃないですよね?」

 流石にないとは思ったが、一応尋ねてみた。

「……そのまさかだけど……」
「……ええぇ!?」

 まさかの答えに、大声が出てしまって。
……しばらくぽかんとしてしまってから。正直な感想を口にした。

「先輩って……時々、ホント変なコト気にしますよね」

─────────────────────────────────

「へ……変なコトって!!」

 計佑の言葉に、雪姫はカッとなった。
 計佑の声には、僅かながらも『なんでそんなバカなことを……』みたいな、呆れの成分が混じっていて。
少なくとも、自分はこの数日ずっと気にしていた事を、そんな風に切り捨てられて、

──計佑くんは、私のコトなんか好きじゃないからそんな風に言えちゃうんだ……!!

 そう思ったら、じわりと涙まで滲んできた。慌てて、ぐっと堪える。

──ここで泣いたら、もっと呆れられちゃう……!!

 優しい少年だから、慰めてはくれるかもしれない。
 でも今の自分の悩みがまるで解っていない少年なら、ここで泣き出す相手になんて、更に呆れる可能性もある。
そんな風に考え、くっと唇を噛んで俯く雪姫に、計佑がまた話しかけてきた。

「だってそうでしょ? "知り合ってからただ経過した時間" だったら、そりゃあ逆転するコトはないけど、
"知り合ってから一緒に過ごした時間" だったら、逆転するコトはありえますよね?」
「……あ……」

 その通りだった。言われてみれば全く当たり前の事で。
なんでこんな事にも自分は気付かなかったのか……俯いた顔が、自然と持ち上がっていた。

「それに過ごした時間の量って、そんな絶対なもんですかね……?
オレがこないだ先輩と知り合ってからの時間は……まあまくらが倒れて色々あったせいもあるけど、今までの人生の中で一番濃密な時間でしたよ」

──それは……私も同じ……

軽くなり始めた雪姫の心に、計佑の言葉が更に届く。

「例えば、たった数日でこんなに親しくなれた相手なんてオレは先輩しかいないんですけど……
優劣つけるもんじゃないとは思うけど、15年過ごした相手に、数日で追いついてくるっていう方がよっぽど凄くないですか?」
「……そ……それは……」

 少年の、本気で不思議そうな疑問の声に。その内容に、雪姫の心がぐんぐんと上向いていく。

──確かに……そんな短時間でここまで仲良くなれる人なんて……それこそ運命って言えるのかも……

 恋する乙女が、乙女回路全開の思考を始めて。

「第一、家族だけがずっと特別とかいってたら……一生、家族以外に恋人とか新しい家族とかも出来ない理屈になっちゃいますよ?
……やっぱり、何で先輩がそんなコト気にしだしたのかよくわかんないんですけど……」

 それは、色恋にはとことん鈍い少年だから言えた理屈だったかもしれない。
──けれど、雪姫には十二分な言葉だった。
スキップのような軽やかさで、計佑の方へと歩き出す。

「──えっ?  どっどうしました先輩?
……あっ、別に先輩の悩みを軽く扱ったつもりはないんですよ!?
ただ、オレにはどうしてもピンとこなかったもんだから、つい……!!」

 何やら勘違いしたらしい計佑が慌てて弁解してくるけれど。
雪姫の心中は、計佑の想像とは全くの正反対で──

「ねえ計佑くん。最後の言葉は、家族と恋人は全然別物で、だから私が悩む必要なんてないってコトだと思うんだけど……それはつまり、計佑くんは私の事を恋人だって思ってくれてるってコトなのかなぁ?」

 計佑の目の前で足を止めると、ニッコリして言葉を投げた。

「うえ゛!? いっいや、そんなつもりじゃなくて! 一般論のつもりで言ったんですけど!!」

 目論見通り、アワアワし始める少年の姿に、笑いがこみ上げてくる。
手を後ろで組んで、前かがみになって下から少年の顔を覗きこんでみた。
──おなじみのニンマリとした笑顔で。

「そういえば、妹さんの問題が片付いたら私の告白のコトを考えてくれるって話だったと思うんだけど……
それはどうなってるのカナ?」
「あっ!? いっいやっその〜〜〜……すいません。島で言った通り、やっぱりまだ答えは出せそうにないです……」

 そしてうなだれる計佑の姿に、プっと吹き出して。雪姫はすっかりご機嫌になっていた。

──我ながら単純だなぁ……ホントに。

 さっきまで真夜中な心中だった癖に、計佑の言葉ですぐ快晴になる変わり身の速さに、内心苦笑する。

──でもしょうがないよね……王子様の言葉に振り回されちゃうのは、女のコのサガみたいな物だもん。

 そう言い訳して。そして、ご機嫌な気分のままに少年を弄る。

「ふふ〜んだ。偉そうに先輩に説教たれてたクセに、自分のそのお子様ぶりはどうなのかな〜?」

 前かがみの体勢から姿勢を戻すと、うなだれる少年の頭にポンポンと触れて。

「か、勘弁してください……」

 計佑の弱り切った謝罪に、雪姫はコロコロと笑ってみせるのだった。

─────────────────────────────────

 その日の夕方近く。
計佑は、まくらと一緒にスポーツ店へと寄っていた。

「計佑っ、ありがとね〜付き合ってくれて。助かったよー」

 昼、雪姫と別れた後、帰宅しようとした計佑にまくらから連絡があって、

『スパイクがダメになっちゃったんだよ〜!! 今日の帰り、買わなきゃだから付き合って!!』