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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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 気まずい沈黙がおりた。
 いたたまれない思いで計佑が立ちすくんでいると、突然バッと雪姫が振り返ってきて。
思わずビクリしてしまう。
……けれど、その雪姫の顔は──笑顔だった。

「ふふっ……じゃれ合いはいつものコトだって言うけど!!
さっきのはどう考えてもマズかったと思うよ?
もし他の人……先生とかに見られてたら、どう言い訳するつもりだったの?」

 最後には指を立てて、メッ! という感じで雪姫が軽く睨んでくるが、計佑はその姿に安堵を覚えた。

「こらっ!! 何ホッとした顔してるの!? 今、私は怒ってるんだからね?」
「あっはい、すいません!!  ホント、不注意でした……」

 計佑が、慌てて頭を下げて。

──よかった……ちゃんと誤解だってわかってもらえたみたいだな。
ホント、見られたのが先輩で不幸中の幸いだったな……

──雪姫だからこそ最悪な状況だというのに、微塵も気付く事なく、呑気にそんな考えを抱く少年。
その呑気さのまま、雪姫に誘いをかける。

「あっ!! そうだ先輩。部っていっても今はウチ人数少なくて同好会扱いだったりなんですよね。
……なんで、よかったら先輩も入ってくれたりしませんか?」

そう口にした途端、雪姫の顔がこわばった。

──あれ?  誘っちゃマズかった……かな?

「……数合わせのためだけに、入ってほしいっていうこと?」

また雪姫の声が冷たくなった気がした。

「えっ!? いやっ違いますよ、そういう意味じゃなくて!!
正式な部じゃないし、軽い気持ちで入ってもらえたらな、ってそういうつもりだったんですけど……」

 誤解されたらしいと知り慌てて弁解したけれど、雪姫はクルリと身体を翻した。

「あっ、あの先輩……」
「……だとしても。あんなに女のコといちゃついてすぐに、他の女のコ誘ったりするんだね……」
「……え?」

 後ろを向いたままの雪姫が何を言い出したのか、よくわからなかった。
 雪姫が顔だけ振り向いてくる。

「やーっぱりプレイボーイだねキミは……天然のフリしてさっ」

 ジロッと睨んできてから、また前に顔を戻すと。

「ふーんだ。計佑くんなんて、そうやって誰彼かまわず女のコ誘ってればいいんだよ」

 そう言い捨て、雪姫は足早に去っていく。

──え……何? なんか最後急に態度が……?

 雪姫の最後の言動がわからず、ぽかんとしてしまう計佑。
そんな少年の背中をパンっとたたく者がいた。まくらだった。

「バカっ計佑!! 何やってんの!? 先輩ヤキモチやいちゃったんだよ!!」
「え? ……ヤキモチ?」

 なんでそんなモノ? ていうか、何でここで餅を焼く話になるの? ──とでも考えてそうな少年の顔に、まくらがイラっとした顔つきになった。

「〜〜〜!! ホントにこういうのじゃバカなんだから!!  このヘタレ鈍感!!  もういいっ、私が誤解といてくる!」

 タッとまくらが走りだして。
ヘタレ鈍感少年は、ポカーンと立ち尽くしていた。

─────────────────────────────────

 雪姫は半ば逃げるように──いや、本当は逃げるためだけに。早足に部室棟から離れていた。

──最後までは……普通にしていられなかったよ……

 胸がズキズキする。
 部室のドアを開いた瞬間に見た光景は──ショックだった。
本当に一瞬、心臓が止まった気がした。
 計佑と今一番親しい女のコ……それが幼なじみのコである事は、分かっていたつもりだった。
でも、想像のずっと上をいく親しさを見せつけられて……雪姫の胸は激しく軋んだ。

──私には……絶対あんなコトはしてくれない……

 計佑がウソをついていたとは思わない。
でも少年の言葉どおりなら、じゃれ合いが『ちょっと』エスカレートした結果、
馬乗りになって、くすぐり続ける──さっきの女の子の状態からして、短い時間ではなかったろう──
そんなのが当たり前な関係。
──とても、平気ではいられなかった。
とっさに仮面をかぶったけれど、無邪気に計佑がこちらを勧誘など始めてしまった時……抑えきれなくなってしまった。

──そんなに、仲のいい自分達を……私に見せつけたいっていうの?

 もちろん、計佑にそんな意図がないのはわかっている。
あの奥手な少年があんな事を出来るというのは、きっと家族同然の気安さ故ということもわかる。
 それでも……

──……私……こんなに嫉妬深かったのかな……

 なにせ初めての恋で。
嫉妬なんていう物も、数日前に知ったばかりだった。

「……はぁ……」

 踊り場で、足が止まった。

──いけないいけない。あんな別れ方じゃあ、計佑くん気を悪くしたままになっちゃう……

 メールを打とうと、携帯を取り出して──

「白井先輩っ」
 
 後ろから声をかけられて、ビクリと振り仰ぐ。
 階段の上に立っていたのは、活発そうな女のコだった。

──あ……もしかして……

 さっきは、向こうを向いて倒れていたので顔はよく見えなかったのだが、
多分計佑の幼なじみ──音巻まくらだろうことは察せられた。案の定、

「……はじめまして、白井先輩。
計佑から聞いてるかもしれないけど、私は音巻まくらっていいます」

 挨拶しながら少女──まくらが降りてくる。
まくらは踊り場まで降りてくると、ペコリと頭を下げてきた。

「まずは、色々ありがとうございました!!
私が寝込んでる間、なんか随分と手を貸してくださったみたいで……」

 まくらが、そう礼を言ってくる。

「えっ!? うっううん、そんな大したことしたワケじゃないし……いいから頭を上げてっ?」

 雪姫が慌てると、まくらはぴょこんと頭を上げた。

「えへへ……ありがとうございますっ!!」

 まくらはニコニコとした笑顔を浮かべていた。

──……すごく……カワイイ女のコだ……

 自分のような仮面の笑顔じゃない……心の底から笑ってるだろう顔で見つめられて。
雪姫の心は沈み始める。それでも、表面上は雪姫も笑顔を浮かべてみせた。

「えっと……それで音巻さん? 私に何か……」
「あっ、よかったら私のコトはまくらって呼んでくださいっ」

 ビッと片手を上げながらそんな風に言ってくるまくらに、

「そ、そう……? うん、わかった……まくら、ちゃん?」

 恐る恐る呼びかけると、

「はいっ!! ……私は、雪姫先輩、って呼んでもいいですか?」

 ノータイムで返事をされた後、上目遣いでそんなコトを聞かれて。

「う、うん……いいよ、まくらちゃん」
「やったーっ!! 憧れの先輩と、もう名前で呼び合う仲っ!!」

 両手を突き上げて飛び跳ねる少女に、雪姫は内心ちょっと引いてしまっていた。

──す、すごい元気なコ……ホントに私とは正反対だ……

 人見知りで、いつも他人には心の壁を築いている自分。
 親友にすら、悩みを話すことは出来ないでいるような自分と比べて、彼女のこの人懐っこさはどうだろう……
そんな風に、いよいよ雪姫の心は沈みきっていって。仮面の笑顔もはがれそうだった。

「あっ!! 肝心なコト忘れるところだった」