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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

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そんな二人を茂武市は『また始まった……』みたいな生暖かい目で見守っていたが、
──残された一人は、熱い目でじっと二人を見つめていた。

─────────────────────────────────

 その時、雪姫は嫉妬していた。
……といっても昨日のような、暗く沈み込むような気持ちではなく。

──いいなぁまくらちゃん……私もあんな風に計佑くんに触ってもらえたら……

 雪姫にとっては、もはやまくらは心強い味方だった。だからこれは、純粋に羨む気持ちでしかなかった。
 計佑の方から触れてきてくれたことは……事故とか特別な時以外ではない気がする。
手を握り返してくれたりはしたけれど、それも自分が求めたから応じてくれたようなもので。

──いつか私も……あんな風に、計佑くんに構ってもらえるようになるのかなぁ……

 夢想する。

──『雪姫』と呼び捨てにされて、軽く小突かれたり。
くすぐられて、悲鳴を上げても『ダメだ、許さない。これは罰なんだからな』と上から目線でニヤリと笑まれたり──

──……いい、かも……!!

 雪姫は基本的には、人に大事にされてばかりいる少女だ。
そんな自分に、滅多にされない態度で大好きな少年が接してくる様を想像して、雪姫は顔を熱くしていた。

 そんな感じで、雪姫は熱い瞳で計佑たちを見つめていたのだけれど、ふとまくらが雪姫の視線に気付いて。
そのまくらが口を『あ』の形に開いて、身体を硬直させた。

「……ん? どうしたまくら?」

 急に抵抗が止んだまくらを計佑が訝しんだが、その隙にまくらは慌てて計佑の腕を抜けだした。
そして計佑の背後に回ると、羽交い締めにして。

「雪姫先輩!! 手を貸してください!!」
「なっ!? お、お前何言い出して……!!」
「私一人じゃ計佑に勝てないんですー!! お願いっ雪姫先輩!! 私が抑えてる間に、コイツをくすぐりの刑にー!!」
「はぁっ!?」

 ギクリとした様子の計佑が、声を裏返らせた。

「ふっふっふ、計佑……くすぐりに弱いのはお互い様だったよね?」
「おまっふざけんな!! クソっ本気で……!!」

 ニヤリとするまくらに、いよいよ計佑が焦りだし、本気でまくらを振りほどこうとし始めたようだが、
まくらは両足を計佑の腰に絡めて、おんぶ状態になってしまった。
 計佑がふらつく。

「ひっ卑怯だぞ、テメー!!」

 ああなってしまっては、乱暴に振りほどけないのだろう──まくらにケガをさせてしまう可能性があるから。

「ふんっ……昨日のお返しだよ!!」
 
 まくらが、計佑の背後から雪姫を見やる。

「さあっ雪姫先輩!! 思う存分やっちゃってくださいっ」

 そこで、まくらの意図を雪姫は理解した。
自分の嫉妬を見抜いて──まくらが心配するような、暗い気持ちではなかったけれど──計佑に触れる機会を作ってくれているのだと。

──……ありがとう、まくらちゃん……!!

 当然、雪姫はその好意に甘えることにした。

「それじゃ……お言葉に甘えて……」

 立ち上がってゆっくりと歩み寄る雪姫に、計佑がビクリとする。

「ちょっ、せっ先輩!? まっ待ってください……!!」

 計佑が怯えた表情を浮かべて、それに雪姫はゾクリとした。

──……ああ……この顔……!! 裏門や病院で見た顔だ……

 ちゃんと知り合ったばかりの頃の話だ。もう随分昔のような気がする。
 雪姫の顔が、ニタリと邪悪に歪んだ。
最近はソフトなからかいばかりだったけど、久々にキツク計佑を弄ってやりたい……!!
そんな欲求のもと、計佑に詰め寄って──

「やめっ、せ!!  ……はっ、はははははは!! あー……!!──────」

──存分に、計佑の身体に触れることを楽しんだのだった。

─────────────────────────────────

 雪姫が満足するまで計佑の身体を堪能した後。
そこにはうつ伏せに倒れて、ヒクヒクと身体を震わせる少年の姿があった。

「……や……やり、すぎ、です、先輩……」

 涙目で見上げてくる計佑に、雪姫は、またゾクゾクと背を震わせた。

──ああ……懐かしいよ〜……病院でイタズラ仕掛けた時以来だ……

 あの時も、涙目で振り返ってくる姿にゾクゾクした事を思い出す。

 そんな満足気な雪姫を、まくらはニコニコと見つめていたが、ふと表情をニヤリとしたものに変えた。
 そろりと雪姫の背後に回って──ガシリと、今度は雪姫を羽交い絞めにしてしてきた。

「……えっ!? なっなに、まくらちゃん!?」

 陶酔の境地から呼び戻された雪姫が慌てると、

「私と計佑ばっかりじゃ不公平でしょ? 今度は、雪姫先輩がくすぐられる番ですよっ」

 まくらが無邪気に笑いかけてきた。

──ええぇっ!? うっウソっ!?

 まくらとしては、これも計佑と自分の距離を縮める為にやってくれているのかもしれない。
けれど正直、これは歓迎できないサービスだった。
 慌てて身を捩るが、雪姫の力では、ソフト部エースの戒めを振りほどける筈もなく。
その内に、計佑が起き上がってくる。

「ですよね〜……先輩だけ無しってのは確かに道理が通らないですよね〜……」
「ひっ!?」
 
 流石に、今のくすぐり地獄は腹に据えかねたのだろう。
自分に対しては決して見せてこなかった嗜虐的な笑みを、今、初めて計佑が向けてきていた。

「いやっ!? こっ来ないで計佑くんっ!!!」

 ついさっきはそういう計佑に憧れたりしていた雪姫だが、いざそういう顔を向けられたら、途端に怯えが入った。
それにもう1つ──

──茂武市くんだって見てるのにっ……!!

 計佑とまくらだけだったら、まだ受け入れられたかもしれない。けれど、ここには茂武市もいた。
チラリと茂武市を見ると、何かを期待するかのように、目を爛々とさせている。
 自分とて、かなりのくすぐったがりなのだ。
このままでは、茂武市にまで自分が悶えるところが見られてしまう……!!

「やっやだっ!! お願いっやめて計佑くん……っ!!」

 本気で哀願するも、じわりと計佑は近寄ってきて。

──やだよぅ……っ!!

 観念して、目をぎゅっと閉じてしまう。もう既に、涙が滲んでしまっていた。
ふわりと計佑の腕があがる気配がして──

『コッ!』
──雪姫の背後で、何かが軽く殴られる音がした。

「いった〜い!? 何すんのよ計佑!!」
「何すんのよ、じゃねーだろバカ。早く先輩を離せ」
「……?」

 雪姫がそっと目を開けると、計佑がまくらの腕を引き剥がしてくれているところだった。
きょとんとして計佑の目を見つめると、

「冗談ですよ、先輩。先輩にそんなコトするわけないでしょ」

 そう言って、計佑が苦笑してきた。

──……よ……よかったっ……!!

 心底ほっとした。
 結局、まくらと同じようには扱ってもらえなかった──そんな寂しさもチラリと胸をよぎったが、それよりもずっと安堵のほうが大きかった。

──……うん……今はまだ、私も心の準備が出来てないみたい……
  ああいう関係は……これからゆっくり育んでいけばいいよね……