白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「うん……確かにそんな流れだったよ。 私も横で聞いてたから間違いないよ」
ブカブカのパジャマの袖をパタパタさせながら、まくらが答える。
「いやいやちがうだろっ! その話を本人がなんで横できいてるかを聞きたいんだよっ!!
じゃあ次の質問だっ。なんでお前いきなり植物園なんかいったんだ? ……それもそんな格好でっ」
まくらは一瞬固まったが、
「……え? 知らないよ? 植物園のことも覚えてない……だってなんか、気がついたらひまわり畑で寝てたから」
「……じゃあ、バラの傷ってのは?」
「……知らない」
「じゃあなんで『死んじゃったのかなぁ』なんて思った!?」
声を荒げる計佑に、まくらがビクリとして。
「それは……」
しばらく言い淀んだが、
「そう……そう思ったから、としか……ただそんな感じがしたから、つい……」
俯いて、カーテンの向こう側へと移動してしまった。
「おい……ふざけてる状況じゃないんだぞ。それじゃ何もわかんねーんだよ……」
ふわりと浮かんだまくらが、カーテンレールの上から顔をちょこんとのぞかせる。
「お前……本当にまくらか?」
胡乱げな目で見られ、まくらが慌てた様子で上半身を乗り出してみせる。
「なっなにいってんのっ! 計佑が忘れてる子供の頃の話だって、さっきしてみせたじゃないっ」
垂れ下がった袖で、ペシペシとカーテンレールをたたきながらのその姿は、可愛らしくはあるが──
「オレが忘れてる話で、本人証明なんか成り立つかっ」
──ってツッコミ入れてる場合かっ。漫才やってられる状況なんかじゃねーだろ俺……!!
深呼吸をして、
「……よくあるパターンとして。いや実際あるかは知らんけど……ともかく!!
お前が生き霊とか抜け出た魂とかみたいなやつだとしたって、こんなに幸せそうにムニャムニャ寝言までほざかれたんじゃあさぁ……」
その言葉に、パジャマなまくらの顔がさーっと青ざめる。
「私……やっぱりお化けなの……」
あわあわとし始めるまくら。
「いやだって……オレ以外の人間は、全然浮いてるお前みえてねーし。 ていうか、そもそも人間は浮かねーし……」
そして二人共黙りこんでしまった。
何を言えばいいのか、何をどうすれば──
「ちょっと……頭冷やそうぜ」
─────────────────────────────────
それから、二人は海へときていた。
計佑は砂浜に座り込み、波の打ち付ける音を聞きながら物思いにふけっている。
──何もわかんねーし……全然わかんねーよ。
ただ寝てるだけ……確かに顔色いいし、いつものまくらの寝姿どおりだった。
まくらは、まだ落ち着かないのかちょろちょろと飛び回っている。
──原因は……小指の傷。今のとこそれしか考えようはないよな。てったって、何をどうしたら……
飛び回るの飽きたのか、いつのまにかまくらは計佑のそばに座っていた。
──オレにしか見えない……それってオレになら何かはできるってことなのか?
「なあ、まく……」
「ねえ、計佑」
考えがまとまらないまま、とにかくまくらに話しかけようとした計佑の声に、まくらの声がかぶせられた。
「いいよそんなに焦んなくても、さ……計佑は今、責任感じてるんだよね。
自分にしか私が見えてないんなら、自分がなんとかしなきゃってさ……どう、当たり?」
見抜かれていたことに驚いていると、
「あははっ、図星って顔してる。ぷぷ……」
まくらが砂浜から立ち上がる。砂がついたりはしていない筈だが、クセでおしりをはたくと、
「よーし、いくぞぉ!!」
突然大声をあげた。
「……は?」
「今日の太陽が昇るよ」
空の向こうから太陽が顔を出し始めて──
「私が一番乗りだーっ」
かけ出していくまくら。そのまま海へとジャブジャブ入っていき、
「キャー!! 冷たーいっ。 あれーっ、お化けなのにーっ。わー濡れる濡れるーっ。えーそんなもんなのーっ!!」
キャイキャイ騒ぎ続けるまくらを、ぽかんと見つめる計佑。
……やがて、ふっと息がもれた。
「何やってんだよ全く」
計佑も立ち上がる。
──落ち込んでるオレを励ましてるつもりか、あいつ?
苦笑がもれた。
……全く。当事者が笑おうとしてんのに、オレが暗い顔してる訳にゃーいかないよなっ!
「おいでよっ、計佑っ!!」
逆光で表情までは見えないが、満面の笑顔で誘ってるだろうことはわかる。
──あいつはそういうやつだもんな。
いつだって元気一杯、喜怒哀楽120パーセントの幼馴染だから。
「おいまくらー!!」
まくらの元に向かいながら、計佑も笑う。
「絶対、なんとかしてみせるからな!!」
─────────────────────────────────
<2話のあとがき>
これが僕の生まれて初めての小説……といっていいんですかね、原作漫画を説明しただけみたいなものなんですけど……
第一話じゃなく、この第二話から書き始めてみました。
理由は、この第二話では雪姫先輩は登場しませんので、練習の為にちょうどいいかなぁと思いまして。
原作だと、海のシーンではまくらと計佑はちょっといい感じになってしまいますが、そこは改変させてもらいました。
そして鈍感魔王の計佑くんですが、
一応こちらではまくらの意図に気づく程度の器量は持たせてみました。
ちなみに僕は、計佑くんは結構好きなんです。
いや、色恋に関してのウジウジぶりは、
見飽きすぎてむしろもう何周かして、んで結局やっぱりイラつくわって思うところなんですが、
雪姫を守りきった後の笑顔のシーンには痺れてしまったもんですから。
─────────────────────────────────
第3話『病院での再会、「この人苦手だ……!!」』
海から帰ってきた計佑とまくらは、いつも通りの一日を過ごした。
──生き霊?と過ごすような一日がいつも通りになるというのもおかしな話だが、そうとしか言えないものだった。
まくらは、他人に見えないことと、宙に浮けるということを除けば、普通の人間だった時と特に変わりなかったからだ。
食事をする、風呂に入る、リモコンを忙しなく操作しながらテレビを見る。
そんなまくらは夕方になった今も、空を眺めながら計佑に星の話を聞き込んだりしていた。
「おばちゃん……今日は帰り遅いね」
──お前のために病院に寄ってるんだろうさ……
口にするとまた暗くなりそうな答えは、どうにか心の中だけで押し留めた。
「つかさ……もうちょっと戸惑いとかないのかよお前。まだあれから1日たってないんだけどな」
「うーん……でも」
にぱっと笑うと、まくらは続けた。
「私 結構楽しいんだよね、今」
「……はあ?」
─────────────────────────────────
その日の夜、まくらは計佑の部屋で眠っていた。
まくらが駄々をこねたからだ。
計佑としても、こんな状況で一人になりたくない心境はわかるので、押入れを片付けて寝場所を用意してやったのだが……
──楽しいって……そりゃ心底そう思ってる訳じゃないだろうけど。相変わらずガキっつーか脳天気っつーか……
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON