白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「……っ……」
案の定、大声など出さないエリス。
一応自信はあったが、読みが当たった事に、内心ホッとため息をつく。
そしてまくら宛てに、エリス発見のメールを打ちはじめた。
「……なにしにきたんだよ」
エリスが唇を尖らせる。
「お前を捕まえにきたんだよ。子供を夜道に放り出すワケにいかないだろ」
「子供扱いすんなっ!!」
またエリスが暴れようとするが、その頭に顎を乗せて。
「子供だよ。でなきゃ、あんなヒドい事言ったら、普通許してもらえないからな」
その言葉にエリスの身体がピクリと震えて。少しまごつく様子を見せたが、やがて口を開いた。
「……アタシ……そんなにヒドいコト言ったのか……?」
「……そーだなぁ……」
どう説明してやるか、しばし考えて。
「……お前、両親の事は好きか?」
「……今は、あんまスキじゃない……アタシのコト、親戚の家に放り出したから……」
「……そっか……」
エリスも複雑な環境にいるようだった。
……恵まれた自分が偉そうに説教するのも気が引けたが、この子のためにもここはあえて。
「……じゃあ、お姉ちゃんはどうだ? お前時々、姉ちゃんの事を口にしてたけど」
「ホントのお姉ちゃんじゃない……従姉妹だけど。そのお姉ちゃんは大好き」
「よし、じゃあ……お前のコトを、誰かがこんな風に言って責めたとする。
『生意気で口の悪いコだ。きっと、お姉ちゃんとやらもお前みたいな悪い人間なんだろう』
……どんな気がする?」
エリスが勢い良く振り返ってきて、
「そんなの!! なんでアタシのことでお姉ちゃんが悪くなるんだよ!? お姉ちゃんはすごくいい人で──」
「お前がさっきまくらに言ったのは、似たような事じゃなかったか?」
「……あ……」
「ちなみにまくらは、両親とも大好きだからな」
言い添えると、エリスはカクンと俯いてしまった。
「……あとな。まくらは父親がすごく忙しい人であまり構ってもらってないし、母親は子供の頃に亡くなってる」
「えっ……!!」
ペラペラと話すことではないとも思ったが、きっちり教えておかないと、また同じような事が起こるかもしれない。
──まくらに、親の話は本当にタブーなのだ。
「ア、アタシ……知らなかったんだ、そんなの……!!」
「わかってるよ。だからデコピン一発で許してやろうとしたんじゃないか。アイツはやさしーからな、オレが代理で弾いてやったんだよ」
慌てるエリスの頭を撫でてやる。
「今だって、お前のコト探しまわってくれてたんだぞ?
あんな酷いコト言ったお前のためにな……どーだ、これでもまだまくらが嫌いか?」
「…………」
「……やれやれ。お前も大概意地っ張りだなぁ……」
無言で、顔を前に戻してしまうエリスに、計佑はため息をつく。
「……だって……アタシ、ヒドいコト言っちゃった……もう許してもらうなんて……」
「できるよ。だから言ってるだろ? コドモなんだから、頭さげりゃ大概は許されるんだよ」
その言葉に、エリスはふるふると頭を振った。
「……子供扱いはキライだ……」
計佑にも、この見た目は色々とコンプレックスだろうことは察せられた。
けれど、敢えて言ってやる。
「バカ言ってんなよ。子供のほうが得するコトだって多いんだぞ?
今回のコトだって、もしお前が大人だったらきっと許されないんだからな」
うりうりと髪をかきまわしてやって。
「……お前、自分の外見が子供っぽいの気になるんだろうけど。でも子供っぽいのって『悪いコト』か?」
計佑の質問に、エリスの身体がピクリとした。
「別に全然『悪いコト』じゃないだろ? そんなの。いいじゃないかよ、子供のまま最強になってやればさ」
「子供のままで……?」
ぽかんとした顔でエリスが振り返ってきた。
「お前みたいにカワイイ小学生、オレ初めて見たぞ?」
そう言って笑いかけると、エリスはボッ!! と顔を赤くした。
「……なっ、ななっ……!! なに言い出すのよっ!! ……あっ!? そうやってお姉ちゃんもダマしたのねっ!!?」
「だからお姉ちゃんって誰だよ……」
そう尋ねると、エリスはぐっと言葉を飲んでから「……ヒミツ」とだけ答えてきた。
「やーれやれ。黒井はホントに意地っ張りだなぁ……」
「……アリス」
「あ?」
「ホントはアタシ、綿貫アリスって名前なんだ」
「はぁ? なんで偽名なんか──」
「それもまだヒミツ」
またシャットアウトだった。
「……はいはい、りょーかい。綿貫ね」
「だからアリスって呼びなさいよ!! ミョージ、あんま好きじゃないのっ」
苗字で呼ぶと、またキャンキャンかみついてきた。
──……まあ、小学生にしか見えないコだしいいか。
そう自分を納得させて、
「はいはい、あらためて宜しくな、アリス」
言って、アリスの髪をかき混ぜてやった。
「そっそれ、やめろよ……」
口ではそう言うものの、跳ね除けようとはしないアリス。
まくら相手だと大抵止められてしまうし、
そもそもまくらでは味わえない長髪の感覚という事もあって、計佑は調子に乗ってくるくると続けた。
やがて──
「計佑ーっ、エリスちゃーんっ!!」
まくらが駆けつけてきた。
「おお、流石運動部。あんま時間かかんなかったな」
計佑が立ち上がって。
まくらの声が聞こえるやいなや、また俯いてしまっていたアリスも、抱えて立ち上がらせてやる。
「ホレ」
ポン、と背中を押してやる。
アリスは一瞬、不安げに計佑の顔を見上げてきたが、まくらのほうに顔を戻すと一歩前に出た。
立ち尽くしたのは僅かの間で。
「その……ごめんなさいっ!! でした……」
「……え……っと……」
ガバっと頭を下げてきたアリスに、まくらは戸惑いの視線を計佑に向けてくる。
計佑はニッと笑ってみせて、
「おいおい、子供が頭さげてきてんだから、度量のあるオトナのやることは1つだろ?」
その言葉でまくらも事態を理解したのか、アリスの肩に手を掛けると頭を上げさせた。
「いいよ、エリスちゃん。もう許したからね。罰は計佑がさっき与えてくれたしね」
「……あ、ありがとう……あ、そうだ、オマエもアタシのことはアリスって呼んでくれていいぞ……」
ウインクしてみせるまくらに、アリスがもじもじしながらそんな事を言った。
「え? アリス? なんで?」
「黒井エリスってのは偽名だってよ。ホントは綿貫アリスっていうそうだ」
計佑が答えて、アリスの頭にポンと手を乗せた。それにまくらが、『えっ』という顔つきになった。
「ん? やっぱり偽名の理由とか気になるか? でもそれも秘密っていうんだよ、アリスのやつ」
言いながら、アリスの髪をくるくると弄ぶ。なのにアリスはじっと受け入れていて。
そんな二人の姿に、まくらがジトリとした目付きになった。
「……なんか……あっという間に仲良くなってない?」
「え? そうか?」
「…………」
きょとんと返す計佑に、無言で俯くアリス──その顔は赤い。
それにまくらが、ハァ〜と大きくため息をついた。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON