白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
計佑達にとっては驚きの連続で、そしてそれに流されるままに、今、白井家にお邪魔する事になっていた。
「すっすごいよ計佑……ドラマとかで出てくる家みたい……」
「バカ、狼狽えてんじゃねー……みっともねーだろっ」
答える計佑もそわそわと落ち着かないのだが、精一杯強がってみせて。
そして先を歩いている雪姫は、隣を歩いているアリスを叱っていた。
「もうっアリス!! 偽名なんか使ってまで、なんで天文部に入ったりしたの?」
「えー、それは〜……」
アリスがちらりとこちらを振り返って。雪姫に囁いた。
「……なっ!! なんでそんな余計なコトしようとするのっ!?」
顔を赤くして手を振り上げる雪姫に、「ひゃーごめんなさーい」とアリスが逃げ出して。
「けっ計佑くん!? なんかアリスから私のコト聞いたり……した?」
雪姫が赤い顔のまま、上目遣いで尋ねてきた。
「え、いえ別に……ついさっき、先輩がアリスの従姉妹って知ったばかりですから」
計佑が答えると、雪姫はホッと溜息をついた。
「そ、そう……よかった……ホントにごめんね、まくらちゃん。アリスが色々迷惑かけちゃったんでしょう……?」
「いえいえっそんな!! ちょっと誤解あったみたいだけど、
それも解けたみたいだし……もうアリスちゃんとも仲良くなれましたから」
謝ってくる雪姫に、まくらが慌てて手を振って。それから、計佑をちらりと確認する。
計佑は辺りをキョロキョロとしていて、その隙にまくらは雪姫にスッと近寄って耳打ちした。
「なんかアリスちゃん、私のコト計佑の恋人かなんかと思ってたみたいで……それで私のコト敵視してたらしくて」
「やっぱりそういうコトだったのね……本当にごめんなさい、まくらちゃん」
小声でやり取りする二人を尻目に、計佑はソファーに寝転がったアリスのもとに歩み寄って、
「なあ、先輩とオマエしかこのウチにいないのか? ご両親とか……」
「おじさんはいつも仕事で忙しいんだ。おばさんは、今日はパーティーっていってたぞ」
その答えに愕然とする。
──パ、パーティー……!? ウチのオフクロとか、全くそんなんに縁はねーぞ……!!
主婦が参加するパーティーといえば、子供の誕生会しかないと思っていた少年には衝撃だった。
そんな計佑に、アリスがニヤニヤと畳み掛けてくる。
「どーだスゴイだろ、お姉ちゃんは。こんなお城みたいな家に住んでる本物のお嬢様なんだぞ?
オマエなんか、全然お姉ちゃんにつり合わないんだからなっ」
「……わかってるよ、んなことは」
痛い所を付かれて、軽く俯いてしまう。
そんな計佑の様子に気付かないアリスは、ご機嫌で言葉を続けた。
「羨ましいか〜? お風呂もトイレもすごい広いんだぞ〜? あとあと、部屋もいっぱいあって、それからそれから〜……」
「わかったわかった。わかったけど、世話になってるオマエが自慢するもんでもないな」
それ以上聞きたくなくて、アリスの頭を乱暴に撫でた。
しかしアリスは珍しくその手を払いのけると、ガバっと起き上がってきた。
「うっうるさーいっ!! そうだっ思い出した!! オマエには文句も言ってやらなきゃいけなかったんだ!!」
「なんだよ文句って……」
とりあえず白井家自慢は終わったようなので、気を取り直して耳を傾ける。
「なんだっ、オマエのお姉ちゃんへのプレゼントはっ?
壊れたストラップってなんだよっ、いくら庶民だからってアレはあんまりだろっ!!」
「……は? プレゼント? 壊れたストラップ?」
雪姫にプレゼントを贈った覚えなどない。さっぱり心当たりがなかった。
疑問符で頭を埋めた計佑に、アリスはさらにキャンキャンと喚く。
「お姉ちゃんは、毎晩オマエの写真とそのストラップにおやすみを言って、
キスしてから寝るくらいオマエが好きなんだぞっ!? なのに『キャ〜〜〜〜〜!?』
途中で悲鳴が遮った。
「アリスっ!! いったい何話してるのっ!?」
悲鳴に驚いて計佑が振り返ると、キッチンの方から雪姫が走ってくるところだった。
まくらの姿もキッチンにあった。二人でお茶の用意でもしてくれていたのだろう。
けれどこの時の計佑は、もう頭に血が上っていてそういった事に気づく余裕もなかった。
「アリス!! あなたはまくらちゃんを連れて、お茶を部屋に運んでおきなさい!!」
「え〜〜〜? まだけーすけに言い足りないことが……」
「早く!!」
「……は〜い……」
赤い顔の雪姫にピシャリと言われて、アリスがしぶしぶ歩き出す。
「……まくらちゃん!! お客さんなのにごめんなさいっ。でも今は……お願い……」
「雪姫先輩、大丈夫ですよっ。わかってますから」
いつの間にかまくらもリビングまで来ていた。
俯いた雪姫に、まくらが笑いかけて。アリスと連れ立って、階段を登っていった。
「…………」
「…………」
残された少年少女はなかなか口を開けなかったが、やがて顔色も落ち着いてきた雪姫が沈黙を破った。
「……計佑くん。聞いちゃった……よね……?」
「……え、と……何を、ですかね?」
計佑としても恥ずかしかったし、雪姫の方も蒸し返されたくないだろうと考えて、とぼけてみせた。
そんな計佑の答えに、雪姫がまた、カッと赤くなった。
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赤い顔をした計佑の顔を見れば、アリスが話した事を理解しているのは分かりきった事で。
そして知られたからには、恥ずかしくても何らかの反応は欲しかったのに。
なのにとぼけてみせる少年に、雪姫は全身を熱くした。
──……!! またとぼけて……!! また、恥ずかしいコトを私から言わせる気なの!?
計佑なりの "何も聞かなかったことにしよう" という気遣いだったのだが、余裕のない雪姫は、島での一件──一向に理解してくれない少年のせいで、自分の気持ちを洗いざらい告白させられる羽目になった事──もあって、
またそのパターンなのかと、そんな風に誤解してしまった。
──……そう……いいわよ、計佑くんがその気なら……!!
あの時と同じ展開に持ち込んでやる。
死なばもろとも、こちらから攻めて攻めて、また計佑を悶死させてやる……!!
そんな決意をもって口を開いた。
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「……私がね、毎晩計佑くんの写真とストラップにキスして、おやすみを言ってから寝てるって話だよ」
「え゛!?」
まさか蒸し返してくるなどとは微塵も予想していなかった少年が、思いっきり怯んだ。
──ええ!? なっなんで先輩わざわざ繰り返すんだ? 忘れて欲しい話じゃないのかそういうのっ!?
雪姫が赤い顔ながらも、ひきつった笑みを浮かべる。
計佑にはその意図がさっぱり理解できない。そして、ずいっと雪姫が一歩詰めてきた。
「……私ね、計佑くんに『好き』って言ってからじゃないと寝付けないの……」
熱い瞳で見上げられて、計佑の心臓は一気に鼓動を強める。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON