白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
そして計佑の目の前に、宙に浮かぶ5、6歳くらいの女の子が現れたのだった。
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「え……誰……?」
ふよふよと浮かぶ幼女。
てっきりホタルが現れるかと思った計佑は、呆気にとられてしまった。
「ぷー、なにいってるのー? ホタルに決まってるじゃない。もう忘れちゃったのー?」
「いっ……いや、ホタルって……もっと大人の……あれ?」
目の前の幼女の顔に、見覚えがあった。10年前に数時間だけ遊んだことのある幼女。
先日ホタルに記憶を呼び起こされたお陰で、10年前に見た顔でもはっきり思い出すことが出来た。
「えっ!? 10年前のホタル!? なっなんで!?」
訳がわからず、大きな声をあげてしまう。
「あー、わたし10年前のホタルじゃないよー? また別世界の……とかいうわけじゃないからねー?
わたしはこないだケイスケと話した、ケイスケも知ってるホタルだよー」
「ええ? だっだってじゃあその姿は……」
「こっちの計佑には、まだ詳しく言ってなかったかなー? んっと、わたしのノロイはこういうものなんだー。
6さいから16さいを何度もくりかえしちゃうのー。
ホラ、10年前に初めて会った時のわたし、ジッサイちっちゃかったでしょー?
んで、こないだの時はおおきかった。
それで、また6さいジョータイになっちゃって、ちょっと困ったことになったからこうしてケイスケのところにきたんだー」
「な……なんだよ、その変な呪いは……」
相変わらずのファンタジーぶりに、空いた口が塞がらない。
けれど、呆け続ける訳にもいかなかった。気になるところを、早速ホタルに確認する。
「……困ったコトってなんだ? オレの所に来たってことは、なんかオレに出来ることがあるのか?」
優しい少年は、もうホタルの力になるつもりでいてそんな風に尋ねた。
「あーうん〜。もともと、身体の変化に引っ張られる形で、ココロも幼くなったりはしてたんだけどー。
今回はとくにそれがひどいんだー。キオクとかはちゃんと全部あるのに、
ココロはなんだか、6さいの頃にカンゼンにもどっちゃったかんじでー。
そしたら、一人でいるのがタえられなくなっちゃったのー。
平気になるまで、しばらく一緒にいていーい?」
そう言うと、ホタルはニコっと笑ってみせた。
「ああ……なんだ、それだけなのか……あっいや!! 悪い、そんな軽い問題じゃないよな。
お前にとってはすごく大変なコトだもんな」
軽く返事をしかけて、反省した。
6歳の精神状態で一人きりなんて、どれほどのつらさだろうか。
想像しか出来ないけど、それでも胸が締め付けられた。
「ああ、いくらでもいてくれていいぞ。
……そうだっ、お礼も言わないとな。夕方、アリスを捜すときに力を貸してくれたんだろ?」
「うん、まあねー。どーせなら思いっきりケイスケを驚かせたかったから、
しばらくはカンサツするつもりだったんだけど、ケイスケ本気で困ってるみたいだったからー」
「いやホント、助かったよ。ありがとなホタル」
クセで子供の頭を撫でる計佑に、「えへへー」とホタルが笑った。
そうして和やかな空気が流れたが、計佑は、そこでふと疑問が湧いた。
「……ちょっと待てよ? 夕方からそばにいて……
先輩の家でも声が聞こえた……お前、先輩の家でも一緒にいたんだよな?」
「うん、そーだよー」
「……もしかして……オレを突き飛ばして、身体を動かなくしたのはお前なのかっ!?」
「うん、あたりー」
ホルタがにぱっと笑って答えてみせたが、計佑の方は笑えなかった。
「なっなんだよそれ!? なんでそんなコトした!? お陰でとんでもないコトになったじゃねーかよ!!」
怒ってみせると、ホタルは唇を尖らせて。
「えーだってー。わたしあのうしちち女きらいなんだもーん。
ケイスケがバカなお陰で、大分凹んでたみたいだけどー。
あれでトドメさして、カンゼンにケイスケのこと嫌いにならないかなーっ、て思って」
無邪気な顔をして、とんでもない事を言い出してきた。
「き、嫌いにさせ……? お、おまえ何を……」
ブルブルと震える計佑を尻目に、ホタルがぶつぶつとつぶやく。
「なんだよあのムネはー。おかしいもん、あんな大きさ……
あれでケイスケのことたぶらかしたんだよね……シッパイだったなぁ。
キライにさせるどころか、なんかあの女いい気になってたもんな〜……」
「コラァァアア!? お前そんなタチ悪いイタズラしていいと思ってんのかっ!?」
憧れの先輩への暴挙を、狙ってやらせてきたと知って、当然ながら計佑は余裕をなくす。
「えー? そんな大したコトじゃないでしょー。今の私は、ケイスケかまくらしか触れないしー。
できるコトなんてタカがしれてるよー?」
6歳の精神年齢になってるらしい幼女は、不思議そうに問い返してきて。
「ケイスケが今回鼻血吹かなかったのも、すぐ目を覚ませたのも、わたしがやったんだよー」
褒めて褒めて、といった顔を浮かべてホタルがすりよってくる。
その無邪気な笑顔に、頭が痛くなってきた。放っておいたら、今度はどんなイタズラを仕掛けられるやら……
「……いいかホタル。約束だ。二度とオレの身体に……いやっ、まくらにもだ。イタズラなんかするな、いいな?」
「……えー……」
ホタルが渋るが、
「頼む、ホタル。もうしないでくれ」
まっすぐに頭を下げた。
短い時間しか話せなかったけけど、本来のホタルはとても誇り高い女性に見えた。
ホタルが元の状態に戻った時、
友人である自分たちに悪戯をいくつもしていたと理解したら、きっとホタルは苦しむのではないかと──
そう考えた少年は、ホタル自身の為にも、悪戯などもうさせたくはなかった。
「……んー……わかったよー、ケイスケがそんなに言うんならー」
「わかっくれたか!? うん、やっぱりホタルはいい子だ!!」
ガバっと顔を上げると、ホタルの頭をグリグリと撫でてやる。
「んふふー」
ホタルはくすぐったそうにして、じっと受け入れて。
──また暖かな雰囲気になったところで、ガチャっと部屋のドアが開けられた。
「計佑ー、明日の部活のことなんだけど──」
部屋の中を見たまくらが、言葉の途中で固まって──
「おっまくら、ちょうどよかった。実は「おばちゃーんっ!?
計佑がちっちゃい女の子連れ込ん「待てェエエエエエエ!?」
──そして、まくらと計佑の遮り漫才が展開されるのだった。
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「わぁー!? ホントにあの時のまんまのホタルちゃんだ!? カワイー♪」
「あははー、わたしから見たら、まくらだってオサナいままだよー。
わたしが向こうでサイゴに見たまくらは、もう30歳くらいだったからねー」
まくらの誤解はサクっと解けて。今、まくらとホタルはじゃれ合いを始めていた。
計佑も微笑ましい気持ちでそれを眺めていたが、ふと時計を見て、もう10時近いことに気付く。
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON