白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
けれどバタつきながら拒否する計佑に、雪姫もムッと唇を尖らせる。
「むっ、『絶対』ってなによ〜……別にアリス以上に構ってとは言ってないよ?
私は "アリスと違って特別" ってさっき言ってくれたばかりじゃない。
だったら、アリスばっかり可愛がるのはおかしいでしょって言ってるだけだよ?」
少年の答えは半ば予想していたのだろうけれど、"絶対" という副詞はどうやら許せなかったらしい雪姫。
頬をふくらませてそんな風に言ってきたが、流石にこれは頷けない。
「いやだからっ、さっき言ったのは『特別だからこそ先輩には普通に出来ない』ってコトだったでしょ!? 」
「え〜でも……昨日は、私の頭撫でてくれたりしたじゃない」
「あっあれは……! なんかちょっと感極まってついやっちゃっただけで……いつもああなんて絶対無理ですって!」
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赤くなって必死に手をバタつかせる少年の姿は可愛かったが、同時にもどかしくもあった。
「……なんかもー……三歩進んで二歩下がるを完全に体現してるような人だよねキミは……何で、こんな難儀なヒトを好きになったかなあ……」
雪姫はついに、頭を抱えてしまった。
自分のことだけを意識しているとは言ってもらえたが、この調子では付き合ってもらえる日が来るとしても、どれだけ先になる事やら……思わず、溜息も出てしまう。
そして計佑は、そんな雪姫に慌てた様子で、
「もっもしかして、オレのコトもうイヤになりました!?」
そんな事を訊いてくる。
「もうっ!! なるワケないでしょっ!?
キミは、私にとって世界にただひとりの、大好きな男の子なんだからねっ! いい加減、はっきり理解しなさいっ」
計佑の右手を握っている左手に、ギュッと力を込めた。
ありえない事を口にする少年に腹がたって、でも自分に嫌われるのを怖がってくれた事は嬉しくもあって。
相反する感情と、どこまでも鈍い少年の大変さに、改めて溜息をつきたくなった。
──ホントにもう……大変すぎるよ。……だけど。
もう自分は、この少年の事が好きになりすぎてしまった。
こんなに、好きで好きで堪らないのだ。今さら後戻りなんて、まるで出来る気がしなかった。
──……だったら! もうこのまま突き進んで、押し切るしかないじゃない!!
そう決めて。空いていた右手で、計佑の肩を掴んだ。
計佑の顔に「え?」と疑問符が浮かんだが、もうそんなものは無視して──素早く、計佑の頬にキスをした。
「……キライになんかなる訳ないけど、我慢は出来なくなるかもよ?
早く答えてくれないと、こういう事、もっとエスカレートしちゃうからね♪」
本当は自分も心臓がバクバクと限界だったけれど。
目をぐるぐるとさせている少年に、そんな風に嘯いてみせるのだった。
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「じゃあねっ。おやすみっ!」
自分の頬に突然キスなんてしてきたかと思うと、とんでもない事を口にして。
そんな少女はいきなり立ち上がると、すぐに走りだして公園から去っていく。
なのに計佑は、立ち上がる事も出来ずに呆然と見送るだけだった。
いくら家が近いといっても、本来であれば絶対一人で雪姫を帰したりはしなかったが、今はとても無理だった。
……もう、完全に頭が沸騰してしまっていて、まともな思考が出来なくなっている今は。
──……えすかれーとって……なに……?
初心すぎる少年には、今のでもう限界だった。
事故でなら、今以上の事も経験済みではあった。
けれど "事故" と "故意" では、同じ行為でもまるで意味合いは違う。
もしも昨日みたいな事をあえてやられたりしたら、
──雪姫の想像通り、この少年は昨日、雪姫の胸に抱え込まれてしまった一件も倒れた自分を心配しただけだと思い込んでいた──絶対にこちらの身がもたない。
昨日、島の時ほどの醜態を晒さずに済んだのは、ホタルのお陰でしかないのだ。
──……む、むり……て、てかげんして、せんぱい……
首まで赤くなって、思考すらカタコトになっている少年。
熱い感情が飽和して、ぼけーっと椅子の上で呆けてしまっていた。
……けれどその顔は、どこか幸せそうに緩んでもいて。
少年は、そんな熱くて甘い喜びに浸りきって、いつまでも蕩け続けるのだった。
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<21話のあとがき>
まくらの言う似たようなコトというのは、第一話の裸? ドッキリのことですね。
まあ雪姫先輩は、まくらの恋の遍歴など知る筈もない訳で、相手が計佑だなどとは夢にも思ってないんですけど。
ホタルの再度のイタズラは、学校で構ってもらえなくての不満もあったとかそういう感じ……かな……?
今回も、鈍感王の計佑くんをちょっとは進歩させられたかなぁと。
原作じゃ、雪姫の嫉妬に気づかないまま「しつこい」などというふざけたメールを送っていた計佑ですけど、
雪姫先輩派としてはあれは許せないシーンだったから、あそこの鈍さだけはなんとかしたかったんですよね……
そこが『一応』ちゃんと書けた気はするので、よかったかなと。
あと、『しつこい』メールも、ホタルのお陰で上手いこと改変出来たかなって。
こちらの世界では、計佑にあんなフザけた内容のメールを送らせる訳にはいきません。
しかし、アレの結果メソつく先輩も可愛かったワケで……あのシーン自体は使わせてもらいたかったんですよねー。
ホタルにもフラグを立てておいたおかげで、『しつこい』よりも酷いセリフに改変できたりしたんで、
まあこれはうまく回ったかなぁと、自分では満足してます。
雪姫、怒鳴られたら弱いっていうパターンは、一応、旅行時の電車内でも書いたことありますかね。
公園で、一芝居うって計佑から望む言葉を引き出そうとする雪姫。
こういうシチュ自体は大好物なんだけど、上手く書けなくてすごい悩みました……
雪姫がどんどんアホのコになって、子供っぽくなってきてしまうし……
いえ、甘えてくる女のコキャラ自体はスゴい好きなんですけど。
先輩を原作よりファンタジーにするつもりも大有りだったんだけど。
でも一応、原作雪姫が好きで始めた身としては、最低限守るべきラインもあるよなぁと悩んだり。
……まあ、結局自分の欲求を優先して、こんな雪姫先輩にしてしまいましたm(__)m
今回の後半は、4話の後半と似たような形だけど、お互いの気持ちは大分……という感じになってますでしょうか。
まあ雪姫は格段に深化してるんだけど、
計佑は雪姫に比べるとやはり遅いかな……一応じわじわと進んではいて、
雪姫をジト目で睨んだり、言い返したりも出来るトコまで来てるんですけど……。
でも、4話と同じ場所、似たシチュで書くことで、
二人の気持ちの成長みたいなモノを描いてみせる……
なんてコト自体は、なんとなく上手い人っぽい気がしてた、り……
……といっても狙って書いた訳ではなく、たまたまこうなっただけなのですけど(汗)
実際には、
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON