白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
勿論、計佑には読めない。部屋をうろつき、いくつか適当に本やノートを開いてみたが全て同じ。げんなりする。
──無駄足か……まくらのとこに行く前に鍵、病院の人に渡してこないとな……
そう考え、踵を返そうとした時に、ふと絵本が目についた。
──『ねむりひめ』──
──なんで絵本なんかが……?
ふと医者のセリフを思い出した。
──『今の彼女の症状を一言で申しますと、お伽話に出てくる眠り姫みたいなもんです』
なんとなく興味にかられて、手にとって開いてみる。
──ハラリと落ちそうになった物があって、慌てて捕まえる。
──随分古い写真だな……昭和六年、美月芳夏……ね──
おかっぱの、綺麗な少女だった。しばらくぼんやりと見つめていたが、
──……と、いけね……何ぼうっとしてんだオレ……
我に返ると、写真を裏返してみた。
「えっ!?」
そこに記してあった走り書きが、計佑を驚かせた。
『仮名 "眠り病" 患者』
──"眠り病" !!? もしかしてこの人が前にいたっていうまくらと同じ──
はっとした瞬間、
<i>「手を上げろ」</i>
背中に『硬質な何か』が押し付けられた。
──えっっ……
訳もわからず硬直した計佑の背中に、更にグリっと『何か』が押しこまれる。
何がなんだかわからないが、とりあえず言われた通り両手をあげた。
「声をあげるなよ。──まだ死にたくないならな」
押し殺された女性の声だった。
「知ってしまったみたいね……どうやら……この部屋の秘密を」
──なっ……な何だコレ……っっ……
アクション映画などでのお決まりのセリフが投げかけられた。
下手な冗談に決まってると思いたかったが
医者の勘違いをいい事に部屋に入り込んで、資料を漁っていたのは事実。
女性の声に、冷徹な響きと押し殺された怒りが含まれている気がして──計佑の身体は震えだしていた。
「私はアメリカ政府から派遣されたエージェント。秘密に近づいた人間は消さなければならない……」
物騒な内容──物騒『すぎる』内容に、冷静さをなくした計佑はさらに震えを大きくした。
「ひっ……」
どうにか声を引っ張りだす。
「人を消す……って手品……?」
「冗談とは余裕だな」
女性の声の怒りが強くなった気がした。
「っっ……」
口を開いたことを後悔して、限界まで身体を固くする。
「こんな少年まで仕込んでるとは連中も随分と……せめて楽に死なせてあげるよ、少年」
『硬い何か』がススっと動き、頭に突きつけられた。
──ま……マジ……? まくらの事を調べようとしてただけなのに……こんなっ……!? 嘘だ、嘘嘘嘘嘘……!!!!
<i>「さよなら坊や」</i>
<b>──イヤだあああああぁぁぁぁあ!!!!</b>
<i>『バキューーン♪』</i>
──耳に息を吹きかけられた。
<b>「うあああああああぁぁぁああ」</b>
少年が、腰砕けになって前につんのめった。
「ああぁぁああああああああ──……!!!」
引き続き悲鳴を上げながら前方に倒れこんで、机に積み上がっていた本の山に突っ込む。
ドサドサと崩れてきた本に、計佑の上半身が埋もれた。
──コントさながらの姿だ。
「ぷっ……ふふ……うふふふっ……!!」
押し殺された笑い声が聞こえて、涙目の計佑が振り返ると──そこには銃? を右手に持ち、
左手で口を抑えてこらえきれない笑いに身をよじる少女がいた。
「もーっ、お腹痛いっ!! 水鉄砲でこんなに面白いモノ見れるとは思わなかったよー」
目尻の涙を指で拭いながら少女──白井雪姫が言う。
「ごめんごめん。そんなに私の演技上手かった?」
──白井……先輩……!!?? 何で……ここに!?
──『スケベ』
前回の、からかわれた一幕を思い出す。
──こっ……このヒトなんか苦手だっ……!!
命の危機?で感じていたドキドキが、なんだか別の種類のドキドキに変わった気がしたが、
前回といい今回といい、いいようにからかわれた計佑の中で
「白井雪姫」という少女は、とりあえずそんなカテゴリーに入れられてしまった。
……ただし、強烈な存在感とともに、だったけれど。
そんな計佑の心中など知る由もなく、
「もうおじいちゃん、こんなに散らかして」
ようやく笑いが収まってきた雪姫がつぶやく。
「へっ……おじいちゃん?」
「そうよ、わたしのおじいちゃん。この部屋使ってるお医者さんだよ」
──マ、マジでかよ……
思いがけない繋がりに二の句が告げられない計佑だった。
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──まさかおじいちゃんに用があったなんてね……まあ、おじいちゃんの方は、また勘違いでもしてたみたいだけど。
自分にも気付かず駆け去ってしまった祖父。
そそっかしいのも慌ただしいのもいつものことだった。
──それにしても……やっぱりカワイイなぁ。このコ……
オドオドと、赤い顔をして自分を見つめてくる男の子。
そういう反応自体は珍しくもないのだけれど、
何故かこの男のコのそれは、他の男子のと違って微笑ましく感じるのだ。
──プール用に持ってきてた水鉄砲でこんなに面白いモノが見れることになるなんて……このイタズラは大成功だったみたいね。
コントのように、本の山に突っ込んでからの埋もれる姿は本当に愉快だったが、
その後に涙目で振り返ってきたあの顔には──ゾクリときた。
──私が、今こんな顔をさせてるんだ……この男の子に……
初めて会った時には飄々とした態度で接してきた彼が、
今は自分を強烈に意識しているのだと思うと、なぜか嬉しい。
自分の一挙手一投足が彼にそうさせているのだ、そう思うとゾクリとした満足感すらあった。
──ホントに……この男のコの、何がそんなに刺さるのかなぁ……
充実感と、ちょっぴりの困惑を胸に、雪姫はそばにあった机に寄りかかった。
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「たった今味わっただろうけど、ちょっと触っただけでも崩れるだろうから気をつけてね」
そう言いながら雪姫が寄りかかった机の本が、早速ぐらついた。
──それはこっちのセリフっ!!
注意する間もなく一気に崩れて、雪姫の傍をかすめる本の山。
「ひゃっ!!」
雪姫がビクリと身体をすくめて距離をとろうとするが、その先でまた別の本の山に身体をぶつけていた。
今度は彼女の真後ろから崩れてきそうな──
「危ないっ!!!」
今度は注意の声と、同時に身体も動いた。
雪姫に向かってダッシュしようとした瞬間──
足元に散らばった本。ダッシュには向かないスリッパ。
それらの連携攻撃で計佑は、またつんのめってしまった。
──おわあああぁぁ!!
ギリギリバランスをとって、
半ばかがんでいた雪姫に覆いかぶさるように倒れこむ事には成功した。
バサバサと本が崩れ落ちてくるが、どうにか全て、自分の身体で受け止めることは出来たようだ。
分厚い物もあったりで、なかなか痛かったのだが。
「っつつ……大丈夫ですかせんぱ──」
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON