白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
「ええ!? あんなんくらいで、嫌いになんかならないよ……」
大袈裟な硝子の言葉に、軽く呆れてしまう。
けれど、計佑の言葉に硝子は微笑むと、
「あんなのくらい、ね……そう言えちゃう目覚くんは、やっぱりすごいね……」
そう言って、なんだかうっとりとした表情で見つめてきて。
「……は、はぁ……?」
部活の時との極端な態度の違いに、戸惑ってしまう。
「……まあ、それでもノーダメージとはやっぱりいかなかったよね……目覚くん、さっき私の顔みて明らかに怯えてたものね……」
苦笑を浮かべる硝子に、
「うん、まあ正直今日の須々野さんはめちゃ怖かった」
バカ正直に告げる計佑。硝子の首がカクンと倒れた。
「……ごめんなさい……」
またも萎れた硝子に、計佑はフォローよりも先に、
──……あ、やっぱりそうだ……この感じは……
「……なんか白井先輩みたいだ……」
さっきチラリと感じたデジャヴの正体に気付いて、そう口にした。
「ええっ!!??」
計佑の呟きに、しかし硝子は随分と過敏な反応を示して。
「うっ……嘘!? どっ……どこが!!?」
ぐっと計佑に詰め寄ってきた。
その硝子の表情には、驚き、苦々しさ、喜び、色々な感情がミックスされていたのだけど。
それらを読み取れる筈もない少年、いきなりの至近距離に驚いたまま、
「えっ!? 打たれ弱──じゃなくてっ、傷つきやすいところ?」
馬鹿正直に口にしかけて、慌てて言い直した。──つもりだったが、またも硝子はガクンと頭を垂らして。
「……そこまで言ってから言い直しても、手遅れだからね目覚くん……」
尤もなツッコミを入れてきた。
「ご、ごめん……」
謝る計佑に、
「……やっぱり、私が先輩に似てるとこなんて、そういう所ばっかりなんだよね……」
計佑から距離をとりながら、硝子が寂しそうに呟いた。
「え? ごめん、よく聞こえなかったんだけど」
計佑が聞き直したが、顔を上げた硝子は苦笑を浮かべた。
「なんでもない。それより、今日は図書室に何の用なの?」
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「あっ!! あったよ目覚くん……やっぱりこの辺だった」
「わっ、ホントだ……すごいな須々野さん!! ホントありがとう、手間かけさせちゃって」
──今、計佑と硝子の二人は天文の入門書の類を探していた。
計佑の今日の目的──それは自分と茂武市以外の天文部4人の為の本探しだった。
それを硝子に伝えると、案内を申し出てくれて。迷うことなく、一発で計佑を導いてくれたのだった。
「別に手間でもなんでもないよ。私だって部員なんだし。
それにいつも図書室で勉強とかしてたから、なんとなく本の場所とか覚えちゃっただけの話だよ」
照れくさそうに笑う硝子は、脚立を置くとそのまま上り、本棚の最上段にある本へと手を伸ばした。
──……あ……このシチュエーションって……
今日の誤解の元になった、雪姫の脇を抱えてしまった時の事。それを思い出した。
──そういや、須々野さん達の誤解だけは解いておきたいって思ってたんだよな……
図書室で顔を合わせた途端の、予想外の硝子の言動などですっかり忘れていた。
そこでイタズラ心も芽生えた。……あの時同様、無言で両手を伸ばして──
「とりあえず4冊くらいでいいかな? 4人それぞれで一冊ずつってことで──」
4冊の本を手にした硝子が振り返ってきたところで、
「掴まえるよ」一声かけて、ほぼ同時に硝子の腰をガッと掴んだ。
「ふぇっ!?」
硝子が軽く悲鳴を上げたが、無視して軽く持ち上げて──ストンと床に下ろした。
「……ぇっ……な、なに……」
振り返ってきた硝子が、目を白黒させていた。
「今日の部活の、誤解の元。先輩に何したんだっていう話だよ。
なんか変な誤解されたけど、今のと同じ事をやっちゃっただけだから。
誤解されたまんまはイヤだったんだよね」
硝子の反応に満足して、ニヤつきながらそう口にした。
──今日の硝子達からの『罰』は、やっぱり正直厳しすぎだったと思う。
さっき硝子に言った通り、怒りというほどの強い感情は残っていないが、
それでもちょっとした仕返しも兼ねて、計佑はあの時と同じ事をやらかしてみせたのだった。
……まあ、あの時の教訓を忘れた訳ではないし、
ほぼ同時とはいえ、一応一声かけるというアレンジは加えさせてもらったのだが。
そんな考えでニヤついていた少年を前に、
硝子はじわじわと顔を赤くしていったのだが──突然、クルっと後ろを向いて。
「……白井先輩の時と、同じ事、ね……」
つぶやくように、そう言ってきた。
その声は少し弾んでいるようで、それに計佑も『完全に誤解は解けたかな』と気を良くして答える。
「そうそう、これだけのことだよ」
硝子に見える訳はないのだが、大袈裟に頷いてもみせた。
「……ウソでしょう」
……なのに、次の硝子の声は低くなっていた。ビクリと震える計佑の身体。
その声は──硝子が、計佑を追い詰める時の声色だったから。
「……先輩の時には……どうせ、声なんてかけずにやったんでしょう」
「ぅえっ!?」
ズバリ本当の事を見抜かれた。
「……そして、そのせいで何かしらのトラブルがあった。……それも、なんかHな事」
「なん──!?……!!」
──カマかけてきてるんだ!! だって、そんなっ、わかるワケないんだ──!!
そう考えて、なんとか途中で言葉を呑み込んだ計佑だったが、
「……カマをかけられてる……とか考えてる?」
さらに、計佑の心を読んだかのような硝子の声が襲いかかって。
──なっ、なっ……何なんだ一体……!! なんでそこまで読めるんだよ……っ!!
戦慄する計佑に、硝子がゆっくり振り返ってきて。
「……ふふ。いかにも目覚くんのやりそうな事だよね。
こんなサプライズ仕掛けられなくても、そんな事だろうとは最初からわかってたんだよ?」
眼鏡の奥の瞳を細めて、硝子がうっすらと微笑んだ。
その頬にはまだ赤みが残っていたし、
硝子としては嬉しさに微笑んでいたのだけれど、もはや計佑には悪魔の笑みにしか見えなかった。
思考まで凍りついてしまいそうな少年だったが、しかしこの時はギリギリで反撃の糸口を見逃さなかった。
「……え? ちょっと待って……最初っからわかってたって……ええ!?
じゃっ、じゃあさっき、なんでオレはあんな目に遭わされたんだよ!?」
誤解ゆえの暴行だと思ったから、まだ納得出来たのに。
わかっていた癖にあそこまでしてきたというのなら、それは流石に温厚な少年だって許せるものではない。
その計佑の言葉に、硝子がしまったという顔になって。
「あっ、そのっそれは……!! チャンス──じゃなくて!!
……Hな事があったのは確かなんでしょう!? それ自体が、もう許せなかったの!!」
けれど、最後にはしっかり取り繕って、きっちり計佑を責めて来る。
「いっ、いや確かにちょっと変なコトはあったけどさ……
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON