白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル
……それにいつか、計佑自身を苦しめることだってあると思う。ホント、ほどほどにしときなよね」
そう言って、まくらがベッドにまた腰をおろして。
ようやく完全に落ち着いてくれたかと、少年がホッと安心したけれど──
「それじゃあ、改めて昼間の話の続き、いこっか」
──安心するのはまだ早かった。
「うええ!? やっやっぱりやるのか!? ホタルの話で終わりだったんじゃ……?」
また恐怖裁判が始まるのかと、狼狽える計佑にまくらが苦笑した。
「そんなに警戒しなくても、もう昼間みたいには怒んないからさ。
……一応、先輩にも話聞いてみたけど、まあ思ってたよりはよっぽど上手くフォローしてたみたいだしね、計佑」
そのまくらの言葉に、計佑の気が緩んだ。それで、部室で抱いていた不満をつい口にしてしまった。
「そっそうか!? そっか、なんだよ。やっぱオレ、そこまで悪くなかったんじゃ──」
『ピシャァアアン!!』──言い終わらない内に、強烈なビンタが飛んできた。
「調子にのんな。フォローは一応認めてやるけど、オマエが先輩を弄んだこと自体は許してないんだよ」
またも般若に変化した幼なじみを、張り飛ばされた頬を押さえながら、
──や、やっぱり鉄拳裁判じゃないかよ……!!
震えながら見上げてしまう、哀れな子羊少年だった。
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やがて、般若からいつもの顔に戻ったまくらだったが、途端、溜息をついた。
「……まあ、計佑を改めて責める前に、一応先輩にも話を聞いておかなきゃ、
と思ってさっきまで電話してたんだけど……正直、かなり後悔したよ……」
その電話の内容を思い返しているのか、まくらがげんなりとしてみせた。
「……後悔? ……なんで?」
昨夜の、自分と雪姫との会話。それに、他人をイヤな気分にさせる要素なんてない筈──
「めっちゃ、惚気られた」
「ぶっ!? のっ惚!?」
──だと思っていたのに、思ってもみない言葉がまくらから飛び出した。
──ええ!? きっ昨日の話だろ!? いっ一体、何を話したんですか先輩っ!!!
昨日の自分がしたことなんて、怒らせて、必死に言い訳して、
叱られて、ちょっとだけ言い返して、……最後には蕩けてしまっただけ。
──それだけしか出来ていないと思い込んでいる天然たらしを、まくらがジトリと見下ろした。
「ていうかさ……計佑、あんた、要所だけはきっちりフォローしてんのね……
ヘタレ鈍感王のクセに、女のコを喜ばせるツボだけはきっちり突くとかさ……どんなちぐはぐさなのよ?」
「……は、はぁ……?」
そう言われても、この天然少年には、何のことかわかる訳もなく。
ただ首をかしげてみせる計佑に、まくらが、どこか恐ろしいモノを見るような目つきになった。
「……本当に、何もわかってないのね……なんてヤツなの。あんた、実はとんでもないタラシだったのね……」
「なっ……!? ……っ!!」
まくらまで言われてしまった、"女たらし"。
思わずどういう事なのか尋ねたくなったが、硝子のアドバイスを思い出して慌てて口を噤んだ。
そして、慌てて話題を変えようと試みる。
「いやっ、もうそんな事はいいよ!! それより、やるっていうんなら早いとこ本題の、昼間の続きを話そうぜ!!」
昼間の続きも気が重いが、自分が『本物のたらし』になりかねない話題のほうがもっとまずい──そう考えて。
……硝子に騙されているなどとは微塵も思わない、素直な少年だった。
「うーん、でも……ぷっ!! そうそう、もう一個話しておきたい事あったんだった」
途中で吹き出したまくらが、今度は軽く笑いながら言ってきて。
「計佑が昼間言ってた『別口』だけどさ……雪姫先輩、アリスちゃんのモノマネして見せたんだって?」
「えっ!? 先輩、そんな事まで話したのかっ?」
一体どこまで話したのやら──驚く計佑を他所に、まくらが身体を折って、くっくっと笑う。
「ぷぷっ……一昨日の晩にも思ったんだけど。やっぱり先輩、カワイイとこあるよねぇ……
ヤキモチ妬いたからって、アリスちゃんのコスプレしてモノマネかぁ……あはははは!! 私も見てみたかったかも〜〜!!」
まくらがついにベッドに倒れこんで、ゲラゲラと笑い出した。けれどそれに、計佑はムッとしてしまう。
「……おいまくら!! そんなに笑うのは失礼だろっ!!」
言い終わった途端、まくらにアゴを蹴りあげられた。
「ぶぐっ……!! ちょっ、おいぃ!? お前、今日やりすぎじゃないかっ」
蹴りとは言え軽いもので、今日のまくらからの暴力としては一番痛みは軽かったが、
それでも顔面への蹴りなんて、いくらなんでもあんまりだ。
流石にこれは許せないと、床から腰を上げて反撃に出ようとした。
──しかし、起き上がってきたまくらが冷たい目で一言、
「自分は散々爆笑しといて、よくそんなセリフが吐けるよね」
そう言い捨てて、少年の反抗の意思を見事にへし折ってきた。
「ぐっ……!! そっ、それは……!!」
確かにあの時の自分は、今のまくらよりもっと笑い転げていた気がする。
けれど、あの時はあれが焼きもちだとは解っていなかっただけなのだ。
分かっていれば、絶対に笑い飛ばしたりなんてしなかった。
それに、雪姫が自分の為にしてくれた事を、他人が笑うという事に何だか無性に腹が立ったのだった。
それでも、この件に関しては、自分に理がない事は理解した計佑が、
半ば腰を浮かせたまま悔しそうな顔をして黙りこむと、まくらが苦笑してみせた。
「はいはい、悪かったよ。
でもね、部外者の私が笑うのと、当事者のあんたが笑ったのとでは、罪の重さが全然違うんだからね?」
「……それは。まあ、一応わかるけどさ……でも、本当にあの時は分からなかったんだよ……」
凹んで、また床へと座り直す計佑に、
「そうよね〜……まあこの件に関しては、一応同情してあげるよ。
鈍感王の計佑には、いきなりのコスプレ姿はハードル高すぎだもんね」
軽くまくらがフォローしてくれた。……けれど、今度は計佑も軽口を叩かなかった。
今日のまくらの勢いだと、ここで下手な事を口にすれば、また鉄拳が飛んでくるだろうから。
すると案の定、黙り込んでいる計佑に、まくらがちょっと残念そうな表情を浮かべて。
──やべぇ……やっぱり狙ってやがったのか……
胸をなでおろした計佑だったが、
「……さて。それじゃあ、今度こそ『もう1つの理由』を聞かせてもらおうかな?」
そんなセリフと共に、
『また変なコト言い出したら、すぐにでも鉄拳飛ばしてやる』
と言わんばかりの、サディスティックな笑みを妹分が浮かべてきて。
……安心するのはまだまだ早かったのだと、少年は身震いするのだった。
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「と言われても……昼間はどこまで話したんだっけ……?」
今日も、なんだか色々と慌ただしい一日だった。
もう昼間の事も遠い出来事のようで、イマイチ細かいことを思い出せない計佑に、
作品名:白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル 作家名:GOHON