こらぼでほすと 二人11
出勤時間まで、僅かになってきたので、スピードアップするように指示をする。火曜だから予約は少ないだろうが、それでも時間通りに出勤はさせる。シンとレイへのおやつやらアスランとキラのリクエストを用意して保冷バックに積めたら時間だ。
明日は早く来るからねーとキラが叫んで出かけていった。やっぱり、食べ盛りたちは肉ものを好むらしい。そういうことなら、シンとレイの分も用意しておこうかな、と、材料の用意をする。思っていたより材料が必要だ。
「ハイネ、ちょっとスーパーまで行って来るよ。肉が足りない。」
「クルマで行くか? 」
「いや、そこまでの荷物じゃないんだが・・・」
「まあ、いいじゃねぇーか。クルマで、さくっと行ってさくっと帰ればいい。どうせ、実弟が起きるまでメシにはしないんだろ? 」
「ロックオンに、すき焼き食わせたいんでな。」
「すき焼きか・・・いいね。じゃあ、俺風の具材も付け足してくれ。俺、すき焼き麩とくじら麩を食べたい。あと、ささがきごぼうだな。水菜を入れても美味いんだぜ? ママニャン。」
「水菜? へぇー、それは初耳だな。」
「煮ても、しゃきしゃき感が残ってて、俺は好きなんだよ。菊菜は、くったりするだろ? なんか物足りなくてさ。割り下じゃなくて、関西風にしようぜ? 俺が鍋奉行する。」
「まあ、それは、どっちでもいいんだけど・・・疲れてないのか? 俺だけで行けるぜ? 」
関西風も関東風も、最終的には煮てしまえば、あまり変わらない。どうせ、みんなが食べるのはくたくたに煮た後だから、ニールは、どちらでもいい。ただ、ハイネは仕事から戻ってきたので、ゆっくりしていればいいのに、と、思った。
「たまには、いちゃいちゃラブラブデートをしようじゃないか。間男とふたりで買い物っていうのも、淫靡でよくないか? 」
「はあ? どこが? 」
「俺が荷物もちをしてだな、おまえが投げ入れるわけだよ。俺が指し示すものを入れてくれるとか、なかなかいちゃこらしてると思う。」
「意味がわからん。・・・てか、今、ビール飲んだよな? 」
「一本ぐらいでアルコールは検出されません。なんなら、自動操縦という手もあるので無問題。ほれ、行くぞ、マイスウィートハート。」
ハイネのクルマはエアカーと同様にナビ通りに自動操縦で現地まで行けるシステムがついている。だから、アルコールは問題ではないのだ。
「まあ、いいか。よろしく頼むぜ、ダーリン。」
ハイネの希望するものをピックアップするなら、ハイネ当人も連れて行くほうが手っ取り早いから、ニールも腰を上げる。ロックオンは、まだ寝ているので、そのまま放置しておいた。
近所のスーパーには、すき焼き麩はあったが、くじら麩はなかった。さすがに、特殊なものは小型のスーパーではないらしい。それ以外はあったので、適当に買い物して戻ったら、実弟がいなかった。
「あれ? 」
「おや? 実弟がいねぇーな? 」
風呂に入ったのかと覗きに行ったが、こちらにもいない。どこに行ったんだろう、と、携帯端末で連絡した。
「ロックオン? 今、どこだ? 」
「あんたこそ、どこだよ? あれほど、夜間の散歩は一人で行くなって言っただろっっ。」
「え? 」
「今、コンビニから公園向いて走ってる。どこだ? 」
「あー家? 」
「はあ? 」
「ハイネと買い物にスーパーまで出ただけだ。もう戻った。」
「てっめぇー、勝手に出歩くなっっ。心配するだろーがっっ。」
「ごめんごめん。ゆっくり戻って来い。今から食事の準備するからさ。」
目が覚めて誰もいなかったから、慌てて探しに出たらしい。そんなに心配しなくてもいいだろうに、と、ニールは苦笑する。ついでに、耳を携帯に近づけて聞いていたハイネも爆笑している。
「どんだけ過保護だ? おまえの実弟。」
「飲みに行った時に、酔っ払いに絡まれたからじゃないか。」
「ああ、トダカさん経由で聞いた。世の中には物好きが多いな? こんなデカイ男に欲情するとはな。」
「なあ? 俺も、それには賛成だ。」
「で、あのバカは走ってるのか? 今日は、キラとアスランに凹にされて疲れてるのに愛があるじゃねぇーか。」
ハイネも管制室で別の仕事をしていたから、ロックオンがボコボコにされたのは鑑賞していた。刹那なら、対等に戦えるだろうが、ロックオンでは機体の問題もあって無理がある。まあ、そこそこ防御はできていたから、後方支援としてなら問題のない腕だと判断している。
「まだ体力がないから心配するみたいだ。嬉しいよ、俺は。ロックオンが、俺のことを気にしてくれてるのがさ。」
がさがさと荷物を取り出して用意しているニールは、嬉しそうに笑っている。ハイネも食卓の椅子に座り、「当たり前だ。」 と、ツッコミをひとつだ。
関西風のすきやきは、まず脂を敷いて肉を焼く。適度に焼けたら、その上に砂糖と醤油と酒を振り撒き、野菜を投げ入れる。これで割り下なしでも野菜からの水と酒で、おいしい出汁が出来上がる。ここに、肉を入れて軽く色が変わったら食べごろだ。
「こっちのほうが焼いてるって感じだろ? 」
じゅーじゅーとハイネが鍋奉行をやっている。寺では、基本、関東風なので、こういうやり方はしない。さらに中部あたりの高級牛の産地になると、まず、肉を砂糖と醤油で焼くようにして卵をつけて食べた後に野菜という方法もあるのだが、そこまでハイネも面倒なので簡単なほうにした。
「ほれ、ロックオン、肉から食え。」
焼きあがった肉を取り分けてやると、へぇーとロックオンもタマゴにつけてハフハフと食べる。
「おっ、いける。ビールと相性が良さそうだ。」
「おう、これならビールだ。野菜が煮えたら酒のほうがいいけどな。ママニャン、はい。」
「俺は、肉はいいや。」
「バカ、肉をまず食わないと、すき焼きじゃねぇーだろっっ。せっかく、いい肉を用意したんだから食え。」
無理矢理に、ニールの器にも肉を入れる。そして、自分の器にも入れて、まずは第一弾だ。その間に、緑の野菜は煮えるので、次は、そこいらを攻める。
「こっちの肉って、かなり脂が多いんだな。とろける。」
「まあなあ、こっちは赤身より脂をいかに美味くするか研究されてるんだよ。俺は、赤身のステーキも好きだ。あれのほうが、肉を食うっていう雰囲気なんだけど、すき焼きとか特区の鍋には、こっちの霜降りのほうが合うんだ。・・・ロックオン、後は煮えてるところを好きにやってくれ。」
「おう、サンキュー、ハイネ。・・・・ところで、兄さん。三人で、その肉と野菜は無謀じゃないか? 」
卓袱台には、これから食べるであろう野菜と肉が準備されているのだが、とんでもない量が鎮座している。どう考えても多いだろう、という感じだ。
「全部、食べない。これ、三蔵さんと悟空の夜食にするから用意しておくってだけ。明日も、キラが来るって宣言してたし、たぶん、シンたちも顔を出すだろうからさ。ついでに野菜だけは煮ておくんだ。」
「・・・・あいつら・・・美味いモンだけは敏感だな。」
ハイネも大笑いしている。さすがに、こういう高級品は寺では、あまり出てこないメニューだから、察知すると現れるのが年少組だ。
作品名:こらぼでほすと 二人11 作家名:篠義