空想の戦場
ロイとヒューズ
中心街への総攻撃を控え、ロイ達は哨戒に当たっていた。隊全体が、程よい緊張を保っている。
ロイは一人高台に上がっているヒューズの所へ行った。アームストロング更迭を伝えるためだ、上で彼は、胸壁の積み上げに寄りかかり空を見上げていた。
「なぁすごいだろ。お前、こんな空見たことあるか?」
「ないな。あぁ、本当にきれいだ」
あれからヒューズは、前ほどうなされることはなくなったらしい、と彼直属の部下がロイに礼を言ってきた。ロイはただ話を聞いてやっただけだ、と言ったが、そういうこともあるらしい。
それでも食は相変わらず細く、再会した時より更に痩せたように見える。双眼鏡を受け取り、隣に膝をついて街を見た。武装した住民兵の歩哨が見える。今朝から全く動く気配はない。
体を返して積み上げに背を持たせかけ、ボンヤリとしているヒューズの顔に手を伸ばした。
「グリース、どうした?」
「あぁ、忘れてた」
「ばか、後でひどいぞ」
「そういやお前、昔よく塗り忘れてたっけな」
「そーいうことは思い出さんでいい」
ロイは自分の持ち物からグリースの缶を取り出すと、手袋を外し指に取ってヒューズの頬に塗りつけた。
「くすぐってェ」
「こら、動くなほら…嫌なら自分で塗れ」
「ヤだよ、ゼータクしてる気分なんだから」
「…アームストロング少佐が軍令違反で更迭された」
ヒューズの眼から笑みが消えた。
塗り終えて、ロイは指に砂を絡めてグリースを拭き取ると手袋を嵌め直した。
「逃げたのか?」
「子供を…これ以上人を殺すことを拒んだそうだ」
勇気があるな、と呟くのに、ロイも頷いた。
「拒まない俺達って、なんだろうな」
争いを止めるためにきたのに、いつの間にか争いの種を蒔き、育てている。
「さぁ?少なくとも、英雄じゃない」
止めたいなら戦わなければいい。しかし育てたからには、必ず刈り取らねばならないのだ。身を引き換えにしても。
そこへ通信科の兵がやってきて、出撃命令が出たことを伝えていった。
「行こう。全部燃やしてやる。お前が気に病まないよう、跡形もなくしてやる」
「だからって全部背負おうとするなよ、半分俺によこせ」
「……それ以上負えるのか?」
「俺の背中は広いんだぞ」
「欲張り」
「お前もな」