空想の戦場
セントラル/アームストロング
アレックス・ルイ・アームストロング少佐は、修練場で所属科の部下達に格闘術の稽古をつけている最中だった。
呼びにきた下士官は、場内の異様な熱気に驚き、ごろごろと床にくたばる兵達の姿に驚き、その中心に立ち半裸の隆々とした肉体から湯気を立ち上らせているアームストロングの姿に驚いた。
背後の物音に気付き、アームストロングは汗を拭きながらこちらへ手招きする。
「貴公も一緒にどうかな、皆で一緒にやった方が楽しいし、いざ乱戦になった時の訓練にもなる」
温和な顔で言うのだが、床に転がる死累を見てしまった後ではそうは思えない。何より、彼の稽古は厳しいことで有名である。
「将軍がお呼びです。司令官室まで来るようにとのことです」
「それは急がねばならんが…このまま…」
汗の拭い終わった大胸筋を叩いてみせると、下士官は困ったように上目で首を振った。
「少佐、周りが構いますので」
「ふむ」
何故か残念そうにもう一度胸を叩くと、まだ床にへばり付いている部下に向かい、三十本の組み手を命じると、軍服の上着を手にシャワールームへ向かった。いつものように、市内視察のお供だろうか。それとも軍事工場。砲兵科の指導。それとも何か書類や何かに不備があったのか。
さっぱりとして司令官室へ入り、巨大な机を挟んで将軍の前に立つ青年将校の姿を見た時、呼び出された内容の殆どを理解した。
「部下に稽古をつけておりまして、遅くなりました」
将軍は机に肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて頷いた。アームストロングは、先に来ていたロイの隣に立ち、将軍の背後の壁に軍旗と共に掲げられた大陸地図を見つめた。戦地の東部の境は赤い点線で示され、イシュヴァールの中心地には赤い×印が付けられている。
遂にきたのだ。この日が。
アームストロングは、柄もいわれぬ思いに身を打ち振るわせた。