空想の戦場
セントラル→戦場
錬金術師団の大隊は、バスク・グラン大佐を隊長として前線へと投入されることになった。
国家錬金術師といえど、一部を除いては研究者でしかなく、不安を抱えたまま演習が行われることになった。
演習は広い砂漠や廃墟で行われたのではなく、テロの横行があると報告の上がった、数区の住民のいる占領地が選ばれた。
建物を瓦礫に変え、爆撃で片っ端から吹き飛ばし、人といわず物といわず、燃やした。赤子を抱えて逃げ惑う母親、崩れた建物の下敷きになった妻にすがる老爺、親の目の前で殺される子供、一般兵は、酔ったように拳を、銃を、ナイフをイシュヴァール人に向ける。悲鳴、当てのない怒り。どの街でも同じ光景を目のあたりにした。
そして戦いの後は、どの街からもテロリストがいたような形跡も、隠されているといわれた武器も見つからなかった。実地演習、という名の掃討戦だった。
軍令である。報告もあった。書面も見た。しかし実情は、軍による民間人の虐殺に過ぎない。アームストロングは、焼け野となった街を歩きながらそう思った。
テロの存在を信じ、それに加担する住民もまた同類だと考えていたアームストロングは、一つ、二つと街を破壊していくにつれ、少しずつ揺らいでいった。そしてその度に、両手に嵌めた錬成陣を入れた手甲に接吻し、祈った。
街の焼け跡には、錬金術で潰れたものや人の他に、人の手が直接下された死体がいくつもあった。ロイは瓦礫を避けて、殲滅後の街を見て歩いた。
『お前はずっとこんなことを繰り返しているのか?』
頭を撃抜かれたもの、柱の下敷きになって半分だけ焼けたもの、人だったかも分からないもの。そんなものを見ても、最早何も感じない自分がいたが、そのことにすら鈍くなっている。
『分かったよ ヒューズ』
もう数年会っていない、顔も思い出せないでいる友を思った。