空想の戦場
再会
高台での哨戒を終えて戻ってみると、キャンプ全体がやけに賑わいでいる。通りかかりの兵に尋ねると、例の大隊が到着し、今はそれらの荷解きや何かで大変なのだという。
威嚇用のライフルを肩から提げたまま更に歩いていると、確かに見慣れない顔が増えていて、皆忙しそうにしている。
その連中とは別に、本部テントから揃いの防護コートを着た一団が出てきた。一際大きな体の、いかにも軍人らしい男に目がいったくらいで、あとは自分達と変わらないんだなぁと、てんてこ舞いになっている運搬トラックの手伝いに行った。
初めの軍議を終えて出ると、ロイは戦況等の書類を集めてくるよう部下に命じ、着いたばかりのキャンプ内を歩き回った。
半周ほどして乗ってきたトラックの辺りまで来ると、騒がしさは大分落ち着いて、空き地だった所には新しいテントが張られていたり、荷物が積まれていたりして兵も忙しなく動いている。
その中にあって、差配している男に見覚えがあった。あるが、それだけだ。見ていれば思い出すかと眺めていると、向こうも気付いたらしく、少し間をおいて男は頭の上で大きく腕を振りながらロイの方へ走ってきた。
「久しぶりだなぁロイ!」
…あ。
「卒業して以来だから四年…五年振りか?」
思い出した。
「元気だったか?アレ、お前さんちょっと目つき悪くなったんじゃないのォ」
捲くし立てるような話し方は変わっていない。馴れ馴れしく肩を抱くクセも。また背が伸びたのか。二十歳も越えたのになんてヤツだ。ヒゲも伸びてるな。そして顔色は…最悪だ。
波が寄せるように考えを巡らせながら、ロイはヒューズの肩章を目の端で確認し、肩に置かれた手を押し退けた。
「マース・ヒューズ大尉。辞令はすぐ行くと思うが、君は本日付で私の補佐についてもらうことになった。だから同期ではあるが、少々改めてもらわないと困る」
冷たく感じる程落ち着いた物言いに、それまで子供のようだったヒューズの顔が素に返った。
「…そうか。お前さん、あのトラックで来たんだもんな。イェッサ。以後気をつけましょう」
軽く敬礼して、寂しげに笑った。
国家資格を取る。学生の頃、ずっと言ってたもんな。よかったな。おめでとう。でもそのせいで、こんな所まで来ちまって。もしかしたら、来なくて済んだかもしれないのに。お前には 来ないで欲しかったなぁ。
「ヒューズ?」
「なんでしょう、マスタング少佐」
ヒューズの声でそう呼ばれるのはなんだか胡散臭かった。耳慣れず、ロイは不快そうに眉根を寄せた。お前が改めろって言ったんじゃないか。とヒューズも言い慣れず気持ちが悪そうに顎先を摘まみながら小声でそう言った。
「今までの戦況と、他にも聞きたいことがある。後で私のところへ来てくれ」
「了解…っと、少佐」
あれあれ、とヒューズが指差す先には、アームストロングがこちらの様子を伺うようにうろうろしていた。
「到着初日から大変だな」
「モテすぎるのも困りものだ。では、二時間後に」
「了解」