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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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天使への遺言

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 遊星盤から見る新宇宙の大陸は、一見、何事もないようだった。
 椅子のない遊星盤では、私が背もたれ代わりに熱でふらつくおまえの肩を持って支えていたが、しばらくしてそれが、大きく揺らいだ。
 「……違う!」
 「え?」
 「どうしよう……全然違う」
 「何が、ち」
 「力が違う。どうしちゃったんだろ……私……いえ、でも、研究院の数値どおり……」
 おまえの散らす言葉の切端を、私はまとめた。
 「示されていた数値と、今、現地に来ておまえが感じる力に……差異が生じているのであろう?」
 おまえは振り返り、とても熱に冒されているとは思えぬ力強さで私を見つめ、頷いた。
 あの目だ。
 私が「おまえという存在と、与えられた使命にも意味があるのではないか」と言ったときのあのまなざし。
 気合いの入った証拠だ。私は、そっとおまえの肩から手を離した。大丈夫。たとえ、立っていること自体が気力だけであったとしても、このような支えはもう不要だ。
 「力を与え直します。ここから守護聖の皆様にお願いしても……」
 「良い。存分に我らを使え」
 頷いておまえは、胸の前で手を組む。その間私は、おまえからの命にすぐ応えるべく守護聖たちに王立研究院へ集まるようパスハへ連絡をとった。
 「……フェリシアもだわ……どうして?」エリューシオンに続き、フェリシアに対し集まった守護聖たちへ与える力を指示しながら、小さくおまえは呟いた。「ロザリアがこんな勘違い、するわけないのに」
 「それはおまえも同様であろう?」
 目を大きく開いて、おまえは私を見た。
 「それって……誉めてくださって……る?」
 「誉めるも何も、エリューシオンの育成はいたって順調だったではないか」
 そのとき、遊星盤にけたたましい警告音が響いた。
 「ジュリアス!」それはパスハではなく、ディアの声だった。「陛下が……っ!」
 ぎくりとして私は、ふだんはもの静かでたおやか彼女の、跳ね上がった声に応えるべく、応答のボタンを押した。
 「陛下が、どうした」
 「陛下が……女王陛下が、この飛空都市との間の次元回廊を封鎖されました」
 「な……っ!」
 「この新宇宙への影響を食い止めるため……と思われます。それにたぶん……とても体調を崩されているのではないか……と」
 はっとする。
 女王陛下の持つ、それこそが女王のサクリアというものの力に陰りが生じ、こうして女王試験が行われているのだが、その悪しき影響の前ぶれが、女王候補二人を同時に病に伏せさせ、星の望みを示す王立研究院の数値を狂わせたのではないか。
 そして、それらを解決すべく女王陛下は……何もかもひとりで背負おわれようとしている。
 「全部、封じられたのか」
 こういうときのために守護聖がいるというのに、何という無茶を。歯噛みして私は問う。
 「辛うじて、私が行き来するところだけ死守しました」ディアの声が低くなる。「私は陛下のもとへ参ります。どうぞ許してくださいね、ジュリアス」
 「待て、ディア!」
 「いいえ、私は女王補佐官なのです、陛下をお助けするのは当然のこと。でもあなた方はどうか陛下の意を汲んでさしあげて。あなた方守護聖は、新しい宇宙に必要なのですよ! アンジェリークかロザリアかの育む……それなのに」
 「どうした」
 「クラヴィスが一緒に行こうとしています……あなたからも止めてください、ジュリアス!」
 互いの胸のざわめきは、何も、飛空都市や、新宇宙のことだけではなかったと改めて思い知らされる。考えてみれば、もともと我らが宇宙の危機が起因していたのだから。そして、身を挺してそれを守るのは、他でもない……女王陛下であり、かつてのクラヴィスの想い人だった。二人は想い合っていたけれど、彼女は宇宙を救うべく女王になることを選び、それをクラヴィスに伝えたのは私だった。そのうえで守護聖としての自覚を持て、と説教を垂れたのも私だった――そのときの、クラヴィスの落胆と激昂を、私は今でもまざまざと思い出すことができる。
 「私に構うな!」
 そのひとこと以前から、すでに相反する力と考えは少しずつずれ始めていたけれど、『あのこと』は我らの袂を完全に分かつきっかけとなった。
 私情に引きずられてはならない。だから私はクラヴィスを止めるべきだ。
 そう思う一方で、ならば私たち守護聖の役目とは何なのだろうと思う。それこそが、『おまえだけを必要とする者がいるやもしれぬ』と、奇しくも私の口から出た言葉に通ずることではないか、と。
 私は今、私の、そして守護聖たちの力を統べる者――おまえに問うた。
 「アンジェリーク。闇の守護聖の助力なしにエリューシオンとフェリシアを救うことは可能か」
 一連のやりとりをじっと静かに聞いていたおまえは、再び私のほうを振り返ると、深く頷いてみせた。その力強さに、尋ねた私のほうが身震いした。
 「……クラヴィス」
 無言ではあったが、通信装置の向こうにいる、その気配を感じ取った。
 「止めたところで止まるものでもあるまい……行け。行って」一呼吸置いて、私は続けた。「我らに代わり、陛下をお助けすべく力を尽くせ」
 応えはないと思った。だが。
 「……わかった」
 わだかまりが、少し薄らいだ気がした。
 他の者は待機、陛下のご意志を無駄にするなと言うと、私は再びおまえの命に従い、各々の守護聖へ育成の指示を与えていった。
 与えつつ、思う。
 これは、もしかしたら……と。

作品名:天使への遺言 作家名:飛空都市の八月