天使への遺言
「でも……私、ここでがんばっててもいいんですよね?」目線を自分の足下へ落としたものの、笑んだままおまえは言う。「だって、あの大陸の人たちは、私を必要としてくれているかもしれないんですよね?」
ああ、と私が頷くと、おまえは神妙な面持ちになって続けた。
「だったら、やっぱりがんばります。誰かが私を必要としてくれているのなら。でも」
ちらりと、おまえは私のほうを上目遣いに見た。
「ジュリアス様?」
「何だ」
「もしも……万が一……私が女王様になったら」
「え?」
「ご褒美に、私のお願いを聞いてくださいます?」
「な……!」
何をたわけたことを申している、と声を上げかけて私は、まだ周囲に何人もの民がいることに気づき、慌ててそれを呑み込んで咳払いした後、改めて言いたかったことを告げた。
「何をたわけたことを申している!」
「だって」私の叱咤に首をすくめながらもおまえは、唇をとがらせたまま続ける。「だって、何かご褒美があると思ったら、がんばる意欲も湧くじゃないですか……ほらたとえば、馬の鼻先にぶら下げるニンジンみたいな」
大きくため息をついて私は、この、無礼極まりない女王候補になり代わり、陛下の像へ一礼すると、きょとんとした表情で私を見ているおまえに言った。
「いったい、おまえは女王試験を何と心得ているのだ? それに……」
「はい?」
「私は、ニンジンか?」
「……あ」
ようやく拙いことを言ったと気づいたのだろう。だが私は、慌てて何か申し開きを言おうとするおまえを遮った。
「私だけではない、おまえ如きの戯言の例に挙げられた、馬に対しても失礼だ」