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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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天使への遺言

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 その翌日。
 午前、午後ともおまえは私の執務室を訪れたが、いずれもノックをして、しおらしい様子で入ってくるので、おまえには悪いが、私は少々笑いを噛み殺すことに苦労した。しかも午後は至極全うな質問をした後、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて去ろうとするので、こちらから、一息いれないかと申し入れてみた。すると、それでなくとも大きな目を、なおも大きく見開いた後、おまえは顔を綻ばせて再び椅子に座った。
 良い笑顔だ、と思った。
 側仕えが茶の用意をする間、私は執務机の引き出しから細長い箱を取り出すと、それをおまえに渡した。
 開けて良いかと尋ねるので、私は頷いた。
 「わっ……羽根ペン!」
 「気に入っていたようだからな」
 それは実のところ、私にとっては詫びのようなものではあったが、詫びの言葉自体を言うのはやめた。詫びれば、おまえが私の『苦手』な「不作法な女性」だと認めたことになるからだ。
 苦手では、ないからな。
 一方、おまえは顔を赤くしている。昨日の話題に出たものが渡されたので驚いたのだろう。
 「こ、これでチャラになんかなりませんからねっ」
 焦った様子でおまえが言う。
 「『チャラ』?」
 「わ……私が女王になったら、ちゃんと欲しいものを言いますからね!」
 相変わらず……不作法ではあるがな。
 「わかっているとも」
 笑いながら私が答えると、ますますおまえの顔が赤くなった。

作品名:天使への遺言 作家名:飛空都市の八月