天使への遺言
その翌日。
午前、午後ともおまえは私の執務室を訪れたが、いずれもノックをして、しおらしい様子で入ってくるので、おまえには悪いが、私は少々笑いを噛み殺すことに苦労した。しかも午後は至極全うな質問をした後、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて去ろうとするので、こちらから、一息いれないかと申し入れてみた。すると、それでなくとも大きな目を、なおも大きく見開いた後、おまえは顔を綻ばせて再び椅子に座った。
良い笑顔だ、と思った。
側仕えが茶の用意をする間、私は執務机の引き出しから細長い箱を取り出すと、それをおまえに渡した。
開けて良いかと尋ねるので、私は頷いた。
「わっ……羽根ペン!」
「気に入っていたようだからな」
それは実のところ、私にとっては詫びのようなものではあったが、詫びの言葉自体を言うのはやめた。詫びれば、おまえが私の『苦手』な「不作法な女性」だと認めたことになるからだ。
苦手では、ないからな。
一方、おまえは顔を赤くしている。昨日の話題に出たものが渡されたので驚いたのだろう。
「こ、これでチャラになんかなりませんからねっ」
焦った様子でおまえが言う。
「『チャラ』?」
「わ……私が女王になったら、ちゃんと欲しいものを言いますからね!」
相変わらず……不作法ではあるがな。
「わかっているとも」
笑いながら私が答えると、ますますおまえの顔が赤くなった。